ニールの明日

第百十七話

「刹那――」
 地上時間で午後十時、刹那の部屋に来たニールが刹那を抱き締めた。
「ニール――苦しい……」
「いいだろ? こうやって――無事に帰ってきたんだ。沙慈も立ち直ったようだしな」
「ああ――」
「沙慈、おまえとばかり話していたんで、オレはやきもきしてたんだぜ」
「馬鹿なことを――沙慈にはルイスがいる」
「ルイス・ハレヴィか……」
 ルイスの話は刹那から聞いている。
(大変な恋をしているな。沙慈も――)
 ルイスはアロウズの兵士である。それに、他にも彼女を好いている男もいるらしい。
 がんばれよ、沙慈。
「おい、ニール――」
 ニールが黙ったので、刹那は不安に思ったらしい。
「俺は、沙慈の友達だからな。俺は、おまえ以外――」
「わぁってるよ。さっきのは冗談だ」
「ニール――」
「んで、おまえ以外、何と言いかけたんだ?」
 刹那は長い睫毛を伏せた。
「それはおまえがよく知っているだろう」
「ああ、知ってる。だけどさ――おまえの口から聞きたいんだ。愛してる、と」
「そうか」
 顔を上げた刹那の瞳はきらきらと輝いていた。
「愛している。ニール」
「刹那」
 ニールは刹那の唇にちゅ、とフレンチキスをした。
「いいこと、しねぇ?」
 刹那は黙って頷いた。
 トレミーの制服は脱がしにくい。ニールは冗談で、
「刹那ー、おまえ、俺を焦らす為にわざと脱がしにくい造りの制服デザインしたんじゃないだろうなぁ」
 と、言った。刹那はくすっと笑った。
「そんなことを考えて制服を作るやつはいない。――おまえ以外にな」
「ま、とりあえず、脱がすのもプレイのうちと考えて楽しむとするか」
 二人は裸になると、前戯をたっぷり時間をかけて味わう。そして――二人同時に達した。
「刹那。おまえ、前より感じるようになったな。嬉しいぜ♪」
「誰かさんが開発したからな」
「おっ、言うようになったな。んじゃ、もっと開発してやろうか?」
 刹那はふっと口元を緩ませた。
「――好きにしろ」
 これで欲情しないニールではない。今夜もまたありったけの性戯で楽しませ、己も刹那に溺れようと、ニールは刹那の中に自身を埋め込んだ。

 同じ頃――。
「ライル……」
「ん、何だ? アニュー……」
「私、あなたに会えてよかったわ」
「ん。俺も……」
 ライルはアニューとピロートークを楽しんでいた。
「俺とアニューは相性いいもんな」
「やだ、ライルったら……」
 アニューが可憐に笑う。ほんとだぜ、とライルはアニューに心の中で囁く。こんないい女がいるとは思わなかった。
 好きだぜ、アニュー。
「ん……」
 ライルとアニューは舌を絡ませる。その感触がくすぐったくて、ライルはくくく……と笑う。アニューの舌は滑らかだ。
「俺、おまえみたいな女がいるとは思わなかった。しかも、こんないい女が処女だったなんてな」
 ライルは、初夜にアニューの処女の証を見ている。アニューが言った。
「あなただっていい男よ。ライル……私はあなたに捧げるわ。心も、体も」
「そいつはありがたいね」
 ライルはアニューを抱き寄せた。
 アニューには秘密がある。それは、ライルも薄々勘付いていた。だが――アニューに裏切られても、ライルはアニューを愛すると決めた。
「俺はもう、アンタ以外と寝ないよ」
「まぁ、ライルったら。それを聞いたら、何人の女の子が泣くかしらね」
「ふふ……案外言うな。アニュー。そんなおまえさんが好きだぜ」
「ありがとう。ライル」
 アニュー、例え、おまえが死んでも――。
 ライルは心の中で呟いた。
 俺はおまえ以外の女を抱く気はしない。
 心も体もおまえに捧げると、ライルは、アニューの言った言葉を改めて繰り返した。

「ふー、リヒターがやっと寝たわ」
 クリスが額の汗を拭いた。
「リヒターの子守り、やってもらって悪いね」
「いいのよ。リヒティ。あたしとあなたの息子だもんね」
「ねぇ、クリス――もう一人くらい子供作らないかい?」
「あら、いいわね」
 クリスは下着姿でリヒティの隣に潜り込んだ。
「愛してるよ。クリス」
「愛してるわ。リヒティ」
「僕は、ニールみたいに前線で戦えないけど――」
「いいのよ。戦わなくても。戦闘能力がなくたって、あなたがいい男なのはあたしが知ってるもの」
「どうも、複雑だなぁ……」
「うふふ。それにね――あなたが前線に行ったら、あたし心配で夜も眠れなくなっちゃうでしょう」
「クリス……」
「だからいいの。あなたは戦わなくて」
 リヒティはがばっとクリスの豊満な体に覆い被さった。
「僕は夜の戦闘能力はあるつもりだよ」
「知ってるわ。だって――あなたの体を知って、あたしの体はいつも悦んでるから。本当はもっとしたいんだけどね――あたし達も忙しいから」
「僕も、君ともっと睦み合いたいよ。クリス」
「睦み合う――もっと直接的な言葉で言ってくれる? 君と寝たい、とか」
「君と寝たいよ。――クリス」
「あたしもよ。リヒティ。あなたってほんと、いい男。若い頃のあたしは――何で気付かなかったのかしら。気付かないままあの世に行ってしまうところだったわ」
「でも、生きて帰ってきた。今はリヒターもいるし」
 リヒティ――リヒテンダール・ツェーリは、愛妻に心からのキスを贈った。
「何だか今日は――子供ができそうな気がするな」
「二人目の子供ね。でも、ちょっと気が早過ぎるんじゃない? まぁ、そろそろできても不思議はないけど」
「名前は何がいいかな」
「二人で考えましょうね」
 昂ぶってきた二人は、そのまま本番に突入した。喘ぎながら、リヒティとクリスはお互いの名前を呼び合う。
「あん、リヒティ――」
 クリスはリヒティの肩に爪痕を残した。これは、或る意味男の勲章だな、と、リヒティは歓びに満たされながら思った。
 ラッセ・アイオン辺りにはひやかされるかもしれないが、それがどうしたというのだ。愛は全てに勝つ。そう考えると痛みも性の快感に変わった。

2014.12.3

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