ニールの明日

第十七話

「……今日は次から次へと」
グレンが呟いたのをニールは聴いた。グレンは今度は大声で尋ねた。
「どこが襲われた!」
「ワリスの隊です!」
 早馬の伝令が答えた。
「わかった!今行く!」
グレンは大声で叫ぶと戦闘準備を手早く終えた。
天幕の傍に繋いであった馬に話しかける。
「これからまた戦闘だ。がんばってくれるな?」
馬は返事の代わりに、ぶるるる、と鳴いた。
「よし!オリバー、行くぞ」
戒めを解くと、グレンはオリバーにひらりと飛び乗り駆けて行った。
「……仕様がないやっちゃな」
ニールはがしがしと頭を掻いた。茶色の長めの髪が指に絡み付く。
「誰か、馬を貸してくれ」
「はっ」
ニールもグレンの後を追った。
「ニール……」
追いついたニールにグレンは思わず相手の名を口にしていた。
「しっ」
ニールが『静かに』のジェスチャーをする。
「待てるな、オリバー…そっちの馬はプラウダだったな」
囁くように言ってからグレンは二頭の馬の首をそれぞれ抱き抱えて撫でさする。
「行ってくる」
「俺も!」
「手伝ってくれるか?ニール」
「ああ、だって俺達は仲間だろ?」
「じゃあ、来い!」
ワリスの隊の天幕からは火の手が上がっている。敵はまだその場所を蹂躙している。
ワリス達の基地は割と大きなところである。ワリスも善戦していた。
「汚れた民族はみんな聖絶しろ!」
指導者格と思われる男が指示を出す。
「あの男を殺る」
グレンが小声で囁く。
「俺が囮になるから、あんたは物陰に回って狙い撃ってくれ」
グレンにもニールの口癖がうつってしまったようだった。ニールは苦笑を禁じ得ない。
「了解」
ニールは素早く隠れた。ライフルを担いだまま移動する。
グレンが攻撃を敵将に仕掛けた。ところが、敵もさる者。容易にグレンを近づけさせない。それも計算のうちだが。
「……狙い撃つぜ」
ニールが照準を合わせた。敵もその部下も、グレン達に気を取られてニールに気付いていない。
ニールは引き金を引いた。
弾は敵将の頭を射抜いた。
「……ひぃっ!」
相手は悲鳴と血飛沫を上げながら倒れた。
指導者がやられて烏合の衆と化した敵軍は退散をし始めた。

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