ニールの明日
第百五十話
カサッ。物音がした。
「――誰だ?」
ニールが誰何した。
「あ、あの……ニールおにいちゃん、せつなおにいちゃん、ごめんなさい……」
現れたのはシャーロットだった。
「何だ、君か……」
ニールは安堵した。
「あ、あの……ごめんなさい。きくつもりはなかったんだけど……」
「いいさ」
刹那はそう言ってシャーロットを抱き上げた。
「きゃー♪」
シャーロットは歓声を上げる。
「聞かれても、お前さんになら大丈夫だよ。シャーロット。だって、お前さんは俺達の仲間だからな」
ニールが言うと、シャーロットは輝く青い眼をニールに向けた。
「ほんとうね?! ほんとうね?! ニールおにいちゃん」
「ああ」
「――たとえここをはなれることになったとしても?」
シャーロットが大きな目に翳を落とした。
「そうだな。ずっとはいられないかもな。というか、お前さん、俺達の話聞いてたのか?」
「……ううん。ただ、何となくそんな気がしただけ」
「……シャーロット・ブラウン。お前は優れたイノベイターだ。しかも優しい」
「やーん。せつなおにいちゃんたら」
「本当だ」
刹那は真顔で答えた。尤も、刹那は普段はいつもポーカーフェイスだが。
「……でも、おにいちゃんたちにかえってほしくないなぁ。あたし」
「――また来るさ」
「うん!」
「それに、ダブルオーライザーが返ってくるまで俺達は足止めを食う訳だし」
「ダブルオーライザー?」
シャーロットはニールに対して首を傾げた。
「とても、大事な物さ。世界にとってな」
ニールが答えた。
一方――。アリーとニキータは自分達の部屋で一緒にベッドに横になっていた。アリーはニキータの炎のような髪の毛を手で梳いている。
「ねぇ、アリー。投了ってどういうことなの?」
「んー? 今回はあいつらに花を持たせることにしたのさ。だが、第二回戦では俺も負けん」
「――刹那にあまり酷いことしないでね」
アリーが優しい顔になった。
「……しないさ。何たって昔は俺の部下だった男だからな」
「クルジスにも酷いことしないで」
「それは大将次第だな」
「リボンズね――」
ニキータが溜息を吐いた。
「何だ? 気になるのか? クルジスのガキ――刹那が」
「ええ。私の仲間だもの。勿論私はアリー一筋だけど」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。ええ?」
アリーはニキータの赤毛をくしゃりと撫でた。
「俺はな――そんな風に誰かに乞われたのは初めてなんだ」
「――お母さんはどうだったの?」
「あいつか――確かにあいつしかいなかったかもな。俺なんかを本気で好きになったのは」
イゼベル――とアリーは溜息まじりに呟いた。ニキータは眉を顰めた。
「――どうした?」
「私達、普通ではないのかもね。私の恋敵がお母さんだなんて」
「面白くていいじゃねぇか」
「私はそうは思わない」
ニキータは全裸の体をするりと起こした。
「コーヒー飲みたいわ」
「俺は煙草を吸いたい」
「じゃあ、私も」
ニキータは自分が咥えた煙草に火を点けると、アリーに渡した煙草に火を移した。
「ふーっ。旨いな」
「私にはそうは思えないけれど……」
「この煙草の旨さがわかるようになったら一人前の大人というものさ」
「私とは違う考えなのね――私は恋を知れば人は一人前になっていくんだと思うわ」
「言うじゃねぇか」
「私、大人になったわ。アリー。あなたのおかげで」
「いやいや。まだまだだね。俺達はきっと世間の非難を浴びるさ」
「親娘だから? そんなの理不尽よ」
「――だな。だから、俺はそんなことは気にしない。お前はどうだ?」
「私もよ。アリーさえいればいいわ」
アリーは煙草をぎゅっと灰皿に押し付けた。ニキータも真似をした。二人はにっと笑って煙草の味のするキスをした。
――ビリー・カタギリの居室。
呼び出し音が鳴った。
「はぁ~い……」
ビリーはここ数日の激務でぐったりしていた。
(グラハムかな……?)
と、ビリーは思ったが、彼にコールしたのはリボンズ・アルマークであった。
「何だ……リボンズか……」
ビリーはカチャッと眼鏡をセットした。
「研究の進捗具合はどうだ? ビリー・カタギリ」
「えーと……まずは順調ですよ。僕の睡眠と引き換えにね」
「GN粒子の正体がわかったか?」
「いんや」
ビリーが伸びをした。
「そっちの方はあんまりわかってないなぁ。刹那やニールがそのGN粒子の持ち主ということはわかってるんだけどね……」
「そんなのは僕だって知っている」
ビリーがあんまりのんびりしているのでリボンズはやや苛々しているようだった。
「ニールや刹那について、君なりの研究をしてもらいたい」
「ええ~?」
ビリーはあまり気乗りのしない返事をした。
「もしかして拷問かい? あんまり気が進まないなぁ。――それに、僕は拷問なんて初めてだし……そっちの方はリボンズ、君の方が得意なんじゃないかい?」
「まぁね……カールの十八番でもあったがな」
リボンズがふふふ、と笑った。
「まぁ、ガンダムマイスター……彼らに対してもいつまでもお客様扱いできないからね」
「彼らに対して同情するね」
「何とでも言え」
「しかも、今はアレルヤ・ハプティズムとティエリア・アーデもいる。――この二人のことも知っているね」
「あ……はい……」
「そんな心配そうな顔をしなくても大丈夫だ。彼らが協力的な態度を示せば良し――反抗したらそれなりの手段は講じておくが」
2015.11.5
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