ニールの明日

第十八話

「よく来てくれた!グレン!ニール!」
ワリスが改めて出迎えてくれた。
彼には一度会ったことがある。陽気で気さくな人物だと思った。
だが、今はさすがに憔悴しているようだ。
「災難だったな、ワリス」
「ああ。仲間も何人か死んだよ。火傷した奴らもいる」
焦げ臭い臭いがあちこちに充満している。
ワリスの悲しげな視線が、死者に対する手向けだった。
「それにしても、方向音痴なグレンがよくここまでたどり着いたな」
ワリスが話題を変えようと、心安だてにグレンに話しかける。
「オリバーは一度通った道は忘れない。人語も解すしなそれに」
グレンはニールの方を見た。
「ニールがいたからな」
「おまえを一人で行かせたら、ダシルに叱られるもんな」
「ダシルはそんなことでは怒らない。懐が深いんだ」
ニールに対して、グレンが弁護をする。ニールは思わずにやにや顔になった。
「とにかく、よくやった。今日はここに泊まっていけ。幸いちょっと焦げただけの天幕があるから」
ワリスの誘いにグレンとニールは顔を見合わせた。
「どうする、ニール」
「……行こう」
今日は飲みたい気分なんだが、とワリスが言った。その気持ちはわからないでもない。
「でも、飲みたくても飲めない奴らがいるからな、せめて死体には後で酒でもかけとくよ」
ワリスの赤ら顔の裏には涙が隠れているようだった。
「グレン様!」
「おお、ダシル」
「ご無事だったんですね、良かった。道に迷わなかったかと」
「おまえらはそんな心配ばかりするな」
「俺も戦いに参加したかったです。ひどいですよ。みんな俺を置いていってしまうなんて」
「ダシル!」
グレンは相手の手を取った。
「おまえは医者になるんだろう?この手は人を生かす手だ。汚れ仕事は俺達だけでいい。身を守る戦い以外にこの手は使うな」
「グレン様……」
「いずれ、モレノの弟子になるんだろう?あの男はソレスタルビーイングだったが、腕は超一流だ。がんばって俺達の傷を治してくれ」
「けれど俺、銃を取って戦わなくちゃならない時もありますよ。綺麗事ばかり言ってられないし」
「正当防衛なら仕方がない。だが、それ以外は俺達に任せてくれ。……ダシル、おまえは俺が守る」
「……はい!」
お見事!という他なかった。ニールは密かに拍手をした。
「言っておくがニール、おまえやモレノを赦した訳ではない」
後ろ姿でグレンが言った。
「けれど……おまえ達のおかげで、ソレスタルビーイングもそう悪い奴らだけでないのも知ることができた」
グレンが振り向く。彼の笑顔を自分の左目は確かに見たとニールは思った。
「ダシル、仕事だぞ!
負傷者の手当てをしてくれ!」
グレンの命令に、
「わかりました!」
と、ダシルが勢い良く答えた。

「……ん?」
「どうした、セツナ」
色の浅黒い青年が独特のイントネーションで尋ねた。
「……何でも」
刹那は軽く首を横に振った。
(今、ニールが近くにいるような気がした……)
だが、それすらも気のせいかもしれない。刹那は黙ってジープに乗り込んだ。
荒野をジープが滑って行く。綺麗な星空を見上げながら、刹那は明日はいい日になるように願った。
……どこかにいるかもしれない、ニール・ディランディの為にも。

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