ニールの明日

第七十七話

 太陽が燦々と輝いている。
 ニールと刹那は晩御飯の魚を釣っていた。
「ほら、引いてるぞ、刹那!」
 ニールは刹那を手伝っていた。
「でかいぞ!」
 水面からばしゃあっと魚が姿を現した。
「よっしゃあ!」
 ここは南国のせいか派手な色の魚が多い。
「さぁ、十分釣れたぞ!」
『ワーイ、オサカナ、オサカナ』
「今日はこのぐらいにしておこう。……どうした、刹那」
「いや……魚を釣ったことは殆どなかったんで……釣りというのは面白いものだな」
「帰ったらまた教えてやる。どうだ?」
「いいな」
 連絡を取りたい相手がいる、というので、刹那はその場を離れた。
 明日になったらトレミーに戻る。迎えが来る。
 それまで南の島の生活を堪能しておこうとニールは思った。
 腕を頭の後ろで組んでついうとうととしていた時、刹那が帰ってきた。
「よぉ、お帰り、刹那」
「――グレンとダシルと話をしてきた。ジョシュアも元気だそうだ」
「そうか。良かった」
「それから……アレルヤが助かったことを言ったら二人とも喜んでくれていた」
「あいつらは仲間思いだもんな――マリナ姫はどうしてる?」
「どうって……」
「おまえ、あのお姫様のこと好きなんじゃないのか?」
 刹那はすとんとニールのそばに座る。
「そうだな。俺はマリナが好きだ。嫌いになる理由もないだろ?」
「へぇ」
 ニールは鼻を鳴らした。
「拗ねるなよ。ニール」
「別に拗ねてなんか……」
 刹那がニールの唇にキスをした。
「愛している。ニール」
「な……今日は積極的だな、おまえ」
 しかし、ニールはドキドキして嬉しくなっているのが自分でもわかった。
「刹那。晩飯が済んだらロビンソン・クルーソーの小屋へ行こう」
「前に住んでいた男はそんな名前だったのか?」
「いや、俺が勝手に名づけた」
「ふぅん」
「嫌?」
「別に……」
「正直に言えよ。嬉しいって」
「ニール」
 刹那がニールと視線を合わせた。
「俺は……おまえが生きていることを神に感謝する」
 それから小声で付け足した。
「……もっとも、俺は神様なんて信じないがな。おまえやジョシュア見てると、神の手が働いていることを信じている」
「刹那……」
 ニールは触れるだけのキスを刹那にした。
「……魚焼こうぜ、刹那」

 浜辺にパチパチとたき火がはぜる。
 ニールは一口、魚を口に入れて苦い顔をした。
「これ、生焼けだ」
「がっつくからだろ」
 刹那はとりあってくれない。
『オイシイ? オイシイ?』
 ハロが訊く。
「ハロも食べれればいいのにな」
 刹那の台詞を聞いて、ニールは笑った。
「生焼けの魚をか?」
「……じっくり炙れ」
 そして、頃合いに焼けたと思う一匹の魚を刹那は口元に持って行った。
 まるで――振って湧いたような夏休みだ。
 明日からはまた、ガンダムマイスターとしての日常が始まる。人殺しも辞さないような……。
(この間の戦闘で、何人の人が死んだことだろう……)
 散華するモビルスーツ。殺らなければ殺られる。そんな弱肉強食の世界に戻っていくのだ。
(まぁ、戦いは嫌いではないが……)
「一匹残ったぞ」
「いいよ。食べな」
 ニールは最後の魚を食べる権利を刹那に譲った。
 焚火の火を消すと、ニールが名づけた『ロビンソン・クルーソーの小屋』に二人とハロは向かって行った。
 ニールは刹那の体を求める。
「あ……ニール、ニール……」
 刹那の体が火照る。ニールは刹那の体を情欲のままに楽しんだ。昨日とはまた違う快感が得られる。
「刹那、刹那……!」
 二人は上り詰める。そして――何度も何度も頂点に達してはまた落ちる。その繰り返しを味わっていた。
 彼らが思う存分愛し合っている時、ハロは彼らの寝室の隣の部屋で沈思黙考(?)していた。
 寝物語にニールは言った。
「なぁ、刹那……マリナ姫のこと、どう思う?」
「またそれか……」
「俺よりも、好きか?」
 ニールの鼓動は早くなった。
「比較はできない。確かにマリナは好きだけど」
「じゃあ俺は?」
「さっきも言ったろ。――愛してる」
「刹那……!」
「マリナはアザディスタンの王宮へ帰ったそうだ。――おい、何してる」
「またやりたくなった」
「……仕方のない男だ」
 だが、満更でもない表情で刹那が溜息を吐いた。

 刹那の寝顔を見ていたら、いつの間にか朝が来ていた。
「おい、刹那、起きろ」
「ん……」
 刹那が眠い目を擦った。そんな子供みたいな仕草も可愛いと思う。
「そろそろ来るんじゃないかな。トレミーの奴らが」
 ニールと刹那が浜辺で迎えを待っていると――。
 波の音と共にクルーザーがやってきた。クルーザーの尖端で派手な水着を着たスメラギ・李・ノリエガが仁王立ちで高笑いをしていた。
「おーっほっほっほっ!」

2013.9.23

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