ニールの明日

~間奏曲5~または第七十五話

時は遡ってアレルヤ奪還の夜。
五機のガンダムがアレルヤの捕らえられている場所へと向かっていた。
ティエリアのセラヴィーガンダム、アレルヤ用に造られたアリオスガンダムには、今はライル・ディランディが搭乗している。更にその後方からはチームトリニティ。ガンダムスローネツヴァイ、ガンダムスローネドライ、そして、ガンダムスローネアイン。
危なげなく進んでいるアリオスガンダムを見てティエリアは、
(ライル・ディランディとアリオスガンダムの相性は悪くないようだな)
と思った。
でも、アリオスガンダムをライルに渡す訳にはいかない。あれはアレルヤのものなのだから。
目的地に着くと、セラヴィーガンダムが拳で建物に穴を開けた。ヨハン・トリニティがガンダムスローネアインでセラヴィーガンダムの護衛を買って出た。
(食えない奴らだが……今は味方は多い方がいい)
小数精鋭を是とするティエリアだが、アレルヤ奪還を失敗することは許されない。
烏合の衆に紛れて、ティエリアはガンダムから単身降り立った。
(頼んだぞ、ヨハン)
アレルヤのいる場所はすぐに捜し当てることができた。鉄格子のついた部屋の中で、アレルヤはぐったりとしている。
「何て酷いことを!」
ティエリアは眼鏡の奥の目をかっと開いた。
鍵を壊すと、ティエリアはアレルヤに駆け寄り脈を取った。
「何とか生きてるようだな」
だが、アリオスガンダムを操れる状態ではないようだ。
「今助けるからな。アレルヤ」
ティエリアはアレルヤの体を担いだ。拍子抜けるほど軽くなっている。
(アロウズめ……許さない!)
ティエリアがアレルヤを担いだまま急いで廊下を渡っていると……。
銀髪の少女が現れた。
「待て!そいつをどこに連れていく!」
相手は銃を構えていた。
アレルヤが微かに身じろぎをしたように思えた。
「う……あ、頭が……」
少女は頭を抱えた。構えが崩れる。チャンスだ!
ティエリアは少女に対して麻酔銃を打った。少女は倒れた。
(心配ない……しばらく眠っているだけだ)
ティエリアは自分に言い聞かせたが良心が咎めた。
(アロウズめ!アロウズめアロウズめアロウズめ!)
ティエリアの心はアロウズへの敵愾心で埋まっていった。
「マ、リー……」
アレルヤが何か言いたそうだったが、ティエリアは気づかない。
ティエリアはセラヴィーガンダムのコックピットへアレルヤを乗せた。
ガンダムのコックピットは基本一人乗りだ。だが、アレルヤと一緒なら多少窮屈でも嫌ではない、とティエリアは思った。神経質だったティエリアが、である。
「ライル!ライル・ディランディ!」
「どうした?!ティエリア!」
「また君に力を貸して欲しい!アリオスガンダムは帰りも君が操縦しろ!」
「なんだ……俺はまたてっきり……」
「てっきり……何だ?」ティエリアのこめかみを冷たい汗が走る。
「カタロンの仲間達を逃がしたことを怒っているのかと思った」
「……どうしてそんな余計なことを」
「大丈夫。みんなゲリラ戦には慣れてるから、牢さえ破ってしまえばこっちのもんさ」
「そういう問題ではなくてだなぁ……おい!」
「ティエリア!」
ヨハンの映像が飛び込んできた。
「どうした!ヨハン!」
「飽きたミハエルとネーナが……逃げ惑う人々を殺して遊んでいる」
「すぐにやめさせろ!君の命令なら聞くだろう?!彼らなら」
「わかった」
ティエリアはいらいらと歯噛みした。どうしてどいつもこいつも問題ばかり起こすんだ!
しばらくして、刹那・F・セイエイの無表情な顔がコックピットに現れた。映像が乱れている。
「ティエリア……」
「君まで何だ!」
ティエリアの声は尖っていた。
「エクシアもケルディムも……被弾した……。悪い……」
このニュースはかえって苛ついていたティエリアをクールダウンさせる効果があった。
「……君らは無事か?」
「ああ。ニールもきっと大丈夫だ。光が俺達を護っている……」
「光?」
ティエリアが柳眉をひそめた。
「それに……俺にはニールが死んだ気がしない。……一方的で悪いがもう通信を切っていいか?」
「ああ。……無事でいろ。そうだ、アレルヤ奪還は成功したぞ。後はアレルヤの回復力次第だ」
「そうか……良かった……少し……眠い……」
気になる言葉を残して、刹那の映像は切れた。
光だと?まさかお迎えではないだろうな。眠いと言っていたから、寝ぼけてるのか?
それにしてもニールと刹那め、我々を置いて死んだりしたら許さんぞ!アレルヤもだ!
そして、もし一人でも失うことがあれば、俺は俺を許さない!
ティエリアは己に言い聞かせる。それは彼なりの意志の表れだった。

セラヴィーガンダムの前方をアリオスガンダムが飛んでいる。
(あれは……キュリオス……)
コックピットの画面に映ったアリオスガンダムを事情の知らないアレルヤがキュリオスと勘違いしたのも無理はなかった。
傍らには、恋人ティエリアの真剣な横顔。
(あれは確かにマリーだった……)
マリーがどうしてアロウズにいるのかは知らない。だが、ティエリアにきく訳にはいかない。ティエリアも知らないだろうし、それに……彼にやきもちを妬かれても困る。マリーはアレルヤの初恋の人だったのだから。
それに、多分ティエリアは捕われの身だった己を助けてくれたのだ。
「ありがとう、ティエ、リア……」
意識が暗黒に呑まれる前に、
「愛している。アレルヤ……」
と、少し哀しげなティエリアの声が降ってきたような気がした。

2013.9.3


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