ニールの明日
第八十三話
ニールと刹那は、ヨハン達とよもやま話をした後、イアン・ヴァスティのところへ行った。
「どうした? イアン・ヴァスティ」
刹那がイアンに質問した。
「おお、ニールに刹那。これ、見てくれよ」
格納庫に収容されていた、ガンダムに似た、だが見たことのない機体。
「何だ……これ」
刹那も圧倒されていた。威風堂々としたその姿。その様子にニールも魅せられた。イアンがニールの隣に立った。
「いつお披露目しようかと待っていたんだがな」
「ちっ。こんなすごい機体を今まで隠していたなんて、おやっさんも意地が悪いねぇ」
ニールがイアンを肘で突こうとした。イアンはひらりと避ける。落ち着くとイアンはこう説明した。
「これはダブルオーライザー。ガンダムを超えたガンダムだ」
イアンが愛おしそうにそれを眺めている。
「ガンダムを超えた、ガンダム……」
刹那が呟いた。
「んで、何でこれを俺達に?」
「うん。実は、この機体には難点があってな……二人乗りなんだ」
「二人乗り……」
「……ってことは……」
ニールと刹那が互いに顔を見合わせた。
「おやっさん! それ、俺達のものか?!」
「まだ決まってはいないが、多分そうなるだろう」
刹那と一緒にこのダブルオーライザーを操縦する。
「いやったぁー!!」
「何喜んでいるんだ? ニール」
「だって、おまえと一緒にこれを動かすんだぜ!」
「まだ決まってないと言ったろう」
「その通り。これからこのオーライザーに耐えられるかどうかテストをする」
「そんなもん、楽々合格するに決まってるじゃねぇか。な、刹那」
「どうだかな……」
「俺とおまえが組めば無敵だぜ」
「おまえは相変わらず楽天的だなぁ」
イアンが仕様がないヤツだとでもいうように溜息を吐いた。
「いいのか? オーライザーはハードだぞ」
「勿論、覚悟の上だ」
ニールが宣言した。
「しかし……エクシアはどうなる。ケルディムは?」
刹那は尤もな質問をした。
「まさか、もう直せないとか?」
「いや、そんなことはない。エクシアもケルディムも、俺達にかかれば、あれぐらいの傷、すぐに直って新品同様になるさ」
「ケルディムは……もう候補は決まっている」
「ライルだろ?」
ニールの双子の弟のライル。
あいつだったら、ケルディムを託してもいい。ニールは頷いた。イアンが言った。
「その通りだ。テストをしてみたら、あいつ、おまえとそっくりの操縦の仕方をしていたぞ」
イアンの台詞にニールは喜んだ。
よかったな。ケルディム。
ライルに可愛がってもらえよ。
「しかし、ニールがこのオーライザーに乗れるかどうかはまだわからないんだろ?」
と刹那。
「ああ。しかし、大丈夫だと俺は踏んでいる。だから、オーライザーもおまえらに見せた。このオーライザーはイオリア理論の要だ。俺にもまだ全貌はわかっていない」
「そんな大したもんを、俺達に?」
「ああ。お嬢様が俺に見せてくれた。俺は一瞬で虜になったよ」
お嬢様、というのは王留美のことである。
トレミーのオーライザーの格納してあった場所は、今まで立ち入り禁止になっていたのだ。ニールは密かに気にはなっていたのだが。
(まさかこんなすげぇもんが隠されていたとはね……)
ニールは密かに嘆息した。
(しかも、それを俺達が……すげぇじゃん!)
だが、刹那はそれほどオーライザーに感心していたわけではなかったらしい。
「イアン。エクシアは誰が乗るんだ」
「ああ、エクシアね……」
イアンが顎をぽりぽりと掻いた。刹那が苛々したように訊いた。
「勿体ぶらないで、教えろ」
刹那はエクシアを愛している。それはもう、ニールが嫉妬するほどに。
だから、エクシアの次期パイロットが気になるのだろう。
だが――イアンは言った。
「秘密さ。今のところはな」
「イアン!」
「まぁまぁ。さ、ついてきな。試験会場に連れて行ってやる」
「エクシアが無事なら……それはそれでいいか」
刹那は仕方なさそうにぼそっと言った。
でも……。
「おやっさん。エクシアは刹那しか動かせないんじゃなかったっけ?」
「無論、改良はしてある。それに……エクシアに相応しいパイロットは俺が見つけた」
「え?」
「見た瞬間にこいつだ!と思ったんだよ。まぁ、俺の勘が当たっていることを祈るばかりだが」
それでは、イアンはよほど自分の考えに自信を持っているんだ、とニールは思った。
エクシアの次期パイロット……ラッセか、リヒティか……いや、違う。
彼らがそうなら、イアンはとっくに搭乗させているはずだ。
まさか――。
いや、それはない。
でも――。
「おやっさん」
「何だ?」
「もしかして、エクシアのパイロット候補というのは――」
「沙慈・クロスロードか?」
刹那もニールと同じ考えでいたらしい。
イアンがにやりと笑った。
ビンゴだ!
「なぁ、刹那。沙慈のことをおまえは頼りにならないと思っているだろうが――」
イアンが咳払いをしながらそう言った。俺も頼りにならないと思っているよ。ニールが心の中で呟いた。だが、刹那はこう答えた。
「いや。沙慈なら……いい」
ええええええっ?!
「そこで譲るのか?! 刹那!」
「ああ。あいつなら、エクシアに乗っても、いい」
「大丈夫かねぇ……」
「今までのテストにはパスしている。いやぁ、まさかあいつがあんな逸材だとは思っていなかったけど」
イアンが自分の考えに酔っている。
沙慈がねぇ……。ケルディムのパイロットがライルで良かったよ、ほんと。
「刹那、おまえ、本当にいいと思ってんのかよ」
ニールが訊く。すると、刹那は神妙な面持ちで頷いた。――ちなみに、ニールと刹那もイアン達が用意したシミュレーションに合格したことも付記しておく。
2013.11.27
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