ニールの明日

第百十一話

「トレミーの制服か! いいな!」
 ニールが自分の膝をぽんと叩いた。
 同じ制服を着たら、トレミー内の乗組員の結束も固くなるはず。そこまで刹那は考えていたのであろうか。
(ほんと――全く、成長したよ、刹那)
 ニールが宇宙を彷徨っている間に。ゲリラ兵に加わって戦っている間に。
 ニールも自分も少しは大人になったとは思うが、刹那の成長ぶりは目覚ましい。刹那の目も、昔より優しくなった気がする。
 アロウズと戦うことについて、刹那も考えているところがあったのだろうか。
「よし! 刹那、朝食の時に皆で集まってもらって、制服のこと提案しようぜ!」

「え~、制服~?」
 不満そうな声を上げたのは、ネーナ・トリニティである。
「あたし、この服の方がいいなぁ。気に入ってるもの」
「だよなぁ。ネーナはどんな服でも似合うけど、やっぱりその服が一番だよな」
 シスター・コンプレックス気味のミハエルが妹のネーナに賛同する。
「ニール。悪いけど私達は、制服についてはちょっと……勿論、君達に協力するのはやぶさかではないのだが……」
 チームトリニティの長兄ヨハン・トリニティが口を出した。
「別にいい。ヨハン。これは強制ではない」
 刹那がぼそりと言った。
「あー……これは刹那が考え付いたことなんだ」
 ニールがちょっと得意そうに刹那を見遣る。
「いいじゃない」
「私もいいと思う。デザインにもよるけど」
「僕も、クリスに賛成だな」
「――私もいいと思う」
 台詞は上から、スメラギ・李・ノリエガ、クリスティナ・シエラ、その夫のリヒテンダール・ツェーリ(夫婦別姓)、フェルト・グレイスである。
「はいはい! 私も賛成ですぅ!」
 そう言って手を挙げたのは、イアン・ヴァスティとリンダ・ヴァスティの娘、ミレイナ・ヴァスティである。
「おう。ミレイナだったらどんな服も似合うぞ!」
 イアンは親馬鹿炸裂である。ネーナは、
「アホらし……」
 と呆れていた。
「あなた、ミレイナをあまり甘やかさないで」
「事実を言ったまでだよ。ミレイナは俺とリンダに似て、可愛いから」
「まっ、あなたったら」
 リンダが顔をほんの少し赤らめる。皆は(トリニティ・チーム以外は)微笑ましく見守っていた。
「オレも着るの? 制服」
 ライルが言った。ニールが答えた。
「ん? 嫌か? ライル」
「いいんだけどさー……俺と兄さんが同じ服着たら、見分けがつかなくなるぜ」
「大丈夫。俺は眼帯をしているからな。皆も知っている通り、眼帯をしている方が俺、ニール・ディランディだ」
「それに……兄さんと同じ服着たら兄さんが霞んじゃうぜ――ぐぇっ」
 ニールは弟にチョップを食らわせた。
「私はライル、あなたの制服姿が見てみたいわ」
 そう言ったのはアニュー・リターナー。
「まぁ、アニューがそう言うなら……」
 ライルが照れ隠しに鼻の下を擦った。
「きっととてもお似合いになると思うの」
「兄さんよりも?」
「え……ええと……」
「アニュー、遠慮しなくていい。ライルの方が素敵だと言ってやれ」
「私は、ライルの方が好きよ」
「アニュー……ありがと」
 ニールはよしよしと頷いた。刹那がニールの肩をぽんぽんと叩いた。多分、労りの言葉の代わりの行動だろう。
「まさか、僕のは女物ではないだろうな」
 ティエリアが口を挟む。
「多分、それはないんじゃないかな」
 アレルヤがのんびりと答える。
「そうだな。女物だったら絶対着ないからな」
「君にだったら似合うと思うけど――」
「アレルヤ・ハプティズム! 君は何を考えてる!」
 ティエリアが激昂した。
「大丈夫だ。ティエリア。ちゃんと男物のデザインを考えてある」
「デザイン……って、刹那が考えたのか」
「ああ。誰か紙とペンを貸してくれ」
 イアンが紙とペンを渡すと、刹那が制服の絵を描いた。というか――。
(刹那、絵が上手くなったな)
 ニールは変なところで感心していた。前の刹那の絵は、犬とクマの区別さえつかなかった。やはり刹那は日々成長しているのだ。
「――どうだろうか」
「素敵じゃない、早く着てみたいわ」
 スメラギが手放しで賛辞する。
「俺も着てみたいな」
 ニールが言う。強ちお世辞でもなかった。
「じゃ、お嬢様。トレミーの制服を作ってもいいですか?」
 ニールが王留美に向かって許可を求める。
「――私、すっかり忘れられたのかと思っていましたわ」
 確かにそうには違いない。皆、自分の感想や興奮に気を取られて、王留美のことを忘れていたのだ。
「いいのではありませんこと? 制服によって仲間意識も高まると思いますし。刹那の発案もなかなかだと思いますわ」
「へへっ。でしょう?」
「ニール・ディランディ。貴方には言ってませんことよ」
「――はい」
「それでは、私は今から本部に帰りますから、制服が出来たら一着届けてくださいませんこと?」
「わかった」
 刹那が頷いた。お嬢様も大変だなぁ、とニールは思った。

 トレミーの面々は、リンダやアニュー達に制服を作ってもらってはしゃいでいた。
「うわぁ、素敵ですぅ」
「うん。これなら、まぁいいかな」
「ミレイナ、クリス、あなた達、似合ってるわ」
「ありがとう。フェルト」
「嬉しいですぅ、フェルトお姉様」
 ミレイナ、クリス、フェルトがきゃあきゃあ言い合っている。
「ん? 刹那は青か」
「お前らは緑だ」
 ディランディ兄弟が顔を見合わせる。
「何だか自分が二人いるみたいだぜ」
「俺に眼帯がなかったらな」
「ちょっと胸がきついんだけど――」
 スメラギが恥ずかしそうに呟く。
「これなら僕も許せるな」
 紫系統の色で纏めた制服を披露しながらティエリアが満足げに独りごちる。オレンジ色が主の服を着たアレルヤもそんなティエリアを見ながら控えめに微笑んでいた。

2014.10.4

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