ニールの明日

第十五話

「人の顔をじろじろ見てどうした?」
グレンは秀麗な眉をひそめた。
「グレン、おまえクルジス人なのか?」
ニールが尋ねる。
「そうだが……言ってなかったか?」
「いや……今初めて聞いた」
「グレン様はクルジス人だったご両親が亡くなられた後、長老に引き取られたんですよ」
「ダシル」
グレンの厳しい声にダシルは首を縮めた。
「ダシルもか」
「ダシルは違う……こいつはクルジスとアザディスタンのハーフだ」
「親を亡くしたというのが一緒でしたから、俺達はすぐ仲良くなったんですよ。そうですよね、グレン様」
ダシルはグレンに向かって小首を傾げる。
「ダシル……『様』付けはやめろといつも言ってるだろう」
「でも、グレン様は俺達の隊長だし」
「それはそうだが……俺とおまえは対等だ」
グレンが言った。
グレンはきっといい隊長なのだろうと思った。ダシルだけでなく、彼のことを慕っている部下は多かろう。
「あんたはクルジスの為に戦っているんだな?」
念の為にニールがきいた。
「そうだ」
グレンが頷いた。
「……気が変わった。あんたらに協力してもいい」
「本当か?」
グレンの瞳が見開かれた。
「ああ。ただし、刹那が見つかるまでだ」
「大歓迎だ。ニール」
「ただし、刹那が見つかったら、俺はソレスタルビーイングに戻るかもしれんぞ」
「構わない。おまえ……いや、おまえらがソレスタルビーイングに戻れば、この地域には手心を加えてくれるだろう」
「だが、俺はおまえの部下にはならんぞ」
「それでいい。俺達の隊では全員に自由を保障している。ニール、おまえにもだ。……犯罪行為以外は許してやる」
「グレン様の隊は、統率が取れていることで有名なんです」
ダシルが自慢した。グレンがダシルに対して頷いた後、ニールに向かって手を差し出した。
「ニール、おまえが来るなら、我々はいつでも歓迎する」
「ありがとう」
ニールはグレンと握手をした。
「交渉成立だな」
グレンが嬉しそうに握手した手に力を込めた。
「しかし、あらかじめおまえの銃の腕も見てみたい。ダシル、的を用意してくれ」
「わかりました!」
ダシルは早速、円形の的を用意してくれた。
暑い戸外に人が集まり始めていた。
ニールはグレンに渡された銃を見た。それはさっき自分達に向けられた銃だった。
ニールは狙いを定める。
「狙い撃つぜ……」
ニールは自分の口癖を呟いた。
的とニールの間には距離がある。だが、彼には自信があった。
引き金を引く。軽快な音と共に弾が発射される。
弾は的の真ん中を射抜いた。
ギャラリー達は拍手をしたり口笛を吹いたりした。
「よくやった、ニール!」
グレンが肩を叩いてくれた。
「おまえは新しい仲間だ。その代わり、と言っては何だが、セツナのことも仲間に調べさせる」
「そいつは願ってもない」
実はつい先程まで、ゲリラ兵と同盟を結んだことを時間のロスかな、とちらと思っていた。それでも仲間になったのは……クルジスを取り戻す、という目的が心にかなったこと、そして、家族を亡くした彼らに親近感を持ったということ。
でも、グレン達は刹那を探してくれると言った。グレンは約束は守る。そう信じている。率直だし、勇気もある。刹那に似ている、とニールは思った。仲間になったのは、案外そんな理由もあったからかもしれない。
グレンが刹那に似てたから……。
(ごめんな、刹那)
何となく後ろめたくて、ニールは刹那に心の中で謝った。
けれど、刹那がニールの半身であることには変わりはない。時期が来たら運命が引き合わせてくれる。ニールは久しぶりに、自然の流れに身を任せようと思った。

→次へ

目次/HOME