ニールの明日

第五十九話

「プトレマイオス2は些かわかりにくい場所にありますので私が案内するようお嬢様に仰せつかりました」
パイロットと共に降り立った場所は南国の密林だった。
(なるほど、これはわかりづらい……)
それに暑い……飛行機の中での涼しさをニールは懐かしく思った。
「パプワ島みたいなところだな……」
刹那がぼそっと呟いた。
「パプ……何?」
刹那は憐れむような目を向けたが、
「知らないんならいい」
と、そっぽを向かれてしまった。
「なあ、刹那……パプワ島って何だよ……」
「俺は知ってるぜ。兄さん。変わった南の島を舞台にしたアニメがあったんだよ。三~四世紀ぐらい前にな」
「おまえ詳しいな、ライル」
「学校で観せてもらったことがあったんでね」
「アニメ観て遊んでいられる学校か」
「別に遊んでいたわけではないぜ。サンプルとして観たんだからな。おーい、刹那!」
「なんだ、ライル」
「俺は幻の第0話まで観てるぜ~」
「本当か?」
途端に刹那の声が弾む。
ガンダムマイスターとして活躍しながらアニメ鑑賞だなんて、よくそれだけの時間があったもんだとニールは刹那に対して驚く。
(それにライル……やはり遊んでたんじゃないのか?)
そうニールが勘繰るぐらい、ライルはそのアニメに関して詳しい。変な生物がどうの、おばかな刺客がどうのという話を刹那と繰り広げている。パイロットは我関せずを決め込んですたすたと歩いている。
(まあ、俺は刹那と話が合う弟に嫉妬しているだけかもな)
ニールは自分で自分の心に判断を下す。少しは冷静になれるだけ大人になっただろうか。
「着きました」
パイロットが言う。
「え……ここ?」
ニールはまさかと思った。周りには椰子の木しか並んでいない。
「ロックオン、刹那!」
ティエリアの声がする。眼鏡をかけた、菫色の肩まである髪の青年(女と間違われることもあるし、その度に怒っていたが)の姿が現れた。
ということはやはり……。
「イアン、頼む!」
ティエリアが合図を送る。
「あいよ!」
胴間声がこちらまで届いてきた。擬装を解除した宇宙船がその存在を現す。
(はあー……)
ニールはプトレマイオスの勇姿を見て、思わず圧倒された。
(なんだなんだ?こっちの方が前のより数段かっこいいじゃねぇか!)
勿論、性能も良いであろう。
(こりゃあ……イアンのおやっさん達に感謝だな……!)
多分、イアン・ヴァスティが音頭を取ってこの宇宙船を造り上げたのであろう。整備員達にも後で礼を言わなくては。
ニールが感激していると……。
「すげぇな、おい!来て良かったぜ!」
とライルが歓声を上げる。
「ソレスタル・ビーイングはやっぱ格が違うな!クラウスの判断は当たってたぜ!……うわぁっ!こんな細かいところまで造り込まれてるぜ!」
「ライル……少し静かにしろ」
ニールは兄として一応たしなめた。
「だってなぁ……やっぱすげぇぜ!すごいよ、なあ、兄さんはこんなところで仕事してたのか?!」
「いや……俺がいた頃より数段上だ……」
言いながらニールは目元に溜まった涙を拭った。ゴミが飛んで来たんだ、と心の中で呟いた。
「なぁ!飛ぶんだな!飛ぶんだろ?これ!」
「ああ、飛ぶ」
ニールは苦笑しながらライルに答えた。やはりはしゃぐところは可愛い弟のままだ。
「ちょっと……見学していいか?」
「喧しい!」
ティエリアがついに大声を張り上げた。
「少し静かにしてろ!」
「ああ……アンタ折角別嬪さんなんだから怒らない方がいいのになぁ……」
ライルを無視してティエリアがプトレマイオス2の出入口へと入っていく。
「あれー……気に障ったかな」
「気にするな、ライル。ティエリアはいい奴だ」
刹那がティエリアの肩を持つ。
「入らないのか?」
ティエリアの呼び掛け。彼らに否やはなかった。
「それでは私はこれで」
パイロットは元着た道を戻って行った。
ニールは足音も軽やかにプトレマイオス2の中に入って行った。キャットウォークも懐かしい。
『オカエリ、ロックオン、オカエリ』
「ハローっ!!」
愛嬌のある黄色の丸い機械、ハロ。
ニールはハロと感動の再会をした。ニールはハロにキスの雨を降らす。
「ハロ、元気だったか?ん?」
『ハロ、ゲンキ、ロックオン、ゲンキゲンキ』
「そうか、良かったなぁ」
「おい、刹那。兄さんてヤバいんじゃないの?」
「気にするな、ライル。あの男は昔からハロと仲が良かった」
「いや、仲が良かったとか……常軌を逸してないか」
「プトレマイオス2で常軌を逸したはしゃぎ方をしたおまえに言われたくはないだろう。……ニールも」
「おっ、その通りだ、もっと言ってやれ、刹那」
ニールが刹那をけしかける。
「……ニールもライルも似た者兄弟と思っただけだ」
刹那の台詞にニールとライルは同じタイミングでずっこけた。

2013.2.25


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