ニールの明日

第七十話

ニール、刹那、スメラギの乗った機体は無事トレミーに帰投した。
「スメラギさん……!」
フェルトがそう言って絶句した。話に聞いていても驚いたのであろう。
スメラギはバツが悪そうに、
「ただいま、フェルト……みんな」
と、遠慮がちに片手を上げた。
「スメラギさーん!」
と、クリスが抱き着いた。
「お帰りなさい、スメラギさん」
「よう、生きてたのか」
「会いたかったぜ。スメラギ」
リヒティ、イアン、ラッセが次々にスメラギを歓迎する。
「スメラギ・李・ノリエガ!」
ティエリアが些か大きな声で彼女の名を呼ぶ。
「ティエリア……今まで留守にしててごめんなさい」
「それはいい。僕の立てた戦術プランを貴女に見て欲しい。貴女は専門家だから」
「……わかったわ」
ティエリアはスメラギをせきたてて行った。
「なーに?あの女」
その場に居合わせていたネーナが不満そうに鼻を鳴らした。
「――いい女だぜ」
「ミハ兄!」
ネーナがミハエルをきつく睨めつける。
「いやっ、ネーナには敵わないけどな」
「ふんだ」
 ヨハンが刹那達に振り向いて喋る。
「刹那、ニール。確か我々もあの女には会ったことがあるな」
「ああ。スメラギ・李・ノリエガ。CBの戦術予報士。そして……」
刹那の台詞をニールが引き継いだ。
「俺達の仲間だ」
「…………」
ヨハンが不思議そうにニールを見た。
「どうしたの?ヨハン兄」
訳のありそうな沈黙にネーナが心配そうに尋ねる。
「いや。ずいぶん仲間思いなんだなと思ってな」
「当たり前だろ?」
「……俺の仲間はミハエルとネーナしかいないなと思ってな」
「それでいいじゃねぇか、兄貴!」
「ヨハン兄!それのどこが不満なのよ!」
ミハエルとネーナは畳み掛ける。
「いや。不満などない。ただ、アレルヤ・ハプティズムという男の為にこんなに人が動くとはな……。いや、他意がある訳ではない。珍しいものを見るような思いでな」
ニールはぎくりとした。アレルヤが心配ではない訳ではない。ただ、そこには少し邪まな感情が混じっているのではないか……。
(アレルヤを助け出せば、俺は刹那を抱ける)
それは刹那にとっても失礼な気持ちであったのだが、ニールはそう思うことを止めることができなかった。一番純粋にアレルヤに会いたいと願っているのはもしかしたらティエリアであったかもしれない。
その時。
(ロックオン……)
アレルヤの優しい声が頭に響いた。
(アレルヤ!)
気のせいだったかもしれない。……いいや、確かに聴こえた。ニールは心の中でアレルヤを呼んだ。
アレルヤ……俺は……俺もやはりおまえのことが心配だ。俺は邪念ばかりの男だが……それでもおまえさんには無事でいて欲しい。おまえを想う気持ちは、ティエリアには負けるがな。
アレルヤが笑ったような気がした。顔が見える訳ではなかったが、何となくそんな気がした。それは理屈ではない。

「みんな、ブリーフィングルームへ集合よ」
スメラギがやって来て召集をかけた。
「おっ、ずいぶん早かったな」
イアンが真っ先に向かう。
「ティエリアが立てたプランを基にして私がほんの少し修正を加えたの。私がいなくても彼なら立派な戦術予報士になれるわ」
スメラギは興奮でぼうっとしている。
「でも、まだミス・スメラギには敵わないだろう」
ニールが苦笑する。
「ええ。だからこれから育てていくつもりよ」
「アレルヤ救出作戦か?……俺達も同席していいだろうか」
ヨハンが頼むと、
「うん、そうね……いいわよ。ただし、条件があるわ。絶対に敵側に寝返らないこと」
「無論だ」
ヨハンが頷く。
「信用ないのね、あたし達」
ネーナが呟く。ヨハンがたしなめた。
「当たり前だろう。嘘発見機にかけられないだけマシだと思え」
「はーい」
ネーナは気のない返事をするとヨハンの後について行った。
ブリーフィングルームには既にティエリアとライル、マックスが待っていた。
「アーデさーん」
「すみません、遅くなりまして」
ミレイナとアニューがやってくる。
トレミーの主な乗組員達が集まった。まだ赤子のリヒターを除いて。
「このプランはマックス・ウェインの情報が正確であることを前提として作られた。スメラギ・李・ノリエガ」
「はい」
スメラギはてきぱきと矢継ぎ早に指示を出した。突然で悪いが参加をしたいと表明したトリニティ兄妹には、ティエリアの後方支援を頼んだ。
ニールはスクリーンを見て眉をひそめた。
「しかし……この作戦だとティエリアに負担がかかって来ないか?チーム・トリニティがいるとはいえ」
「承知の上だ。それに……」
ティエリアは一拍置いてから続けた。
「アレルヤを一番に助けるのは僕だ」
スメラギがテーブルを叩いた。
「さあ!夜陰に乗じてGO!よ」

2013.7.6


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