ニールの明日

第五十三話

「見つかった?!」
ニールはつい大声を出してしまった。
「ええ……大変だったわ。二重三重にも張り巡らされたセキュリティーシステムをかいくぐって……」
「セキュリティ……?」
マリナは首を傾げた。
「いいんですよ。マリナ姫は知らなくとも」
「大丈夫か、シーリン。具合が悪そうだ」
刹那が気遣う。そんなところが刹那のいいところだと、ニールは感心した。そんな刹那だからこそ、ニールはまた惚れ直したのだ。
「水をいっぱいちょうだい」
「わかった。水だな」
「あっちが台所だから」
「言わなくてもわかる。俺はグレンのような方向音痴ではない」
刹那の冗談にニールは吹き出した。真顔で言われるからこそ面白いのだ。
シーリンはにやりと笑った。
「まあ、迷おうとしても迷う余地もないけどね」
刹那は台所へ向かった。シーリンはマリナの隣に座る。ニールが言った。
「シーリン、アンタ、本当に疲れているようだな」
「疲れている……というより、ショックだったわ」
「シーリン……」
マリナの可憐な面差しが陰を帯びる。
「大丈夫?」
と、マリナの膝に乗っていた小さな子もきく。
「ええ……」
刹那が水を持ってやってきた。シーリンは一気にコップを空にする。
「あなた方の戦術予報士のことだけどね……」
シーリンが少し言い淀む。が、それを振りきってきっぱりと口を開いた。
「アロウズの技術大尉、ビリー・カタギリのところにいるわ」
「アロウズ……」
ニールも少なからず驚いた。刹那もらしい。刹那の方に目を遣ると、刹那もワインレッドの瞳をこころもち見開いていた。
「スメラギが……何故……」
「そこまでは私も知らないわ」
シーリンが首を横に振った。
グレンとダシルが部屋に入ってきた。
「ああ。グレン、ダシル。お疲れ様」
シーリンが労った。
「どうも。俺は何の役にも立たなかったがな」
「そうね。グレン、貴方は確かに役に立たなかったわ。でもダシル、貴方のおかげで早く戦術予報士、スメラギ・李・ノリエガの居場所がわかったのよ」
「いや、俺の力なんて……」
「天才って本当にいるのね。ダシルはものの五分としないうちにコンピュータの扱いを覚えてしまったわ」
「へぇー」
ニールは感嘆の声を出した。
「カタロンにスカウトしたかったんだけどね、実は」
「俺はグレン様の道案内をしなくてはならないですから」
「ダシル、おまえがいないと俺は元来た道もわからない」
「と、こういう感じなのよ」
と、シーリンは残念そうに息をついた。
「では、グレンもカタロンに入れればいい。戦闘力は俺の折り紙つきだぜ」
ニールがウィンクをした。
「いや。俺はその任ではない。俺には他に仲間達もいるしな。でもカタロンの連中は気に入った。いつでも力を貸す」
「ありがとう」
シーリンが礼を言った。
「スメラギを迎えに行かなくてはいけないな」
と、刹那。
「アロウズの幹部のところに行くのか?!」
刹那の大胆さにニールはびっくりした。
「アロウズの重要人物だろうが何だろうが、一人の人間には違いあるまい」
「しかし……」
「俺は行く」
刹那は宣言した。
そんな刹那を見つめてからニールは……ガシガシと頭を掻いた。茶色の巻き毛がふわふわと動く。
「おまえが行くんだったら、俺も行くしかないだろう」
「ニール、おまえは無理しなくていい」
「水臭いぜ。おまえの為ならば、例え火の中水の中だぜ。俺とおまえの仲じゃないか」
ニールは刹那の肩を抱いた。
「離せ……」
「何言ってるんだ。離さないぞ、刹那♪俺達は二人で一人。そうだろ?」
「やはりお二人はそういう関係でしたのね」
シーリンは二人のただならない親密さが醸し出すムードを感じ取ったらしい。
「ああ、そうだけど」
ニールは素直に認めた。
「…………」
刹那は口をつぐんでいた。それは無言の肯定だった。
「ところでライルは?」
「ジーン1ならクラウスと一緒にいろいろ調べてるわ。私達は報告がてら少し休むことにしたの」
「王留美も見当たらないけど」
「彼女のことは知らないわ」
シーリンはけんもほろろに突っ放した。
きっといろんなところに連絡しているのだろう、王留美は。カタロンに肩入れするというのは、世界中が震撼する大事件なのだ。
ちょうどガンダムが世界に喧嘩を売った時のように。
けれど、シーリンは王留美の動きについては興味がないようであった。というより……。
(同じ女としての反感もあるのだろうな)
シーリンは自分が美女であるという自覚もあるのだろう。潜在意識では王留美をライバル視しているのかもしれない。眼鏡をしていてもシーリンは美しい。
「刹那……俺達も一旦CBに帰ろうぜ」
「そうだな」
「リヒティとクリスも元気だったぜ」
「嘘を言うな」
「いや、ほんとだって。あの二人、生きてるんだぜ。もうとっくにガキも生まれてる」
「そうか……死んだと勘違いしていたようだ」
刹那の表情が和やかになった。
「ティエリアに俺達が帰ること、報告しようぜ」
ニールは刹那の頭を撫でた。刹那は気分がいいのだろう。されるがままになっていた。
「アレルヤも絶対助けような!」
「勿論だ」
ニールは決意が相手に伝わるように、刹那の手を力強く握った。

2012.12.27


→次へ

目次/HOME