ニールの明日

第百十八話

「どうしたの、ティエリア……」
 もぞもぞとアレルヤが布団から首を出す。
「朝陽を見てたんだ」
「ああ……綺麗だよね」
 アレルヤはガウンを羽織ってティエリアの隣に立つ。
「地球の重力は好きではないけど――朝陽は好きだな」
「綺麗だもんね」
 そう言ってアレルヤはティエリアの項にキスをした。
「何するんだ。アレルヤ」
「ん、可愛いなと思って」
「――どこが」
「朝陽に感動している君がだよ」
「――勝手にしろ」
 アレルヤの愛撫が熱を帯びる。ティエリアは言った。
「おい。――そろそろ朝食に行かないと……」
「まだいいじゃないか」
 ティエリアは時計を見た。確かにまだ早い。だが――。
「あまり遅くなると今まで何してたんだと怒られるぞ」
「僕は気にしないよ」
「僕が気にするんだ。――全く」
 ティエリアは吐息をもらした。彼もアレルヤの愛撫は嫌いではないのだが。
「ベッド、行かない?」
「――行かん」
 ティエリアはするっとアレルヤから離れた。
「おい。どうしたんだい? ティエリア」
「今からベッドに行ったら間違いなく遅れるだろ」
 そう言ってティエリアは制服を着た。紫系統で纏められた服である。
「ティエリア……」
 でも、こんなつれないところも好きなんだ……。仕方がない。アレルヤが、
「僕、シャワー浴びてくるよ」
 と、告げた。

 アロウズのリボンズ・アルマークの部屋――。
「イオリア・シュヘンベルグのデータを揃えたよ」
 リジェネ・レジェッタが言った。
「ああ――そこに置いておいてくれないか」
「それから――レイフ・エイフマンのことだけど――」
「あの男か」
 リボンズが少々苦い顔をした。
「あの男がどうした」
「エイフマンは、イオリアに匹敵するぐらいの天才だ。イオリアが現在生きていたら、双璧をなすぐらいのね」
「そうか――殺したのは少々早計だったかな。しかし、いずれにせよ天才過ぎて畳の上では死ねない男だったような気はするが」
「ビリー辺りにでも当たってみる?」
「そうだな。宜しく頼む」
「君は?」
「面倒事はごめんだ」
「いつだって面倒事を起こすのは君のくせに」
 リジェネはふっと笑った。リボンズは身勝手だ。だが、そんな身勝手な彼が好きだ。だから、一緒にいられる。
(リボンズは僕を頼ってくれている――)
「わかった。じゃあ、ビリーに訊いてみる。――レイフ・エイフマンのことを」

 その数時間後――。
「やぁ、グラハム」
「ビリー……」
「ちょうど君の部屋へ行こうと思ってたところなんだ。君が僕の部屋へ来てもいいんだが」
「君に来られてもな――どうせ君とは酒も酌み交わせないんだから。せいぜいコーヒーとドーナツで」
「好きなんだから仕方ないだろう。――話がある」
「何だ?」
「リジェネにエイフマン教授のことを訊かれたよ」
「プロフェッサーのことを?」
「適当に答えておいたがね」
「ああ――」
 ビリーとグラハムは目配せをした。
「どう思う? ビリー」
「何がだい? グラハム」
「とぼけるな。リボンズ一派のことだ。」
「――どうにも、胡散臭いね」
「でも、彼らにもわからないことがある。だから、君にもプロフェッサーのことなどを訊いたのだろうな」
「シュヘンベルグ理論のことについても訊かれたよ」
「そしておまえは例によって例の如く――」
「適当にお茶を濁しておいたよ」
「それでいい」
 グラハムは結局、ビリーの部屋に行った。話題は自然この間のことになる。
「残念ながら、ダブルオーライザーを包んだ光とか、君らが裸になったこととかについては、僕はよく知らない。だが――エイフマン教授だったら何かわかったかもしれない」
 これが、話の結論だった。二時間ぐらい話した結果がこれだ。あまり実りがあるとは言えなかった。
「じゃ、私はこれで失礼するぞ。ビリー」
「何かわかったら一番に君に話すよ」
 ビリーの言葉を聞いて、グラハムは微笑んだ。
「楽しみにしているぞ」
 グラハムは自分の部屋に戻るとベッドに身を投げ出した。ここに意中の少年、刹那・F・セイエイがいないのが少し寂しい。
(まぁ、いいか――)
 グラハムはビリーとエイフマン教授のところに遊びに行った時のことを思い出した。
 陽の当たる研究所で議論を戦わせた。
(楽しかったな――)
 もう、二度とあの日は戻って来ない。グラハムの涙から、すーっと一筋涙がこぼれた。
「プロフェッサー……」
 そう呟いて。

 トレミーの中で、ネーナ・トリニティは不満そうな声を出した。
「ねぇ、あたし達、いつまでここに閉じこもってなきゃいけないの?」
「別に閉じこもっていなきゃいけない理由もないんだけど……死にたくなければね」
 スメラギが言い放った。
「平気よぉ。あたし達強いもの」
「そ。敵さんなんかに負けないぜ」
 ネーナと、その兄ミハエルが口々に答えた。
「そう――なら、好きになさい」
「わあい」
「行こうぜ、ネーナ」
 彼らの長兄、ヨハンは何も言わなかった。きっと、言っても無駄だと悟ったのだろう。
 アンタも大変ね――スメラギは心の中でそっとヨハンに同情した。

2014.12.13

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