一氏ユウジの恋人

 俺、四天宝寺の一氏ユウジや。
 知らん? そか。知らんか……。
 まぁ、今日は俺と小春のことについて何か書け言われたからちょうどええ機会や。小春がどんなにええ女か教えたる。――ほんまは男なんやけど、俺にとってはおなごと一緒や。
 金色小春。IQ200の天才や。
 俺の相方……いや、恋人やねん。小春はどう思ってるかわからんけど、憎からず思ってんのは間違いあらへん。
 だって俺らいつも一緒におるもんなー。
 テニスは笑わせたモン勝ちや!
 俺も小春もそう思っとる。小春とは価値観も合うんやなー。
 俺はいつも小春のそばにおる。
 金色小春のおるとこに一氏ユウジあり!
「触んなや」
「鬱陶しい」
 ――なんて言ってもあれは小春なりの照れ隠しなんや。俺は知っとるで。小春が本当は俺のこと好きなこと。
 ……でも、小春は照れ屋やからなぁ。そんなとこも可愛らし思うで。ほんま。
 それに、俺はマスク取ったら小春好みのイケメンやからな。小春もきっと好きなヤツ選ぶ時には俺の顔基準に選んでるんやで。
 小春は……老け顔とかオッサン顔とか呼ばれとるけど、小春は全然気にしてへん。ただ、自分の道を突き進むだけや。
 そんな小春が俺は好きなんや。
 ……俺にとっては金色小春が今まで出会ったおなごの中で一番のええ女や。頭はいいし情け深いしな。
 笑顔も可愛らしいしな。もっと笑わせるたるで。小春。俺と楽しくテニスしような。
 俺らは勿論ダブルス。相性もバッチシ!
 ――なはずなんやけど……。
 こんな完璧な小春にも欠点があんねん。
 それは……浮気っぽいとこやーーーーー!
 誰や、不動峰の神尾って。跡部や手塚ならわかりそうな気もするが。青学の海堂薫にも色目つこうとったな。ほんまにもう、これ以上浮気したら死なすど。
 小春は俺だけ見てればええねん! 俺は小春のモンやからな。
 初めて小春の笑みを見た時、ハートにズッキューンと来たで。一目惚れなんて現象、ほんまにあったんやなぁ……。
 そしてテニス部で会うた時、運命を感じた。
 俺は――恋に落ちてもうた。
 そして、小春も……そうだとええなぁ。
 自己紹介する時、俺はマスクを外した。小春の表情が一変した。
「名前、何て言うん?」
 大阪弁て、ええ女に似合うと思う。
「一氏ユウジや。宜しくな」
 そしてウィンクして見せた。
「まぁ、知っとったけど、一氏ユウジ……ダブルスプレイヤーやね? そうでしょ? んで、特技が物真似」
 小春は俺にぐいっと迫って来た。これは……勝ちやな。本当は小春の方の勝ちやったかもしれんけど。俺は答えた。
「せや。俺はダブルスプレイヤーや」
「そうなの~。うちもダブルスが得意やねん。奇遇やわ~」
 それが俺ら四天宝寺名ダブルスコンビの始まりやった。
 青学のヤツら、なんやねん。黄金ペアとか名乗りやがって。ほんまの黄金ペアは俺らや!
 俺らはテニスで笑いを届けるんや。
 俺らのテニスは世界一、いや、宇宙一や!
 皆に幸せを運ぶテニスや。青学も氷帝も立海もこんなテニスはできひんやろ。
 俺らはプライベートでも一緒におる。……さっきも言ったな。でも、肩組んで歩くことも多いんやで。羨ましいやろ、独りもんにとっては。
 あ、俺はダメやで。俺は小春一筋やからな。

