ニールの明日

第十三話

「グレン様!」
「止めるな、ダシル」
グレンが叫んだ。
「こいつらは……ソレスタルビーイングは多くの同胞の命を奪ったテロリストだ!」
確かに、戦闘の巻き添えを食った人々もたくさんいたであろう。特に、小国と呼ばれる国には。ソレスタルビーイングのせいで命を落とした者はたくさんいる。
ティエリアも、
「見方を変えれば我々もテロリストだ」
と言っていた。
武力による戦争根絶。
それが如何に胡散臭く見えることかも、ニールは知っていた。
でも、ニールには戦う理由があった。世界を変えたかったから。
(まさかテロリストを憎む俺がテロリスト呼ばわりされるとは思わなかったなぁ……知り合ったばかりの奴に)
「何を言う、グレン!おまえだってゲリラ兵だろうが!」
モレノの腹から出た声がびぃんと響く。
「俺はこの国を変えたくて戦っている」
「あー、それじゃ俺とおんなじだ」
のんびりとニールが口を挟んだ。
「俺もこの世界を変えたくて戦っていた」
「……ニール、あんたもか?」
「ああ。こんな世界は俺は嫌だね」
(俺は……嫌だね)
以前、瀕死の状態で呟いた台詞を今もまた、するっと口から出てきた。
「……話し合いの余地がありそうだな」
グレンが銃を納めた。
「グレン様……」
ダシルは明らかにほっとしたようだった。
「何だ。おまえさん、話わかるでねぇの」
「俺だってただ闇雲に人を殺したりする訳ではない」
グレンが眉間に皺を寄せた。
「それに、あんたら二人殺すことなど造作もない。いつでもできる」
「俺は銃がなくたって、護身術は使えるぜ。必要ならばおまえさんを殺すことだって可能だ」
「私は何もできんぞ。単なる医者だからな」
グレンの言葉にニールとモレノが口々に答える。
「まあいい。特にモレノ。あんたを殺すといろいろ厄介なことになりそうだ。あんたみたいな腕のいい医者を死なすのは勿体ないからな」
「そりゃどうも」
モレノは苦笑した。
「今は帰る。来い、ニール。ダシル、案内を」
「はいっ!」
「俺を連れて行くのか?」
「話をききたい」
俺の方があんたの話をききたいんだがな。
だが、ニールは黙っていた。下手に刺激してまた銃を出されたら堪らない。こっちは丸腰なのだ。いくら体術に長けていても、やはりニールはスナイパーなのだった。
(やはり俺には銃がないと)
あの銃、欲しいな。ニールはグレンの銃を所望した。
あいつに銃も用意してもらっておけば良かった。ニールは船で会ったかつての仲間を思い出す。
だが、うっかりそんなものを携行していて、荷物をあらためられた時に見つかったりでもしていたら……ニールは不審人物としてグレン達の捕虜になっていたかもしれない。場合によっては死ぬことも……。
だが、刹那と会うまでは死ねない死にたくない。刹那をこの腕で抱きしめてやりたい。いくらグレンが刹那そっくりだとはいえ、ニールの魂が望むのは、刹那であった。心が、体が刹那を求めてやまない。せっかく助かったこの命、一度は死んだようなものだが、どうせなら愛しい者の為に散らしてやりたい。
(刹那……今、どこで何してる?)
俺と同じ空の下にいるのだろうか。そうだったらいい。
(刹那、会いたい……)
病院に患者が運ばれてきた。
「おまえ達は邪魔だ。あっちに行っていてくれ」
モレノが邪険に言った。けれど、その声音には愛情がある。優しいこの男は、さぞ患者から慕われていることだろう。名医の条件は技術だけではないのだ。
邪魔しちゃ悪いな。
「行くぞ」
グレンが踵を返す。
「また会おうな、ロックオン」
モレノが言うのを、ニールは背中で聞いていた。

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