ニールの明日

第九話

「見てくれ、ロックオン!僕はアレルヤに会えたぞ!」
眼鏡の奥でルビー色の瞳をきらきら輝かせたティエリアの隣に、右目を隠した深緑色の髪に銀色の瞳をした穏やかそうな青年、ティエリアの恋人アレルヤ・ハプティズムがいた。
(ああ、良かったな、ティエリア……)
ニールは戦友のアレルヤに手を伸ばそうとした……。

がくんっ!
体に衝撃が走る。
ああ、エアポケットにでも入ったのかな、などとニールは暢気に構えていた。
キャビンアテンダントが顔色を変えて皆に避難の指示を出す。救命用具の使い方を懸命に説明しているが、彼女自身がまず動転している為、要領を得ない。もう少ししっかりした、先輩格と思われる女性が後を引き継ぐ。飛行機の中は大騒ぎになった。
機体がエンジントラブルを起こしたらしい。
ニールは旧型飛行機のエコノミークラスに乗っていた。王留美からもらった小切手には手をつけていない。あれは刹那のものでもあるのだから。
特にあてがある訳でもなかったが、刹那の生まれ故郷を見に行きたかったのだ。たとえ、刹那がそこにはいないとわかっていても。
刹那に早く会いたいのは勿論だ。だが、王家で刹那への手がかりが一旦途絶えた。だとしたら、少しでも刹那に関係のあるところへ行きたいと思うのは人情ではないか。少なくともニールはそう思っていた。
飛行機の高度が下がっていく。
もう駄目か。
せっかく助かった命なのに。
焦りはないが、心残りはある。
(刹那……)
ニールは思わず祈るように手を組んで恋人の名を呼んだ。
(ニール……)
不意に刹那に抱き留められたような気がした。
飛行機は砂漠の中に不時着した。
(刹那、一体……)
取り敢えず機体から出なければ……。
ニールが最後に見たのは大きな炎の柱だった。
ああ、ソドムを焼き尽くした火だ……。ニールは訳もなくそう思った。
そこで、ニールの意識が途切れた。

「セツナ」
刹那の仲間の少年が呼んだ。
「何だ?」
「うわあ、刹那の笑った顔、初めて見た」
「そうか?」
「そうだよ、いつもはもっと暗い顔してるもん」
(ロックオンが助かった夢を見た。この手で抱きしめた夢を見た)
それだけで救われた気持ちになる刹那であった。

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