ニールの明日

第十六話

『刹那へ
元気か。俺は元気だ。
今もまたこうやっておまえに出す宛てのない手紙を綴っている。
俺はグレン達の仲間になった。気のいい奴らで、ボブやジョーと過ごした時間を思い出す。
特に、グレンとダシルとは仲良くなった。
ダシルは最初、大人しい奴かな、と思ったが、なかなかどうして。薬草を一生懸命探したり、銃創を治したりしている。大した奴だ。
グレンはおまえに似ている。外見も中身も。会ったら驚くかもな。確かおまえと同い年だ。けれど兵達はみんなグレンに心酔しているようだった。
ティエリアからは端末で連絡がついた時、
「ようやく居場所を突き止めたと思ったら、ゲリラ兵と共闘だって?!全く、貴方は馬鹿なんですから」
と呆れられたっけ。
この砂漠の夕日は見事だ。早くおまえと一緒に見たい。会いたい』
「何書いてるんだ?ニール」
もじゃもじゃ茶髪のペレツが覗き込んだ。
「恋人へのラブレターさ」
「……セツナか」
「ご名答」
ニールは笑ってウィンクした。
ニールは刹那のことを隠していない。一度男に手を出されそうになったことがあってから、
「俺には恋人がいるんだからな」
と、事あるごとにアピールしている。ニールの良き仲間になった皆は、今ではニールの恋を応援している。
「ニール、もう日が沈む」
グレンが教えに来た。
「ほんとか?!」
ニールは手紙を適当に仕舞い、天幕を出た。
彼らは二人で夕日を見る。
「いつ見てもすごいな」
「ああ」
砂漠に沈み行く夕日を見る度、ニールは大自然に抱かれるような錯覚を覚える。
「に、ニール、ニール!」
ユウが走ってきた。
「どうした?ユウ」
「ビンガが……数日前にセツナらしき人を見たって!」
「何っ?!」
思わず声が鋭くなった。
「刹那の顔を知ってるのか?!」
「いや。ただ彼の仲間と思しき人間が『セツナ』って言うのを聞いたって……隊長に似てるって話にもぴったりだし」
「そうか……で、どこにいた?」
「クラナの森」
「そこか……」
ニールは考える顔になった。
クラナの森はここから五キロほど離れている。そう遠くはない。だが、見たのが数日前なら、もうどこかへ移動している可能性が高い。そのセツナが、本当にニールの探している『刹那・F・セイエイ』であるかどうかもわからない。
だが、ニールは信じた。刹那はこの近くにいる。
希望が繋がった!
「グレン……」
ニールは思わず見遣った。
「行ってこい、ニール」
グレンはニールを元気づけるように肩を叩いた。
グレンともお別れか……刹那に会ったら……。
「いや、俺はまだここにいるよ。不確定情報だしな」
「何でだ。セツナに会いたくないのか?」
「刹那とは運命が引き合わせてくれるさ……取り敢えず、今は無駄足を踏みたくない。今まで俺は動き回り過ぎていた」
そのおかげでモレノにも会えたがね、とニールは心の中で呟いた。
「ニール……わかった。おまえには世話になっている。今度は俺があんたに協力する番だ」
ニールは何人もの敵兵を倒している。良心が疼かないでもなかったが。ガンダムに乗っていた時も人は殺している。
俺は無実ではない。その手は血に塗れている。だが、復讐は果たしたかった。
今では気も済んだ。もう自分の幸せを考えてもいい頃だ。
だが、ニールはこの地を立ち去りたくなくなっていた。それが危険な兆候であることも、彼は知っていた。
(情が移っちまった……)
ずっとここにいたい。できれば、刹那と二人で。
彼らが黙っていると……。
「敵襲だ!」
切羽詰まった声が飛んだ。
ニールとグレンは念の為携行していたライフルを構えた。

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