ニールの明日

第十四話

「で、おまえはソレスタルビーイングの狙撃手だったのだな?」
ダシルの案内でグレン達はそこそこ立派な食堂に着いた。テーブルに着くとグレンは早速話題に入った。
ニールはきょろきょろ辺りを見回した。
(敵は……いなさそうだな)
「どうした?何をそわそわしてる」
「いや、その……俺のいた組織の話をしていきなり銃をつきつけられたりしないかなあって」
「……それは俺に対する当てつけか?」
「わかるか?」
ニールは肘をついて薄く笑った。グレンは言った。
「安心していい。この街の人間は大抵が仲間だ。……スパイ以外はな。もしかしておまえがそれだったりしてな」
「……今のは仕返しか?」
「そう思っていい」
グレンも微笑した。そうすると驚くほど刹那に似ている。
(可愛い……)
刹那、浮気する訳じゃないからな。
一緒にいて、体中幸福感に包まれる相手は少ない。それに、刹那は別格だ。同じ空間にいると、心が満たされて、でも、もっと相手と近付きたくなる。満たされているくせに、相手への飢えを感じる。会いたい、会いたい……。
「どうした?ぼーっとして」
グレンの声で現実に引き戻された。
「ああ、すまんすまん」
ニールはこうなったら腹を割って話そうと思った。
「単刀直入に言おう。……俺達はガンダムマイスターだった」
「ガンダム?」
グレンが目を丸くした。
「ああ、あのでっかい鉄クズか」
「……今の話、刹那にしたら怒られるぜ」
なんせ、ガンダムを神聖視してるんだからな、あいつは。ニールは苦笑した。
ダシルは黙って山羊の乳を飲みながら話の行く末を見守っている。
「で?ガンダムというのは何機あるんだ?」
「四機。その他にも三機ある。いや、あった、と言った方が正しいかな」
「何だ?その他って言うのは」
「トリニティ兄弟の操るガンダムだ。擬似太陽炉を搭載している。でも、あんなものは偽物だ。本物のガンダムは俺達四人のだ」
「ガンダムマイスターは四人なのか?」
「ああ。俺と刹那、アレルヤとティエリア」
「アレルヤ……向こうの国じゃ神を讃える言葉だな」
「現在行方不明だ」
「そうか……」
「ティエリアも不安らしく、俺にこんな物を寄越した」
ニールは手荷物から端末を取り出した。
「そいつは男か?」
「男だ。しかしかなり別嬪の」
「セツナとやらは?」
「気になるか?大丈夫だって。ティエリアはアレルヤといい仲だからさ」
ニールがウィンクした。
「一応聞く。セツナと言うのは男か?」
「ああ、男だ」
「半身と言っていたな……寝たことは?」
「……たくさん」
ニールは思い巡らして思い出せない、と言うように降参のポーズを取る。
「おまえもガンダムで戦ってたのか」
「ああ、ガンダムデュナメスと言う機体に乗ってな」
「ガンダムデュナメス……どこかで聞いたことがあるな」
グレンがトントンと指でテーブルを叩いた。
「思い出した。噂を耳にしたことがある。銃を扱わせたら右に出る者はいないんだってな」
ニールは口笛を吹く。そして続けた。
「俺達も有名になったもんだな。しかも、最高の褒め言葉じゃねぇか、それは」
グレンが何か言いたそうにしている。やがて意を決したように彼は口を開いた。
「ニール、俺達の仲間にならないか。ちょうど腕の良い狙撃手が欲しかったんだ」
真剣な顔でグレンが頼んだ。
「悪いが刹那に会うまでは、はっきりした答えは出せない。それに、ガンダムがある限り、刹那はまたソレスタルビーイングに戻るだろう。おまえらだって、見捨てられない仲間とかあるだろう?」
「ああ」
ダシルの顔を見て、グレンは頷いた。
「今度は俺がきく番だ。おまえさん達は本当にこの国を変えたいのか?」
ニールが質問した。
「ああ。そして、祖国を取り戻す」
祖国を取り戻す……?
グレンの言葉に、ニールの頭の中で何かが引っ掛かった。
クルジス!
突然、その国の名が降ってきた。
グレンはクルジスの人間なのか?
刹那の故郷もクルジスだった。
同じ国の人間同士、刹那とグレンが似ているのは無理もないか。ニールは納得した。

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