ニールの明日

第二百九十四話

 ニール達がティータイムを頼んでいた時だった。――急に仕事が入った。スメラギ・李・ノリエガが端末越しに言った。
「ニール、刹那、アレルヤ、ティエリア、ライル、沙慈――宇宙海賊がまた出たわ」
 やれやれ、今度もネズミ狩りか――ニールはうんざりしながら立ち上がる。最高の紅茶を飲んでいた時をわざわざ見計らったように登場してこなくてもいいだろうに。
 ニールは紅茶も好きだ。コーヒーも。どちらにも魅惑的な香りがある。
「すぐに行って! 今回はキャプテン・クックも出るそうよ!」
「――キャプテン・クック~? なんだ。話だけの人物じゃなかったのか」
 宇宙海賊のキャプテン・クックと言えば、絶大なカリスマと強さを持っていると言う話だ。
「ま、取り敢えず行くわ。ミス・スメラギ。ご苦労様」
「あら、それはこっちの台詞よ。働くのはあなた達の方なんだから」
「まぁ、そりゃね。――おい、行くぞ。刹那」
「……了解」
 ニールの呼びかけに刹那が答えた。
「アレルヤもティエリアもだぞ」
 アレルヤとティエリアも同じ部屋にいたのだ。――ベルベットも。
「うん、すぐ行くよ」
「……仕方ないね。――ベルベット。ちょっと行ってくる。君はいい子にして待ってるんだよ」
「とうさま、かあさま……」
 ベルベットが心細そうに言った。ニールがベルベットの頭を撫でた。すぐに戻って来る――そう伝えようとして。ベルベットは平行世界のアレルヤとティエリアの娘だが、ニールにとっても小さな友達のようなものだ。
「べる、いいこにおるすばんしてるの」
「それがいい。行こう。ニール。……いつもベルベットをあやしてくれてありがとう」
 ティエリアが礼を言った。ニールは微笑んで、「おう」と答えた。

