ニールの明日

第十話

ぴしゃんっ!
頬にかかった冷たさでニールは意識を取り戻した。
(水……?)
「起きろ」
青年になりかけの少年の声だ。その声の主の姿を見て、ニールは一瞬息を飲んだ。
(刹那!)
褐色の肌。鋭い眼光。金色の目。ベールから覗く黒い髪は長く垂らしている。
だが、別人だ。刹那だったら紅色の瞳のはず。それに、刹那といる時のときめきがない。
けれど似ている。顔立ちといい、背格好といい、雰囲気といい。声もどこか似ている。
「もう少し遅れていたら危なかったな」
強い日差しの照り付ける砂漠の中である。少年がそう言うのも無理はない。
「この水はあんたが?」
ニールが頬を拭った。
「ああ。それから、失礼だとは思ったが、手荷物を調べさせてもらった。ニール・ディランディ。白紙の小切手を持っている割には、金持ちという感じがしないな」
少年は流暢な英語で喋った。
「あれは刹那の分でもあるから」
ニールが答えた。
「セツナ……?」
「俺の半身だ」
ニールは堂々と宣言した。そのことに関する恥も照れも、最早ない。
「あんたに少し似ている」
ニールは少年を指差した。
「そうか……俺はグレン。ただのグレンだ。俺達の部族には名字がない」
グレンが名乗った。
「この先にオアシスがある。行こう」
「待て。ずいぶん英語が堪能なようだが?」
「捕虜になった時に覚えた。逃げてきたがな」
グレンは低く笑った。
「おまえはまだ若いんだろう?それなのに捕虜になってたなんて」
何か戦争に関することでもしていたのだろうか。そうとも限らないか――いや、この少年には、戦う者だけが身につけている独特のオーラがある。
刹那も若くしてガンダムマイスターだった。年は関係ない。ニールは心の中で付け加えた。
「ああ。まだ言ってなかったな。俺達はゲリラ兵だ。俺も一隊を任されている」
そう言ったグレンが些か得意そうに見えたのは気のせいだったろうか。

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