ニールの明日

~間奏曲11~または第百十二話

※この話は刹ニルです。刹ニルが地雷という方、注意してください。

「ニール、頼みたいことがある」
「何だ? 刹那」
「俺を……男にしてくれないか」
「おまえは充分立派な男だよ。頼りになるガンダムマイスターだし……第一つくべきもんついてるじゃねぇか」
「そういう問題じゃない……」
 遠回しに言っても通じないと悟ったらしい刹那、しばらく俯いていたが、やがてきっ、と顔を上げる。
「ニール……俺に抱かれてくれないか」
「え?」
 ニールはきょとんとした。
「それは……まぁ、でも、何故?」
「俺はおまえに、前も後ろも捧げたい」
 言ってから刹那の浅黒い肌には血の色が上った。こいつ、だんだん俺に似てきたな、とニールは思った。
「ああ。でも、ひとつ言っておくことがある」
「――何でも言ってくれ」
「俺は処女じゃねーぞ」
「わかってる。というか、そうだろうなとは思ってた」
「おまえの中では俺はどういうイメージなんだよ……。おまえは何か? 童貞か?」
 刹那は恥ずかしがりながらこくんと頷いた。
 まぁ、そうだろうな。ニールは納得した。
 アリーには気紛れに抱かれただけだったろうし、それに――。
「俺は、女と恋を語らうゆとりもなかったんだ――」
 可哀想にな。刹那。
 よし、俺も男だ。ケツの穴のひとつやふたつ、けちけちしない。
「いいぜ――その代わり優しくしてくれよ」
 ニールの声に艶が点る。
「自信ない……」
「大丈夫。俺は、おまえのくれる痛みだったら、何だって引き受ける」
「まさか、同情からじゃないだろうな」
 刹那の猫を思わす目が細くなった。勘付いているようだ。
(長い付き合いだからな――)
「それもある。だが、俺はおまえを愛している。俺はおまえの言うことだったら何だってきく」
「俺が死ねと言ったら、おまえも死ぬのか?」
「それはま、ケースバイケースだな」
「おまえが死んだら俺も死ぬ」
「ばぁか」
 ニールは黒い癖っ毛に覆われた刹那の額をこつんと小突いた。
「おまえは生きるんだよ。たとえどんなことがあってもな」
「ニール……おまえがそう言うなら、俺は生きる」
「頼んだぞ」
 ニールは刹那の肩をぽんぽんと叩いた。
「さてと――じゃあ、やりますか」
「……全然ロマンチックじゃない」
「大丈夫。最初は俺がリードする。その後は――本能に任せるのみだ」

「あ……あ……」
 ニールが艶めいた声を上げる。刹那は、ニールの肉壁に覆われながら――
(こんなの、初めてだ……)
 と、思った。
 ニールの内壁の蠕動が刹那に快感をもたらす。
(あんまり早く出すのは嫌だな……)
 ニールの持続力を思い出して、刹那は射精感をやり過ごす。ニールの体は女役としても超一流であった。少しでも女を知っている男だったら、
「娼婦の体だ」
 と言うに違いない。
「うっ、くっ……」
「刹那、我慢しなくていいぜ。出しちまえよ」
「え……でも……」
「まぁ、男としての矜持はわかる。でも、我慢はすんな。――今はおまえに奉仕してるんだぜ。俺は。おまえにいっぱい気持ちよくなって欲しい。――今はそれだけなんだぜ。刹那」
「ニール……」
 刹那に余裕が戻った。
「おまえが――あんまり上手いから、つい比べてしまってたんだ」
「光栄だな。だが、おまえはまだ若い。こいつもすぐ勃つさ」
「ニール……ニール……」
 二、三度抽送した後、刹那はニールの中に熱い液を放った。
「あ、ああ……」
 ニールが艶やかな声を出す。――刹那は最高の快楽を味わっていた。
「おまえは――いつもこんな気持ち良さを味わっていたのか?」
「そうだよ。愛しい……刹那」
 ニールは寝転んだまま、刹那の頬を撫でた。
「おまえ、まだいってないな」
「久しぶりだからな。なぁに、おまえに負担はかけねぇさ」
「心理的な問題だ。――よし」
 刹那はアリーやその部下達に鍛えられた舌技でニールを翻弄させた。空いた手で刹那も自分を奮い立たせる。刹那の若さは自身にも溢れていた。――刹那はニールの顔を窺う。
「挿れてくれ――刹那」
「――もう、いいのか?」
「ああ、すげぇ気持ちいい……おまえに抱かれていると思うと。――刹那、おまえの全てが欲しい」
「ニール……」
 自分を抑えきれなくなって、刹那はニールにキスをした。
「あ……済まない。おまえの咥えた口で――」
 今までニールのものを咥えていた口で口づけしたのだ。刹那は反射的に謝った。
「いいよ。俺のだもん。刹那のものも、俺のものも」
 刹那は、『おまえのものは俺のもの。俺のものも俺のもの』という昔流行ったという台詞を思い出した。けれど、ニールは刹那のものでもある。このかりそめの妖しい夜の生き物は、今は刹那のものでもあった。
「だから――俺にだけは謝んなよ。刹那」
 ニールのハンサムな笑みに、刹那は聖女の優しさを覚えた。
 両親には感じなかった愛。それをニールに感じるのは罪悪だろうか。
「ニール……俺の初めてがおまえで良かった」
「だろう?」
 ニールが得意そうに片頬笑みをした。そんなところも好きだ。
 ニール・ディランディの全てが好きだ。
 ニールの中に刹那はいきりたったものを侵入させる。ニールが喘ぐ。少しは耐性のついた刹那は、ニールの見よう見真似で腰を動かす。
「う……あ……あ……」
 ニールが声を上げる。
「いいぜ。刹那。最高だ」
「俺もだ――」
「今夜はありったけの閨房のテクを教えてやっかんな」
「楽しみにしている――」
 夢のような時間が二人の上を過ぎていく。刹那は何度も頂点に達し、快楽を貪った。
「たまには抱かれるのも悪くないな」
 ピロートークでニールは満足そうに独りごちた。
「俺も、良かった――恋人を抱くのは、俺の夢だったからな。今夜はその夢が叶って嬉しい」
 呟いて、さすがに体力の尽きた刹那はそのまま眠ってしまった。白々した朝の光がカーテンから差し込んでくる。刹那はニールの大きな手が自分の頭を撫でた感触に心地よさを覚えた。

2014.10.14

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