ニールの明日

第百四十六話

(アレルヤ……おにいちゃん……アレルヤおにいちゃん……)
(その声は……シャーロットちゃん?!)
(うん。アレルヤお兄ちゃん、こころをよんでもいいっていったから――)
 確かにそんな意味のことを言ったが、まさか本気にするとは――。アレルヤは頭を抱えたくなった。
 自分はいいが、あいつが何て言うか――。
(よぉ、シャーロット)
(だれ?! アレルヤおにいちゃんじゃない! あたまのわけめがちがうし、めもちがうし……)
(おれはハレルヤだよ。宜しくな、嬢ちゃん)
(ハレルヤおにいちゃん……)
(シャーロットちゃん……)
(――だいじょうぶだよ。アレルヤおにいちゃん。ハレルヤおにいちゃんいいひとみたい)
(俺がか? これでも人殺しなんだぜ)
 ハレルヤがにやりと笑った。
(うん。でも、アレルヤおにいちゃんのためにやったんでしょ?)
(――アレルヤ、このガキに何か仕込んだか?)
(別に)
(あたし、ガキじゃないもん)
(わかったから、あっちいってな、ガキ)
(んもう)
 シャーロットは出て行った。
(年が若過ぎるな。あいつ。あと十年育ってたら俺が食っちまってたところだったのに)
(君にはできないよ。僕が止めるから)
(ちっ、どいつもこいつも――)
 アレルヤが目を覚ました。
「おはよう、アレルヤ」
「ティエリア……」
 刹那が着替えていた。ニールの姿がない。
「刹那、ニールはどうしたんだい?」
 アレルヤが訊く。
「もう部屋を出て行った」
「――そうか」

 その頃、ニールは――
「おはようございます。オールドマンさん」
 セリ・オールドマンに挨拶をしていた。
「おはよう。ニールくん」
「リボンズに会いたいんだけど」
「なら端末を使ってみたら? 彼も起きている時間だし」
「――そうだな」
「モニター室は空いてますよ」
「ありがとう。俺の端末でもいいんだけど」
「モニター室の機械なら大きな赤いボタンを押せばすぐ繋がりますよ」
「ありがとう。オールドマンさん」
 ニールはモニター室に入る。赤いボタン――とこれか。
「リボンズ」
 少し待っているとリボンズのアップがモニターに映った。
「何だい? 僕は今、夜明けのティータイムを嗜んでいたところだったんだが」
「それは済まない。お願いがある」
「何だ?」
「ニキータとダブルオーライザーを返して欲しい」
「それは僕の一存では決められないな――ニキータがいいと言ったらダブルオーライザーも返してやる」
「――え? いいのか?」
 てっきり反対されると思った。
「ああ、いいとも」
 ティーカップを手にしながらリボンズは甘いマスクに微笑を浮かべた。
「サンキュな」
 ニールは通信を切った。

「誰からだい。リボンズ」
 菫色の髪をくしゃくしゃにして小さく欠伸をしながらリジェネ・レジェッタが現れた。
「ニール・ディランディからだよ。リジェネ」
「何か言ってた?」
「ニキータとダブルオーライザーを返してくれだと」
「そんなの無理に決まってるじゃないか」
「ああ。――だから、『ニキータがいいと言ったらダブルオーライザーも返してやる』と言った」
「へぇ……」
 リジェネはかちゃりと眼鏡をかけた。
「悪い男だね。リボンズ」
「どうしてだい?」
「ニキータがいいという訳ないじゃないか」
「そりゃあね」
 リボンズがふふふ、と含み笑いをした。
「多分、知らぬはニールばかりなり、だよ」

「おーい、刹那! ダブルオーライザーが戻ってくるぜ!」
 部屋に戻るなりニールが刹那を抱き締めた。
「何?! どういうことだ?!」
「ニキータがいいと言ってくれたら俺達はダブルオーライザーでCBに帰れる。ああ、ティエリア、アレルヤ。お前らは適当に帰還してくれ」
「ニール、何を考えている」
「へ?」
「ニキータがいいという訳ないだろう」
「でも、ニキータだってカタロンの基地に帰りたいだろうし――」
 刹那が溜息を吐いた。
「それはお前の考えだ。ニール」
「でも……」
 ニールはテレパシーに切り替えた。
(ニキータちゃんはアリーのことが好きなんだろ? でも、父親と娘の恋じゃ叶う訳ないってニキータちゃんもわかってるだろ?)
(だからお前は馬鹿だと言うんだ。叶わない恋でも、ニキータは絶対アリーの傍にいたがる)
(じゃあそこを説得して――)
(ニール。人に説得されて俺達が愛し合うのを止めると思うか? 『お前らの愛は男同士だから、不毛だ。直ちに止めろ』そう言われて愛するのを止めるか?)
(…………)
 ニールはベッドにどさっと寝転んだ。
「刹那……俺は三国一の馬鹿だ」
「さっさと起きろ。皺になるぞ」
「ちょっと考えたらわかるだろうに……リボンズの策略だな。今頃あいつら笑ってるぜ」
「取り敢えずニキータに話をしよう」
「――だな。一応やってみるか」
「どうしたい? ニール、刹那」
 二人は、何でもない、と同時に言った。そして、こんな時だと言うのにふっと笑った。
 その時、電話が鳴った。朝食の時間だから食堂に来てください、というものだった。

2015.9.26

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