ニールの明日

第五十一話

「アレルヤが……生きていたって……?」
ニールが呆然とした。
アレルヤが……生きていた。
「何だ?嬉しくないのか?」
ティエリアが端末の向こうから不審そうな声を出した。美しい眉がひそめられる。
ニールは我に帰った。
「なっ……嬉しくないわけないだろ!やったぜ!」
ニールはガッツポーズをした。
「刹那!なあ、刹那ぁ!アレルヤ生きてたってよ!」
あはははは……と笑いながらニールは刹那に抱き着く。
「ああ……わかってる。……そんなにひっつくな。暑苦しい」
「んなこと言って。嬉しいくせに。顔がにやけているぞ」
「にやけてなどいない。だが、嬉しければ誰だって笑うさ」
ティエリアがアレルヤのことに対して嘘や未確認情報などを言うわけがない。ということは、アレルヤが生きているという証拠をどうやってか掴んだということだ。
(良かったなぁ……アレルヤ……ティエリア)
ニールの目尻に涙が浮かんだ。
自分が生きて刹那の元に帰ってこれたのも奇跡だが、アレルヤも生きていたということはもう神のわざといっていいだろう。
(ジョシュア……アンタの信じる神は本当にいるかもしれんな!)
ニール自身はどこにいるかわからない神とやらより、刹那の方が大事だと思うが、ジョシュアの気持ちもわかった気がした。
(ニール、神は生きている)
いつかジョシュアが語った言葉だ。そして、自分達も神によって縁を結ばれているのだと。
クルジスの刹那はどうだかわからないが、ニールは子供の頃から訳がわからないながらも家族と一緒に教会に行き、賛美歌を歌ったり神に祈ったりしていた。父さんも母さんもエイミーも。
多分、西洋人のジョシュアも環境は似たようなものだった。だから聖書に惹かれたのだろう。
くい、くいとニールの服の裾を引っ張る子供がいた。ニールは刹那から離れた。まだ四、五歳ぐらいであろうその子はきいた。
「アレルヤって?」
「アレルヤというのはな……」
ニールが言いかけるのを刹那が遮った。
「アレルヤというのは、アレルヤ・ハプティズム。俺達の戦友だ」
刹那の説明に、ニールは頷きかけた。
ああ、もうすぐアレルヤと再会することができるのだ。彼と酒を酌み交わしたい。刹那やティエリアを交えて徹夜で思い出を語り合いたい。彼が今までどこにいて、何をしていたか知りたい。彼の絶品の手料理をまた食べたい……。
アレルヤと共にする行動について想像し始めたニールは、ティエリアの表情がさっきよりほんの少し浮かないものになっていることについて初めて気がついた。
「どうした?ティエリア」
さっき喜んでくれ、と言ったばかりなのに……だが、ティエリアが最前よりどこか覇気のない顔に変わった理由は次の台詞でわかった。
「ニール、アレルヤは連邦軍に囚われている」
「何だって……!」
ニールは自分もさぞかし険しい表情になっているだろうと思った。ニールの中で、連邦軍はアレルヤのことで『敵』だと決まった。
しかし疑問はある。
「ティエリア……どうしてアレルヤが生きていることがわかった」
「我々とて馬鹿ではない」
ティエリアの答えは簡潔だった。詳しいことはあまり言いたくないのであろう。ニールもそのことについてはそれ以上触れなかった。
「今、データを送る」
それは大量のデータであった。ニール達は蛍光色に囲まれた。
彼の目の前に、アレルヤの現在地と思われる場所が映し出された。
「反政府勢力と思われる人物を収容する施設だ。アレルヤはそこにいる」
「ティエリア・アーデ」
「王留美」
気がつくと、ニールの背後から王留美が端末を覗き込んでいた。
「短い時間によくここまで調べ上げましたわね。ご苦労様」
「別に貴女の為ではありません。……王留美」
「でも、何故最初に私のところに連絡下さらなかったのです。何故、ロックオン・ストラトスに」
今度の王留美の言葉には叱責するような響きが混じり込んでいた。
「彼が貴女よりもアレルヤに近かったからです。ロックオンは死線を超えたのだし。……ガンダムマイスターとして」
「……あなた方は私の知らないところで仲良くなっていったようですわね」
王留美の台詞に安堵の色が混じった。
「それにしても……貴方がたは一体どこにいるのです?」
と、ティエリア。
「カタロンのクラウス・グラードの基地だ。……出てくれ、クラウス」
クラウスは重々しく頷いた。

2012.12.4


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