ニールの明日

第百四十七話

「朝飯……だとさ」
 ニールは部屋にいたメンバー、刹那、アレルヤ、ティエリアに告げた。
「俺はモニター室に行ってっから」
「まぁまぁ、ニール。朝食食べてからではダメかい?」
 と、アレルヤ。
「え? いや、ただ――」
「ニール、あまり急いでも仕方ないだろう」
 そうかもな――刹那の言葉にニールは思い直す。その時、ぐ~っとニールの腹が盛大に鳴った。皆くすくす笑った。
「食堂行こうぜ、お前ら」
 ニールが照れ隠しの笑顔を見せながら仲間達に言った。食堂で彼らを待っていたのは豪華な朝食だった。

「このミルフィーユ美味しいね」
「そうか?」と、ティエリアがアレルヤに言う。
「ティエリアの口には合わない?」
「――いや。君の作ったものの方が美味しい、アレルヤ・ハプティズム……」
「ティエリア……」
 ちっ。二人の世界作りやがって。ニールは少し面白くない。――刹那は黙々と食事をしている。
「おにいちゃんたち、おはようございます」
「おー、遅かったな。シャーロット」
「えへへ……ねぼうしたの」
「二度寝したのかい?」
 アレルヤが訊く。
「えへへ……ママには『にどねしちゃいけません』といわれてるんだけどね。ちょっとちゅういされちゃった」
 そう言ってシャーロットは舌を出す。どうしてアレルヤはシャーロットが二度寝したことを知っているのだろう、とニールは疑問に思った。
「なぁ、どうしてアレルヤはシャーロットが二度寝したこと知っているんだ?」
「えへへ……ひみつ」
 シャーロットが笑った。アレルヤとシャーロットの秘密というのもあるのだろう。ニールはそれ以上立ち入らないことにした。
「僕は知っているからな」
 ティエリアが言い、最後のデザートの一口を平らげた。
「あはは……」
 アレルヤが苦笑いをする。
「ほら、ニールさんだよ」
 シャーロットはニールにゆうべ刹那からもらったライオンのぬいぐるみを差し出した。
「ニールだよ。おはよう、おはよう」
 シャーロットはぬいぐるみで顔を隠し裏声で喋った。
「二号が取れたな。ニール」
「ふん……」
「せつなおにいちゃん、ニールさんだいじにするね。だから、せつなおにいちゃんもほんもののニールさんだいじにしてね」
 刹那はニールのにやにや顔を見て、
「――努力する」
 と、答えた。
「今までの人形はどうしたの? シャーロット」
 ニールが一応訊いてみる。
「ミミちゃんとニールさんはなかよしなの。きょうはみんなにニールさんのことおしえるからミミちゃんはお留守番なの」
「――そうかそうか」
 ニールはシャーロット小さい頭を撫でた。シャーロットは満足げに微笑んだ。気が済んだらしいシャーロットは友達のところに走って行った。

「さぁて、ごっそさん。モニター室に行くとするか」
 ニールが立ち上がる。
「リボンズに用か?」
「刹那、お前さんには隠し事はできねぇな。――その通りだよ」
「ニキータは?」
「ああ。リボンズに連絡先を聞いてくる」
「――だな。俺達はニキータの連絡先を知らない」
「モニター室空いてるかな。あ、おーい! オールドマンさん!」
「ああ、ニールくん。何だね?」
「――あの、モニター室は空いてますか?」
「空いてると思うよ。行ってみたらどうかな?」
 モニター室に行くニールに刹那がついてくる。
「ん? どうした? 刹那」
「――俺も行く」
「――おう。別にいいけど」
 モニター室には誰もいなかった。ニールはリボンズの部屋の端末に繋ぐ。
「よぉ、リボンズ。今回はよくも俺を嵌めようとしてくれたな」
 リボンズがそれを聞いて綺麗な眉を顰めた。
「――人聞きの悪い」
「リボンズ。ニキータが俺達の条件を飲むことをしないだろうことは知っていたんだろう?」
 今度は刹那だ。
「――まぁね」
 リボンズも素直に認めた。
「後で俺の馬鹿さ加減を思い出して笑ったりしてたんだろう? ――まぁいい。ニキータの連絡先を俺らは知らない。教えてくれ」
「怒るか頼むかのどちらかにしてくれないか――ニキータの連絡先なら今、君の端末に送ろう。君の端末のナンバーを教えてくれ」
「わかった」
 ニールは自分の端末の番号を諳んじた。 
「オーケー。じゃあ、今度はニキータとそれから僕の端末の番号を教えてあげよう。公的なものではなく、僕のプライベート回線専用のものだ。くれぐれも消さないように」
 リボンズがアルカイックスマイルを浮かべた。
「はいはい。さっさと送ってください。リボンズ様」
 ニールは気のなさそうに言った。
 プルル……とズボンの中の端末が鳴った。
 画面はオフにしてある。メールにはニキータの番号とリボンズの番号が載っていた。
「サンキュー、リボンズ」
「何の。君のようなお人好しを騙すのは僕だって楽しい」
「ちっ」
 ――完全に遊んでやがる。ニールは舌打ちした。それにしても、リボンズはニールにとっても謎めいている。
「リボンズ。気持ちはわかるがニールにはそれが面白くないらしい」
「ああ?! 気持ちはわかるって何だよ。刹那」
「ニール。お前はからかい甲斐がある。直情で、ひたむきで。だから俺はお前が好きなんだ」
「刹那……」
「ニール・ディランディ。刹那・F・セイエイ。二人の世界は僕との話が終わってから築いてくれ」
 リボンズが咳払いをした。そういえば、ニールはさっきはアレルヤとティエリアに対して二人の世界を作って……と苦々しく思っていたではないか。
 俺も人のこたぁ言えねぇな。ニールは茶色の巻き毛を掻き上げた。――リボンズが口を開いた。
「ニール、君はこのモニター室での話は公的文書として記録されているのを知っているか?」
「いいや。知らなかった」
 どうせそんなことだろうと思ってもいたのだが。
「俺は聞かれて困ることは喋ってない」
「ふうん。まぁ、いいけれど。秘密回線に切り替えることもできるが?」
「その前にニキータちゃんと話がしたい」
「じゃあ、こっちから繋いであげようか? そのモニター室で彼女と話ができる。あの娘は今アリーと同じ部屋にいるだろう」
「おう、済まんな」
 ニールは一応礼を言った。と言っても簡素なものだが。

2015.10.6

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