ニールの明日

第十一話

「ダシル、ダシルはいないか?」
グレンが呼ばわると、
「はい、おそばに!」
とまだ髭も生えていない十代も前半くらいの少年が来た。短い髪が活発な印象を与える。髪が黒なら目も黒だ。
「ダシル、客人だ。案内してくれ」
「わかりました。いつもの場所ですね」
「頼んだぞ」
グレンの物言いには、人に命令し慣れている驕慢さが混じっている。だが、声音で、この少年に心を許しているのがわかった。
「こっちです」
ダシルは彼らの前を行く。
「俺は方向音痴でな、ダシルがいないと目の前のオアシスにも辿り着けない」
「へぇ……」
グレンの意外な一面を見たような気がした。
でも、方向音痴のゲリラ兵ってどうよ?
「不可解って顔をしているな」
グレンはニールの心を読んだようだ。
「俺とダシルは二人でひとつなんだ」
つまり、一心同体って訳か。恋人ではなさそうだが。むしろ、仲の良い友人か兄弟のようだった。
「羨ましいな、グレン。そんな相手と一緒にいられることが」
ニールは独白した。
「俺とグレン様は離れ離れになったってわかりますよ」
ダシルは得意そうだ。グレンが言った。
「ニールにも半身がいるだろう?まさか死に別れたとか?」
「いいや。刹那は生きている。死んだことにされてたのは俺の方だ」
「お……俺達よりもハードな運命だったのですね」
ダシルは目を見開いた。
「聞きそびれていたが、右目の眼帯はどうした」
グレンがとんとんとこめかみを叩いた。
「名誉の負傷さ」
「おまえ、仕事は何だ」
「狙撃手だ。こう見えてもいい腕だったんだぜ」
「右目が使えないんじゃ不便だろう?」
「なあに、右目がなくとも敵を狙い撃つことはできるさ」
「でも、医者には一応かかっておいた方がいい。街に医者がいる。Dr.モレノと言うかなりの腕利きだ。俺達も何度となく……」
「何だって?」
グレンの台詞をニールは鋭く遮った。
「モレノだって?」
ニールは聞き返した。
「ああ、ある日ふらっとやってきて、それから俺達の面倒を見てくれたりしている」
ああ、神様……!
「Dr.モレノのところに案内してくれ!彼は以前の俺の仲間なんだ!」

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