ニールの明日

第八十八話

 イアン・ヴァスティとハロがニール達のところへやってきた。ハロは嬉しそうに飛び跳ねている。
『オハヨウ、オハヨウ』
「よっ、ハロ、おはよう。ハロ。イアンのおやっさん」
「朝っぱらから何て話してんだ……おまえら」
「あ、聞いてたんすか」
 ニールが頭を掻いた。
「――ミレイナには聞かせたくない話題だな」
 イアンが溜息を吐いた。
「それより、ニール、刹那。オーライザーの初仕事だぞ」
「何っ?!」
 ニールが本気モードに入った。
「――何だ? イアン」
 と、刹那も訊く。
「マックス・ウェインをカタロンの支部に送り届けることに決まったのだが――」
「おう、クラウスのところだな」
「オーライザーはマックスの飛空艇を護衛することになった」
「おお! オーライザー初出動だな」
「嬉しそうだな。ニール」
「なんでぇ。刹那。おまえは嬉しくねぇのかよ」
「――嬉しいが」
 刹那の微笑みに、ニールは思わず見惚れた。
(――って、そんな場合じゃねぇし!)
 ニールは思わずぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
「どうした? ニール」
「え、いや――おまえの笑顔に見惚れてたんだけど、そういう場合じゃねぁなと思って」
「確かにそういう場合じゃないな。気持ちはわかるけど。――オレも娘の寝顔見てるとつい見惚れちゃうなぁ、なんて――あっ、おまえらどこ行くんだよ」
 イアンが親ばかなのはわかった。ニール達はすたすたと遠ざかる。アレルヤ達はまだ喧嘩をしていた。
「おい、ちょっと待て」
「――何すか」
「わかった。真面目に話をしよう。おまえ、それは連れていけないぞ」
「それ?」
 イアンがニールの抱いていたハロを指差した。
「もしかして――ハロとお別れっつーことか?」
「オーライザーにはハロを設置する場所がないからな」
『ハロ、ニールトオワカレ、オワカレ、サビシイ、サビシイ』
「ハロ……」
「すまない……」
「ニール、元気出せ」
 刹那がニールの肩を叩いた。
「あ、ああ……イアンのおやっさん」
「何だ」
「ハロは……どうなるんだ?」
「ああ。ケルディムにはハロが必要だからな。ライルに譲れ」
「兄さん、オレ、ハロのこと大切にするよ」
『ニール、ニール』
「ハロ……」
 ニールはハロを抱き上げ、おでこ(?)にキスをした。
「ライルに可愛がってもらえ」
『リョウカイ、リョウカイ』
「頼んだぞ、ライル」
「ラジャ」
「ニール。オーライザーの操縦方法はテストの時と同じだ。刹那もだぞ」
「わかった」
 刹那とニールはイアンに頷いて見せた。
(オレは――刹那の片腕になる)
 たとえ右目が見えなくても。聴覚や勘は今までより発達してきたような気がする。距離感を掴みにくくなったのは難だが。
 ハロを抱えたライルが言った。
「兄さん。兄さんはいざという時、何て言ってる?」
「いざという時――?」
「ほら、敵を前にした時とか……決め台詞ってヤツさ」
「ああ、それだったら!」
 ニールはパン!と手を叩いた。右手を銃の形に構える。
「狙い撃つぜ……!」
 そしてウィンク。
『ニール、カッコイイ、カッコイイ』
「えー。そうかぁ?」
 ライルが呆れ顔でハロを見た。
「ライル、ニールはかっこいいぞ」
「刹那~。照れちゃうな~」
「そうかねぇ……」
 ま、今はライルに呆れられても仕方ない。それよりも刹那に『かっこいい』と言われたことが、ニールには嬉しかった。
「ま、兄さんを褒めてくれてありがとう」
「おい。おまえら、そろそろメシの時間だぞ」
「はーい」
「随分、楽しそうですね」
 天使の声が降ってきた。
「アニュー!」
 ライルが薄菫色の長めの髪をしたアニュー・リターナーに抱き着いた。
「どうした? もう体はいいのか?」
「ええ。私、頑丈にできてますから」
「ムリしなくていいんだぞ~」
 ライル達がいちゃいちゃしているところを見て、
「ああいうところはニールにそっくりだな」
 と、ぼそっと言った。
「俺、あんなにあからさまかな」
「ああ」
「刹那だってデレる時があるじゃん」
「デレ? 何だそれは」
「――何でもないよ」
 ニールの言葉に刹那が吐息をついた。ちなみに、デレ、という言葉は、24世紀ではもう死語に近い。
「ほら、おまえらもメシだぞ」
 イアンがアレルヤとティエリアに注意をしている。ニールはこっそり思った。
(あの犬も食わない夫婦喧嘩をしている二人に注意するイアンさんて大人だな。俺だったら放っておくところだぜ)
「あら、今日はハロはライルといるのね」と、アニュー。
「うん。兄さんから貰ったんだ。新しい相棒だぜ。宜しくな」
『ヨロシク、ヨロシク』
「うふふ、可愛いわね。宜しく」
 アニューがハロの頭を撫でた。ハロは嬉しそうに目を点滅させた。
『ワーイ、ワーイ』
 オレもアニューになでなでしてもらいたいな、とライルが言うと、アニューはライルの頭も撫でた。ニールは……刹那の方をちょっと見たが、いやいや、そこまで彼に望むのは贅沢というものだろう。

2014.1.27

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