ニールの明日

第ニ話

話上手で気さくなニール・ディランディは、たちまち人を魅了した。ハンサムなのにそれを鼻にかけないいい奴、ということで、コロニー開発部の人気者になってしまった。
(ここは居心地がいい)
だが、刹那のことを考えると、ここに長居するわけにはいかなかった。
(刹那…)
ぽん、と丸めた雑誌に頭を叩かれた。
「てっ、…って、何だよ、ジョーか」
「おまえ、ぼーっとしてたぞ。恋か?」
「まあね」
「教えてくれ。どんな奴だ?」
「美少年だな」
「…おいおい。アンタあっちの方か?」
「よせよ。好きになったのがたまたま男だったというだけの話だ」
言いながらも、ニールは相好を崩すのを止められない。
「そうか、良かった。俺も女の方が良いからな。俺も貴重な飲み友達をこんなところで失いたくはない。で、その、アンタの心を奪った美少年てのはどこにいるんだ?」
「知らん」
「知らんて、おまえ…」
「一緒に戦った仲間だが…連絡の取りようがない」
「それで地上に行くのか」
「ああ…」
ソレスタル・ビーイングを捜し出して、刹那の居所を吐かせる。それがニールの取り敢えずの目標だった。
(尤も、みんな無事でいるかどうかわからんがな)
アレルヤ・ハプティズム、ティエリア・アーデ。マイスターズとして共に戦ってきた仲間だ。その中でも、刹那・F・セイエイは別格だった。
会いたい…。みんなに…刹那に…。
「おまえがいなくなったら、泣く奴はいっぱいいるな」
「すぐに慣れるさ」
「いやあ、俺は好みの問題で言わないだけで、おまえを性の対象として見ている奴はいっぱいいるんだぜ。こんなむさ苦しい野郎ばかりのところではな」
「ふん…俺の恋人は刹那だけだ」
「それまでは随分遊んできたように見えるが?」
ニールは薄く笑った。否定はしない。
「まあ、それだけの見目形だ。女とも散々やったろ」
「まあな。でも、俺には刹那だけだ」
「世の女が聞いたら悔しがるな。俺はライバルが減っていいけども」
「面白いことを言うな、ジョー」
「明日は皆で出ていくところを見送ってやるよ」
「すまんな」
「かてぇことはなし!俺達、ダチだろ!」
「ああ…」
「今日は楽しく飲もうぜ!」
そう言って、ジョーはぐいっとニールの腕を引っ張った。
ニールの怪我は驚くほど早いスピードで治って行った。
「信じられん…」
とは、目を見開いた医師ランスの言。
もう少しここにいても良かったんだけど、何となく身の危険を察知したニールは、早く地上へ戻ることにした。ランスも案ずる小型艇で。
「死ぬなよ…」
とランスは言った。ニールは、「ああ」と返した。
刹那に会わない限り、死ねない。
じゃあ、刹那に会ったら死んでもいいのか、と問われたら、返事に困るところだが。

その頃。
刹那は何かの気配を感じて振り返った。
「どうした?」
と、ティエリアがきく。
「いや…」
と刹那は答える。
どっどっと血が逆流するようだ。
そんなはずはない。死んだロックオンの気配がするなどとは。
「どうした、刹那」
ティエリアが背中を撫でてくれる。
「何でもない…」
ロックオン・ストラトスことニール・ディランディの遺体はまだ見つかっていない。
そして…刹那がニールの気配を感じたのは事実。
刹那はある結論に達した。
ニール・ディランディはまだ生きているのではないかと。
(ロックオン…生きているなら出てきてくれ…!)
「刹那、おいっ、刹那…大丈夫か!」
ティエリアが刹那に必死で呼び掛ける。
「…旅に出る」
「…は?」
早くロックオンに…ニールに会わなければ…。
「刹那・F・セイエイ。君の言動はいつも突飛だ」
「すまない。…ここを頼む」
「刹那!」
無駄と知りつつ、ティエリアが叫ぶ。ティエリアも本当は知っているのだろう。止めても無駄だということを。
(ニール、今すぐ会いたい…!)
刹那の頭にはそれしかなかった。

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