ニールの明日

第百四十話

 ティエリアとアレルヤがこちらを向いた。
「やぁ、ニール」
「お前らも来てたのか」
「ああ。王留美の結婚式と聞いてね。グレンは僕達の仲間だし」
 アレルヤが喋った。
「ティエリアは今回は女装じゃねぇんだな」
 ニールは揶揄するように言った。
「なっ……ニール・ディランディ、破廉恥な! 万死に値する!」
「だって……前のアロウズのパーティーでは女装してたじゃねぇか」
「それとこれとは話が違う」
 そこへ洒落たドレスを着た二人の女性が通りかかった。
「ねぇ、あの紫色の髪の人……」
「男の人の格好してるわよぉ、似合ってるけど」
 女性達の話を聞いて、
「……くそっ!」
 と、ティエリアは毒づいた。ニールとアレルヤが笑った。
「アレルヤ・ハプティズム! 君まで一緒になって笑うな!」
「いやぁ、ごめんごめん。でも、君ならドレスも似合うからなぁ」
「アレルヤ!」
「わぁっ、ごめんってば!」
 ティエリアが拳を振りかざす。皆が注目したのでティエリアは拳を下ろした。
「しかし、随分急だな。本来ならVIPの結婚式なんだからもっと形式をだな――」
「まぁまぁ、形式といえば、CBの当主がゲリラ兵と結婚するということからして形式から外れているんだから――」
 アレルヤはティエリアに言う。そして、「だろ?」というようにニールに向かって首を傾げた。
「うん、そうだな……形式なんちゃらについては俺もよくわかんねぇけど。ところでティエリア、アレルヤ、ガンダムはどうした」
「イアンさんのところに置いてきたよ。僕達は小型艇で来たんだ」
「そうか」
「ところで、ダブルオーライザーはどうなってる?」
 ティエリアの質問に、
「ああ、どうなってるのかな……」
「ニール!」
 ニールの煮え切らない返事にティエリアは柳眉を逆立てた。ニールは戸惑った。
「済まん……それよりもお嬢様とグレンの結婚式の準備に忙しかったもんでな」
「そうだよ。ティエリア。そういうこともあると思うよ」
 アレルヤもフォローに回る。ティエリアは一応頭が冷えたようだった。
「――ミス・スメラギは怒っていたな」
 ニールはぽつんと呟いた。ティエリアが頷いて応えた。
「当たり前だろう。アロウズの肝入りで王留美とグレンが結婚するだなんて胡散臭いにも程がある。一体何を考えているんだ? リボンズは」
「僕がどうしたって?」
「わぁっ!」
 リボンズがやって来て言った。ニールが驚いて間の抜けた声を上げた。
「僕は二人に幸せになって欲しいだけだよ」
 ――なるほど。こういうところが胡散臭いんだな。
 ニールはこっそり思った。リボンズだって下心のひとつやふたつある筈だ。何を企んでいるのだか……。
「ティエリア、アレルヤ、君達も来てくれて嬉しいよ」
「リボンズ。僕は君達を偵察に来た」
 ティエリアははっきり言い切った。ティエリアはこういうヤツなんだよなぁ、とニールは思った。
「そうか。ならゆっくりと偵察したまえ。寝床は用意してあげるから」
 ――何だ? このリボンズの余裕綽々たる様は。
 ニールは不思議に感じたが、
「ニール、こっちに来てくれ」
 と、刹那に呼ばれて、
「はいはーい」
 と答えると、ティエリアの肩を(気にすんな)という風に叩いてその場を後にした。ティエリアはわなわなと体を震わせていたようだった。

 王留美とグレンはキリスト教式の式を挙げることになっている。
 プロテスタントなので牧師が壇上に立った。
 王留美がバージンロードを歩く。エスコートするのは紅龍。彼らの両親はとうに亡くなったからだ。カメラのフラッシュが光る。
 グレンも正装をして眩いくらいの男っぷりだった。
 賛美歌を斉唱し、挙式開始の宣言を行う。
 そして、誓いの言葉。
『新郎グレン、あなたは新婦王留美を病めるときも、健やかなる時も富めるときも、貧しき時も妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?』
「誓います」
 グレンが答えた。
『新婦王留美、あなたは新郎グレンを病めるときも、健やかなる時も富めるときも、貧しき時も夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?』
「誓います」
 王留美が宣言した。
「それでは指輪の交換を」
 シャーロットが指輪を持ってきた。それを牧師へと預ける。
「はい、ありがとう。シャーロットちゃん」
 牧師が笑いかけるとシャーロットは嬉しそうに自分の席へと帰って行った。このバイプレイに一同も和んだ。
 王留美はブライドメイドにブーケや手袋を預ける。
 そして、グレンが牧師から指輪を受け取り、新婦王留美の薬指にはめる。王留美も同様にグレンの指に指輪をはめる。
「それでは誓いのキスを」
 グレンは王留美のヴェールを上げてキスをした。
「グレンおにいちゃま、前にも王留美おねえちゃまとキスしてたの」
 シャーロットが囁くと母親のエンマは「静かになさい!」と叱っていた。ニールは密かに吹き出していた。
 そして、賛美歌斉唱。ブーケトス。
 女性達のブーケの争奪戦からぽろっとブーケがこぼれて刹那の元に。
「ニール」
 刹那がニールにブーケを差し出す。ニールが受け取る。
「おう、ありがとう。――なぁ、知ってるか、刹那」
「何を?」
「この花嫁のブーケな、受け取ったらその人が次に結婚する番なんだってさ」
「ああ……」
「まぁ、俺達には関係ねぇかな。もう結婚してるようなもんだしな」
「ニール……」
 ライスシャワーの中をグレンと王留美が走る。――彼らは用意されてあった車に乗り込む。
 発車すると缶がガランガランと鳴る。
「良かったですねー、グレン様ー!」
 ダシルが大声で叫ぶ。目元に涙が光ったような気がした。グレンの世話係としては感無量であろう。
「しかし、一体どこ行くんだ、あいつら?」
「リボンズが彼らの為に別荘を貸してくれるんだと」
 ニールの質問に刹那は答えた。
「なるほどね。今夜は熱い夜かな」
 ――とニールはにやついた。
「ニールさん、何を考えているか知りませんが今夜は私も泊まります。グレンが妹に手を出すのを許すのは披露宴が終わってからです」
 紅龍がムキになった。
「わかったわかった」
 こんな兄がいたんじゃお嬢様も大変だな、とニールは苦笑した。ま、幸せになれよ。お嬢様。

2015.7.27

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