ニールの明日

第七十二話

ニールは、ガンダムの機体に乗り込んだまま草むらに隠れていた。
(今頃エクシアは……刹那はどうしているだろうか)
尤も、むざむざ敵さんにやられる刹那ではない。彼はそんなにやわではない。
ティエリアの乗るセラヴィーガンダムはチームトリニティと共にアレルヤ奪還に向かっている。ニールと刹那に課された仕事は、見張りの敵をできるだけ多く引き付け……
(破壊することだ)
けれど、それはCBに戻ると決めた時から覚悟していたことだから。
(この機体……ケルディムガンダムに恥じない仕事するぜ……イアンのおやっさん……!)
そして、ニールはケルディムガンダムを目の当たりにした時のことを思い出していた。

「おやっさん、これは……」
「おまえさんの新しいガンダムだよ。さっき、整備が終わった」
目の前の威風堂々とした、緑を基調としたスナイパータイプのガンダムを見てニールは息を飲んだ。
「デュナメスに似ているな……」
「ああ。基本のデザインはデュナメスだからな」
「何と言う名だ」
「ケルディムだ。ケルディムガンダム。デュナメスと同型だからすぐに慣れるはずだ」
「…………」
ニールは、涙を一筋流した。デュナメスが戻ってきたようで……。
「壊すなよ。といっても無理な相談かな。まあ、これはデュナメスより頑丈にできているし……どうした?ニール」
「ありがとう。おやっさん」
「いいってことよ。俺はおまえが帰ってくることを信じてたからな」
そう言って、イアンは顔をくしゃくしゃにして笑った……。

エクシアから狼煙が上がった。狼煙、といってもただの照明弾だが。
ニールは物思いから覚めた。
「さあ、仕事だぜ相棒」
ニールはケルディムに設置されたハロの丸い頭を撫でた。
『任せて、任せて』
ハロは電子音で答える。
アロウズ軍の最初の一隊が来た。
「狙い撃つぜ……」
攻撃は見事成功。空に大きな火花が舞い、敵のMSの破片が飛び散った。
(見てたか、刹那)
今、こうしてアレルヤ奪還の際にも、ニールは刹那に心の底で呼びかけるのを忘れない。勿論、
(無事でいろよ、アレルヤ……!)
と、祈ることもするが。
アレルヤの心配をするのはティエリアの役目だ。
次々とMSを狙い撃つ。敵は空中に散華した。
「おい、ハロ!相手はどのぐらいいる!」
『1、2、3、4……タクサン、タクサン』
「ちっきしょ、誰だよ、ハロにこんなアバウトな数え方教えたのは」
『ジョウダン、ジョウダン』
ニールはがくっとコケた。
「……あのなぁ、ハロ。頼むから真面目にやってくれ」
『ワカッタ、ワカッタ』
「でも、おかげで緊張が解けたぜ。……狙い撃つぜ!」
右目がきかなくなっても、ニールの射撃の正確さには変わりはない。しかし……。
「数が多いな。ビリーめ、本当に揉み消したんだろうな」
ビリーに文句を言っても詮ない繰り言とはわかっていたが、愚痴のひとつでも言ってやらないと気が収まらない。
「もう一度きくぞ、ハロ。敵さんは何機だ?」
『三十機、三十機』
「そうか、よし、狙い撃つぜ!」
敵MSの放ったビーム砲がケルディムガンダムを掠めた。それを敏捷に避ける。
「ちっ、ここも限界か!」
ニールがその場を去ろうとした時、空中にエクシアの勇姿が現れた。
「刹那……!」
(ニール……!)
ニールには、確かに刹那が己を呼んだ気がした。
(いや、絶対呼んだ!)
もう隠れていても仕方がない。ニールはエクシアの援護射撃を引き受けた。
エクシアが懐に入ってきた敵をGNソードで薙ぎ払う。ケルディムとエクシアは敵のアタックを巧にかわし、息の合った連携プレイで次々と対手のMSを倒していく。
(さすがは刹那だぜ!)
しかし……だんだんしんどくなってくる。
「くそぅ……!アロウズめ、ますます増えてねぇか?!」
それは気のせいではなかった。相手側の援軍が飛んできたのだ。
「くそっ!これじゃきりがねぇぜ!」
敵をやっつけるのに夢中になるニール……。
次の瞬間、ニールは見た……いや、感じた。エクシアが被弾したのを。
「刹那ぁぁぁぁぁ!!」
ケルディムガンダムはアロウズの軍隊に狙われたエクシアを庇うように抱きしめた。
ボォン!
ケルディムも相手方からのビーム砲を受けた。
『四時方向カラ被弾!四時方向カラ被弾!』
ケルディムとエクシアは抱き合ったままバランスを崩し……近くの海面目指して落ちて行った。ニールにはハロの声も途切れ途切れにしか聴こえない。
『ニール、ニール……』
「エクシア……刹那……」
ニールは呟くと暗闇に意識を飛ばした。

2013.7.27


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