「ダブルオーライザー、刹那・F・セイエイ」
「ニール・ディランディ」
「出る!」
 宇宙空間に出撃すると、ターゲットはすぐに見つかった。宇宙海賊『シャーク』。リボンズ・アルマークがいなくなった今、CBにとっての最強の敵だ。しかも、伝説の存在、キャプテン・クックが出るなんて――。
『シャーク』の宇宙戦艦が発砲する。ダブルオーライザー達は素早く避けた。
 沙慈・クロスロードの操るガンダムエクシアからはGNバルカンが。いくつかの砲台を破壊した。
『ひゅー。やるねぇ、お坊ちゃん。昔はあんなに弱っちそうな外見してたのに、今はすっかり男の顔じゃないか』
 ライルが言った。
『こりゃ、お兄さんも頑張んなきゃな――』
『無茶はしないでくれよ。ライル。あいつらを殺すのが仕事じゃないんだ』
 刹那の声。ニールは黙ってライルと刹那のやり取りを聞いている。
『わかってますって。あのメインの砲台を撃ち抜けばいいんだな』
『ああ――あの砲台の弱点もわかっている。……頼んだぞ。ライル』
「俺からも頼む。ライル」
 ニールも刹那に続いて言った。
『任せときな! 狙い撃つぜ……』
 ドオオオン!
 ライルとケルディムガンダムが一際大きい砲台を爆破させる。ライルも成長したな。――ニールは双子の弟の攻撃に、密かに舌を巻いた。そして叫ぶ。
「ライル、戦艦のエンジンを狙い撃て!」
『わかってるよ、兄さん』
 そう快諾した後、ライルは戦艦に銃を向けた。その時だった。
『お前の相手は私だ』
 低い声が轟いた。もしかして、キャプテン・クックだろうか。一機のMSが登場する。かなり金をかけていそうなMSだ。
『我が名はキャプテン・クック。それ以上俺の機に近づくなら、お相手願う』
「だってよ。どうする刹那」
『応じるしかないだろう』
「オーライ。お前さんだったらそう言うと思ってたぜ」
 刹那とニールが操るダブルオーライザーは、キャプテン・クックのMSと干戈を交える。
「かなりやるじゃねぇか……」
『お前らこそ』
「あ、聞こえてたのか――次はない。刹那、行くぞ」
『ああ、トランザ――』
『――何をしている!』
 どこからか電波が飛んで来た。ニールのモニターもそれを捉える。――宇宙市場のオーナーだった。
『ロディ……?』
『……兄さん?』
 宇宙海賊のキャプテン・クックが、宇宙市場のオーナー、ロディ・コンクエストの兄だったと言うのだ。これにはニールもびっくりした。
(物語ならベタな展開だったろうがな――)
 まさかこんな展開が本当にあるなんて――。
『――兄さん。話がある』
 間を置いてから、ロディが言った。キャプテン・クックは、自らの率いる宇宙戦艦に帰るよう命じた。だが、彼自身はここに残るらしい。
『ニール……トレミーに兄さんを案内してくれないか? それとも、トレミー以外の場所の方がいいか?』
 ロディの言葉に、ニールは答えた。
「キャプテン・クックとはいずれナシをつけたかった。トレミーで決着をつけられるなら、異存はない」
『ああ、頼む。――全く、クリスマスの忙しい時期だってのに……』
『済まない。ロディ』
 キャプテン・クックも弟には頭が上がらないらしい。不謹慎とは思いながらも、ニールはその様子を面白く聞いていた。片や、宇宙海賊。片や宇宙市場のオーナー。何があったか知らないが、運命のいたずらか。
(にーるおにいちゃま)
 ベルベットの声が聞こえる。ニールは脳量子波で応対した。
(何だ? ベル)
(きゃぷてん・くっくさん、わるいひとではないの)
(わかってるよ。あのロディの兄さんだもんな――)
(あのね、にーるおにいちゃま。ろでぃおにいちゃまにね、いま、かんがえていることがあるんだって。せかいじゅうの――ううん。うちゅうじゅうのそんざいにぷれぜんととどけたいんだって)
「そっか――)
(それには、きゃぷてん・くっくさんのちからがひつようなの)
(ロディがそう言ったのかい?)
(ううん。べるがかんがえたこと。きゃぷてん・くっくさんにさんたさんになってもらうの)
(――ベル、お前、天才じゃねぇか?)
(ちがうの。てんさいはりひちゃまなの)
(ふぅん。クリスが聞いたら喜ぶな)
(でね、べるもおてつだいしたいの。――きゃぷてん・くっくさんにおねがいしたいの)
(そうだな。――俺が説得したやるよ)
「キャプテン・クック」
 ニールが声を張り上げた。
「もうすぐクリスマスだ。俺達も一旦休戦と行こうじゃねぇか。トレミーに来い。それから――ベルベットがアンタに頼みごとがあるんだと」
『頼み事?』
「宇宙市場の品物を世界中……いや、宇宙中の子供達に分け与えるんだ。アンタ達にそれを手伝ってもらいたい」
(そうだろ? ベル)
(そうなの――べるがいいたいこといってくれて、ありがとう、にーるおにいちゃま)
『クリスマスか――』
 キャプテン・クックの表情が和んだ。
『俺もロディも、クリスマスはいつも楽しみだったな。よし、その話、乗ろう!』
(やったぁ――!)
 ベルベットのはしゃぐ声が聞こえる。その前に、まずキャプテン・クックをトレミーに招待しよう。――彼の本当の名は、アドリアン・コンクエストと言うものだそうだ。ロディも、快くベルベットのアイディアに協力してくれることになった。
 十二月二十五日――イノベイターの子供達の喜ぶ声が、続々脳量子波で届いた。イノベイター以外の子供達からも――。
「良かったわね。アドリアンさん。もう宇宙海賊からは足を洗わない?」
 スメラギ・李・ノリエガが言った。アドリアンも賛成して、彼は、弟のロディの手伝いをすることにした。キャプテン・クックがいなくなって、宇宙海賊『シャーク』は解散した。閑話休題。
 クリスマス休暇にニール達は地上に戻っていた。すっかりニールにとってお馴染みとなった経済特区・日本でも雪が降っていた。――メリークリスマス!

2020.01.03

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