ニールの明日

第二百二十六話

「もうすぐワープゾーンだぞ。刹那」
 ニール・ディランディがモニター越しに刹那・F・セイエイに語り掛ける。
『――ああ』
「何だよ。黙っちまって」
『――胸騒ぎがする』
「何だよ。また、『宇宙は死のにおいがする』――か? 悪いけど、俺は聞かんぜ」
『違うんだ、ニール――』
「じゃあ何だよ。――そろそろだ。準備しときな」
 ――その時だった。
 何者かがダブルオーライザーの弱点を撃ち抜いた。
「な……」
 そして――ダブルオーライザーは動きを停止した。

「あーはっはっはっ! ざまぁ見ろ!」
 ダブルオーライザーを撃ち抜いたスナイパーは高笑いをした。
『ヒリング……もういいか?』
「リヴァイヴったら……もう少しいい気分に浸らせてくれないかなぁ……」
 ヒリング・ケアが唇を尖らせる。
『でも、こんな辺鄙なところで張っていた甲斐があったな』
「――退屈だったけどね」
『そうだな。今からリボンズに連絡だ』
 リヴァイヴ・リバイバルがタッチパネルに指を躍らす。
『ご苦労だった。二人とも』
「それだけー? もう、リボンズったら」
 ヒリングが言う。
 ――でも、そういうところが好きなんだけどね。
『ヒリングにリヴァイヴ、すぐに帰投しろ。後始末は別の者にやらせる』
「はぁい」
『――了解』

 ――ニールは、奇妙なところで目を覚ました。
(何だ? この金属片……)
 でも、その金属片はどこか温かかった。
(ニール……)
(刹那か……無事だったのか?)
(ああ、ELS達のおかげでな)
(ELS?)
 聞いたこともない単語だった。イノベイターになってから、ニールは不思議な体験を山としている。それもイノベイターというものの宿命か。
(Extraterrestrial Livingmetal Shapeshifter.日本語では地球外変異性金属体と呼ばれているそうだ)
(その金属に、俺もお前も助けられたのかい?)
(ああ、そうだ――礼でも言っとけ)
(わかった――ありがとう)
 その時、喜びの感情がニールの中に飛び込んできた。
 ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ――。ELS達はそう歌っているようだった。
 そういえば、アレルヤのもうひとつの人格もハレルヤと言ったな――。アレルヤ達は無事だろうか。ニールはそう思いながら意識を手放そうとする。
 おやすみ、ニール・ディランディ。
 ――ELS達はそう言っているようだった。君に会えて嬉しい、とも。
 おう――俺も、お前らに会えて、嬉しいぜ。そして、今度こそ、ニールの意識は暗闇に落ちていった――。

「ニール、起きんかい」
 聞き覚えのある声がする。これは、えーと……イアンのおやっさんではなくて――ちょっと似てるけど。
 パチッとニールは瞼を開けた。
「おお、ニール……無事じゃったか」
「え、え……ここは……」
 ニールは動転した。Dr.ランスが目の前にいたからだ。じゃあ、ここは――あの始まりの場所? しかし、ニールはそれどころではなかった。金属片が体を覆っている。
 何だ? ここは。どうして俺はここにいる?
「あー、君達もご苦労じゃった。えーと、金属片くん」
 ランスの言葉にニールは吹き出す。
「ELSですよ。ランス」
「ああ、そうかいそうかい。このELSとやらがお前らを救ったんだ。もう離れてもいいぞ――」
 しかし、ELSはぴくりとも動かない。
「――嫌だとさ。ELSはよっぽどお前さん方が気に入ったらしい」
「金属に気にいられてもな――」
 嬉しくないこともないが、ニールはわざと毒づく。刹那に気に入られる方が嬉しい。
「ところで、ランスはELSの言いたいことがわかるのかい」
「わしだって長年生きている。いろんな体験をしたからなぁ……喋る金属は初めて見たが」
「喋る金属って――このELSの声が聞こえるのか?」
「まぁな。わしだって伊達に七十年も生きていない」
「七十歳だったのか――もっと若く見えたぜ、ランス」
「ふん。世辞はいい。おお、君の相棒も目を覚ましたようだぞ」
「――ニール……」
 刹那の声がした。ニールの心臓がどくん、と鳴った。刹那が無事――か。今はそれだけでいい。刹那も自分も無事だった。他に何を望むことがあろう。――ニールは言った。
「刹那……」
「ニール……顔が見たい……」
「でも、ELSが……」
 その時、ELSがわっとニールの体から離れた。ニールは刹那のところへ向かう。――ニールも刹那もCBの制服を着ていた。
「ELSが、お前さん達を救ったんじゃ。後、ガンダムもな」
「そうだ! ガンダムがどこにあるかわかりますか?!」
 ランスの言葉による刹那の態度の急変に、俺よりガンダムかよ――と、ニールはつい拗ねそうになった。
「ELSが修理して連れて来たよ。あの鉄屑をな」
「ダブルオーライザーは鉄屑じゃない」
「ふん――だが、まぁ、君らに比べれば、ダブルオーライザーとELSの相性はばっちりじゃったみたいだぞ。同じ金属の仲間として」
「ELS――彼らにお礼がしたい……」
 刹那が言った。そして、間があった。刹那は続ける。
「……自分達と仲良くしてくれればそれでいいって」
「金属の友達か――」
「俺らだって、外宇宙では化け物だろうさ。むしろELSの方が普通かもしれないぞ、ニール」
 刹那がニールに説教をする。
「はぁはぁ。わかりましたよ。刹那教授どの」
 ニールは笑顔で頷いた。
「ELSは俺らとダブルオーライザーの恩人だ」
 ニールにも、ELSの喜びの感情が伝わって来るようだった。言葉がなくとも、存在と存在は分かり合える。――むしろ、言葉などない方がわかり合えるのかもしれない。ELS達は純粋にニール達のことを想っている。
 刹那も嬉しそうに笑う。綺麗だ――ニールはそう思った。
「君が刹那くんじゃね」
 ランスが訊いた。
「はい。初めまして。――Dr.ランス」
「ふん。わしは今まで何人もの患者の命を落としたやぶ医者じゃがな。それでも、アンタに『ドクター』と言われるのは嬉しいね」
 ランスは照れ屋なんだな、とニールは思った。それに、ランスはやぶ医者なんかじゃない。患者の命を落としたことはあるかもしれないが、それ以上に、人々の命を救っている。
 俺は、あのじいさんに何度も命を助けてもらったんだ――ジョーがまるで自慢するように言った。そんな患者に恵まれているランスは幸せかもしれぬ。
 それにしても、振り出しに戻った感があった。ゲームで言うなら、『強くてニューゲーム』だな、とニールは思った。

2017.12.27

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