 この間、こんなことがあった。
 小春がいると聞かされたところに小春いなくて何やねん思うとったら――。
 泣いとる小春が土手におったわ。
「小春、小春、どうした!」
 俺は必死に声をかけた。青褪めてもいただろう。くそっ。小春を泣かすヤツは俺が許さん!
「ユウくん……」
 小春は可憐なしゃがれ声でこう言ってからぷるぷると愛らしく首を振って続けた。俺がしつこく問い詰めると観念したのか小春は大人しくなりよった。
「心配いらへんて。うち、また失恋したんや……」
「何やて?!」
「怒らんといて。……うちが悪かったんや。うちにはユウくんがいるのに……」
「小春は何も悪ないで。悪いのは小春の魅力を知らない野郎の方や」
「おおきに。ユウくんならそういうと思うてた。やからうち、自分からユウくんに泣きつくことできひんかったんや。――今はユウくんに甘えたなかったんや」
 小春……何て健気なんや……。
「小春、そいつのいるところ教えてくれ! そいつのキ○タマ潰したる!」
「やめて……ほんまにやめて……!」
 小春は一生懸命止めようとする。何や。そんなにお前を振った相手の味方して。そんなにその相手というのは大事か。
「何故止める」
「やって……そんな暴力振るったら、ユウくん大会出場停止にもなるかもしれへんやろ? 最悪退部や退学処分になるかもしれへんやん。うち、ユウくんとテニスできなくなるのはほんまイヤや。ユウくんが辞めさせられたら、うちもそんなテニス部……ううん、そんな学校捨ててやりまっせ」
 うちやったらまた新たな恋見つけて失恋の痛手を癒すさかい……そんな風に泣いて眼鏡を取った小春を見て俺は思った。
 何やねん。
 もう一度言う。何やねん。このどんなヤツより優しい女は。浮気もするけどちゃんと俺のことも思うてくれとる。俺にもテニスが大事なのわかってくれとる。――涙にじんでもうた。小春、もう離さへん。
 金色小春、愛しとる。
 俺にはほんまにお前だけや。成長して大人になったらどんなに離れてしまってもいつか必ず迎えに行く。それまで――待ってくれへんか?
 ――眼鏡をかけ直した小春に俺は言った。
「小春……結婚してくれ」
「え?」
「高校卒業したら、結婚してくれ、な」
「ユウくん……」
 俺は卑怯な手かなと思いつつ、いつもつけてるマスクを外した。
「ユウくーん!」
 予想通り、小春は俺に抱き着いて来た。
「小春、俺が幸せにしてやったる」
「ううん。ユウくんとテニスできるだけで幸せや。何たってテニスは――」
「笑わせたモン勝ちや」
 小春のセリフの後半部分は俺が引き取って続けた。
「……それ、うちが言おうとしたセリフやん」
 小春がくすっと笑った。――やはりどんなおなごより、小春がいっとうかわええわ。
「将来、テニス引退したら夫婦漫才しよな。俺と小春の二人で」
「そんなん……まだまだ先の話やん。でも……おおきに」
 その時、小春の心が俺に傾いたのを知った。まぁ、明日には小春の新たな恋も見つかるんやろけど。
 俺はそっと小春の肩に手を置いた。俺の気持ち重いやろか。……小春の負担にならなければええなぁ。でも、ほんまの気持ちやから……。
「小春。俺の気持ちが重なったらフッたかてかめへんで」
 それでも俺はお前のこと思い続けるから……。多分、一生。
 小春にはいい友達としてしか見てもらえてなくても……それでええ。そりゃ、俺の気持ちに嘘はないが、小春が幸せになる方が絶対ええ。
「アホ」
 小春に胸をどつかれた。
「そんなことできたらとっくに離れとるわ。……アホ」
 小春……。
 それは、俺の気持ちが受け入れられたってことか? そんなセリフ、そんな表情で、声で言われたら俺、惚れてまうやろ~。――元々惚れとるけどな。
「ええのんか、小春。そんなこと言うて……。俺は……ほんまにしつこい男やで。一秒でも長く小春と一緒にいたい思とるんやで。もし浮気したら許さんからな。ええな」
「そんな。浮気がダメやなんて……ユウくんもええ男やけど、ユウくんよりええ男なんてこの世にぎょうさんおるさかい」
 ほな、将来はもっとええ男――世界一、いや、宇宙一ええ男になって小春を迎えに行くで。一氏ユウジの名にかけて。絶対や。そう俺は心の中で誓う。

 え? 結局惚気やないかって? ほっといてんか。

後書き
2020年2月のweb拍手お礼画面過去ログです。
堂々とのろけるユウくんが好き(笑)。
小春ちゃんもユウくんに愛されてきっと幸せ。
2020.03.03

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