ニールの明日

第百十三話

 ――制服姿の沙慈・クロスロードとラッセ・アイオンが現れた。
「まぁ……二人とも粋じゃなぁい?」
 クリスが目を瞠った後、笑った。――続いてフェルトも、
「素敵だと思います」
 と言って微笑みを浮かべた。
「あ……ありがとう、ございます……」
「ふん。当然だな」
「何か、ちょっと恥ずかしいな……」
 沙慈は照れていた。
「立派よ。二人とも。まぁ、リヒティには敵わないでしょうけどね。リヒティまだー?」
 クリスは堂々とのろけ、リヒティを呼ばわる。――リヒティが部屋に入ってきた。
「やぁ……」
「リヒティさん……似合ってます」
「お褒めの言葉ありがとう。沙慈」
「でーも、やっぱり一番似合ってるのはリヒティよねー」
 クリスがリヒティの腕を取る。リヒティも沙慈も苦笑した。
「ルイスにも見せたかったな……」
「あーら、ルイスって誰? 恋人?」
 クリスがリヒティの腕に腕を絡ませたまま訊く。
「ええ、まぁ……」
「沙慈。ルイスには、彼女に惚れてる男がいる。せいぜい取られないようにな」
 刹那が忠告する。
「まあ、三角関係?! きゃあ! 大好きよ、そういうの!」
「クリスさん……」
「俺も、興味あるな」
「リヒティさんまで……」
「やめておけ。沙慈が困ってる」
 沙慈に助け舟を出したのはラッセであった。
「何よぉ。もう」
 クリスがむくれる。
「クリス。アンタはとっくに二児の母なんだから、もっと落ち着け」
「はーい」
 ラッセの言葉にクリスが間延びした返事をした。
「うーん。それにしても、女の子達の達の制服姿はいい目の保養になるぜ」
 ライルがにやにやしながら腕を組んだ。
「やっぱりここに来て良かったな。カタロンはむさいのばっかでよぉ。ここじゃ、男も美形だからな」
「それは、刹那のことか?」
 ニールはほんの少し顔を険しくして双子の弟を見遣った。
「教官殿もさ。それに、俺達二人も数に入ってるし♪」
「そ、そうか……」
 ニールは慌てて口の中をもごもごさせた。――ライルが訊いた。
「アニューは?」
「アンタ、本当はアニューの制服姿が目当てでしょう」
「バレたか」
 クリスの言葉に、ライルが舌を出した。
「もうアニューもリンダさんも自分達の制服の縫製終わらせたんじゃないかしら。――アニューが着替えるところも見られるかもよ。ライル」
 クリスがいたずらっぽくにんまりした。ティエリアもどこがツボに来たのだか、ふっと笑った。
「おお、上手い具合にアニューの艶姿を見られたらいいな。じゃ、行ってみよう。またな」
 ライルは部屋を出て行った。ニールも苦笑いをした。
「あいつ……今の言葉本気かね。ところで刹那」
「――何だ?」
「今夜やらないか? 制服プレイ」
 囁くニールに刹那はがんと拳をくれた。
「アイルランドには助平な男しかいないのか!」
「そりゃアイルランドに対する偏見てもんだぜ」
「偏見を生む発言をしたのはどこのどいつだ……!」

 スメラギとフェルトはこの二人のやり取りを見ながら話し合っていた。
「あの二人は相変わらずねぇ……」
「ええ……でも、こんな二人が大好きですから」
「フェルト。遠慮しなくていいのよ。ニールが好きなら好きで」
「え?」
「あれ? 違った? 刹那の方?」
「いえ――私は別に……」
「そう。自分の気持ちには正直になった方がいいわ。私も今、そうしなかったせいで悩んでいるのだから」
 スメラギが渋い顔をした。フェルトがまた、「ええ……」と呟いた。スメラギが愁眉を開いた。
「まぁ、私もあの二人が好きだからね。フェルト、あなたがいいんならいいんだけど。ちょっと可哀想に思えてきちゃって。二人とも本気だからたちが悪いのよね」
「はい……でも、ニールと刹那が幸せなら、それでいいです」
「いい子ね。フェルト」
「いえ……」
『フェルト、フェルト、ハロガイル、ハロガイル』
「あら……でも、ハロにはライル――ロックオンがいるじゃない」と、スメラギ。
『フェルト、ハロノコイビト。ロックオン、アイボウ、アイボウ』
「ハロも何だかだんだんロックオンに似て来たわね」
 スメラギが言う。ハロは尚も目を赤く点滅させながら言った。
『ハロモセイフクホシイ、ホシイ』
「うーん、ハロは着られないかもねぇ」
『ミンナ、オソロイ、オソロイ。ハロ、ナカマハズレ、ナカマハズレ』
「そうね。皆おそろいよね。でも、ハロが仲間外れなんてことはないわよ。制服がなくてもハロだって立派な仲間よ」
『ハロモナカマ、ナカマ。スメラギ、スキ、スメラギ、ヤサシイ」
「気の多いハロね」
 スメラギが、ハロの丸い額をつんと指でつついた。

 それから、二、三日が不気味な沈黙のうちに過ぎていった。
「来るなら……今日かな」
 刹那がぽつんと呟いた。
「そうか――もうこんなことはやれねぇかもな」
 裸のニールはそう言って、ベッドの中の刹那にキスを贈った。刹那も生まれたままの姿だった。
「今回は決着がつかないと思う」
「――どうして?」
「……謎が、多過ぎる」
 そう呟いて、刹那はニールに向き直る。
「ニール、服は着ていよう」
「そうだな。戦闘する時真っ裸じゃ、恰好がつかねぇもんな」
 その頃――トレミーの操舵室ではちょっとした騒ぎが起こっていた。
「アロウズの機影発見、三時方向に機影発見」
 艦内に放送が流れて、ニールと刹那はバタバタと支度した。
「ふー、刹那の言った通り、服を着ていて良かったぜ。刹那、前より勘が冴えてきたんじゃないのか?」
「ああ。自分でも怖いくらいだ」
 ニールは謙遜しない刹那が可愛くなって、この、と心安立てに小突いてみせた。

2014.10.24

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