跡部様の宇宙ステーション生活

 俺様は跡部景吾。今は国際宇宙ステーションで暮らしている。そりゃ、時々は帰るけれど。帰らないとリョーマが怒るもんな。
 会社の方は日吉と樺地に任せてあるからまず大丈夫だとは思うけれど――。
「跡部さん――」
 俺の伴侶、越前リョーマはまめに連絡を寄越してくる。「うるさくないか?」と尋ねる同僚もいるが、俺は気にしない。
「じゃあね。また後でアクセスするよ。あ、跡部さん――?」
「何だ?」
「――愛してる」
「……ん、俺も」
 そう言って俺はモニターの電源を落とす。
「アツアツだねぇ」
「ギラン!」
 ギランは俺の同僚の一人だ。リョーマからちょくちょく来る連絡を「うるさくないか」と訊いてきたヤツとはまた別の男だ。そして、俺様とは結構仲が良い。
「何の用だよ」
「別に――ケイゴ、本当に女には興味ないのか?」
「は?」
 俺はつい間の抜けた声を出す。
「そんなことはねぇけど――」
「じゃあ、ちょっとリフレッシュしないか? 女性達の熱い視線がお前に突き刺さってんの、わかるだろ?」
 ――ああ、わかるよ。
 でも、俺様はリョーマを選んだから。俺が浮気したと知ったらリョーマが怒るだろうしな。
 んな雌猫よりも俺はリョーマの方が大事だ。
 リョーマだって――
「跡部さんて初めはただのナルシーだと思ってたけど、いいとこもあるんですね」
 誰がただのナルシーだ、とツッコもうとしたが、リョーマは笑ってどこかへ行ってしまったのでそれ以上は追及できなかった。
 全く、リョーマのヤツ。
 その時、俺がそう思ったのは覚えている。でも、そんなリョーマが俺には愛しい。
 しかも、今日は「愛してる」だ。リョーマが本気で俺に惚れてると知ったのは出会ってしばらく経ってからだ。俺も大概鈍いのかもしれない。
 リョーマからも、
「跡部さんて結構鈍いんですね」
 と揶揄されたし。忍足辺りから聞いたら腹も立つんだろうが、リョーマだったら「可愛いな」で済んでしまう。
 尤も、そう言ったらリョーマから、
「跡部さんの方が可愛いっス」
 と、押し倒されたりしたのだろうが。
「何にやけてる? ケイゴ」
「ん? にやけてるか?」
「鏡見てみろ。ほれ」
 伊達者のギランから渡された手鏡にはいつもと変わらないイケメンな俺様が映っていた。
「かっこいいな。俺様」
「――他に言うことないのかよ……」
 ギランは呆れ顔だ。他に言うことあんのかよ。あーん?
 でも、俺様が女にモテるのは事実だ。学生時代から俺は面白いくらい女にモテた。俺に群がる女を雌猫呼ばわりしてもヤツらの態度は変わらなかった。
「跡部様ー。私はあなたの雌猫です!」
 そう言われたのも一度や二度ではない。人気者は辛いよな。あーん?
「ほら、あそこのレディもこっちを見ているぜ」
「お前を見てるんだろ? ギラン」
 俺様が男と結婚していることはこの宇宙ステーションでは周知の事実だ。ギランがまた変な顔をした。
「お前……あんまり自分のことわかってないな」
「わかってても……俺様にはリョーマがいるんだからな。お前は独身だからな。お前も結構いい男だから――俺様には負けるけど」
「一言多いな、ケイゴ。でもな――」
 俺にだって女の友達の一人や二人いるんだぜ。そう言ってギランは笑った。
「俺様の場合は友達じゃない。一生の伴侶だ」
 俺は抗弁する。
「はいはい、わかったよ。お前と論戦してる暇はない。――仕事、終わったら休憩しよう」
 ギランがウィンクして見せた。俺は答えた。
「OK」
 ギランはそう嫌いじゃない。だが、ここでは酒を酌み交わしたりすることも出来ない。
 だけど、やっぱり俺は女にはそう興味はないのかもしれなかった。初恋は俺のナニーだったが、二度目の恋は樺地だったしな……。
 女に興味がないというより、ただ単に節操がないだけなのかもしれない。リョーマがいつだったかこぼしていた。
「跡部さんて、どういう基準で恋しているのかわからない」――と。
 でも、いくら可愛くても性格悪いのはごめんだ。
 リョーマも初めは可愛くないと思っていたが、結構あれで素直なところもあるのだ。俺様にも「愛してる」と言えるようになったぐらい、成長したなと思った。
 ふー、と俺様は溜息を吐く。
 さっきから女の視線が絡みつく。俺様目当てだったか……。ギランにはああ言ったけれど、俺様にだってそれぐらいはわかるのだ。
 でもなぁ……昔から女に凝視されるのは慣れっこだったからなぁ……。
 俺様は雌猫どもの視線を断ち切る。俺様にはリョーマがいる。そのことで泣いている娘もいるようだが。俺様も罪な存在だ。

 ――え? 俺様はこの宇宙ステーションでどんな仕事をしてんのかって?
 いろんな調査。無重力状態での実験とかかな。後、同僚達と協力してエンジニアの仕事をやったことがある。そうそう、ここのじいさんと俺様は仲良しなのだ。
 俺様は技術系の仕事も出来る。宇宙飛行士は何でも出来ないといけないのだ。いつだったか、じいさんがこう言ったことがある。何がきっかけかわからなかったが――。
「ケイゴ! 今すぐ地球に帰れ! お前の力を欲しがる人が地球には沢山いるぞ!」
 と、まくしたてられてしまった。――まぁ、じいさんの言う通りなんだがねぇ……。
 後は――そうだな、頼まれた時にはオペレーターの仕事もしている。その合間に宇宙工学の本だの、最新の論文だのパソコンで読んで研究したりしている。
 俺様は顔も台詞の歯切れもいいので、地球側の雌猫からは、
「あなたじゃ話にならないわ。あの東洋人を呼んで頂戴。あの、宇宙ステーションで働いているとは思えないくらいいい男、いたでしょ?!」
 と、リクエストされたこともあるそうな。結構年増だったみたいなんで、
「宇宙ステーションで働いているとは思えないくらい、いい男な東洋人? そんなのここにはゴロゴロいるだろ」
 と遠回しに断ってちゃっかり自分の株を上げてしまったりしたのだが。
 前にそんなことをリョーマに夢中で話してたら、あやつは寝入ってしまっていた。――まぁ、あいつにゃ専門的な話も随分しちまったんで 退屈だったんだろうな。
「んだよ、リョーマ。お前が聞きたいというから話したのに」
 だが、そんなリョーマも可愛くないこともないので、俺は毛布をかけてやった。
 済まねぇな。リョーマ。一人にしてしまって。まぁ、お前もテニスで忙しいだろうが。
 俺様にはこの環境が性に合っている。
「俺、宇宙ステーションで働きたい」
 親父に話したところ、怒るよりは驚愕されたが、
「まぁ、景吾にはいろいろ無理させてきたからな。それぐらいのワガママはきいてやっても良いか」
 と、許可してくれた。昔から俺には甘い親父だった。勿論、宇宙ステーションに行くことは最初にリョーマに話しておいたのは言うまでもない。

 仕事が終わった。さてと、ギランと話でもして来るか――。
 ギランは女に囲まれて待っていた。その女――雌猫どもが、
「ケイゴ!」
 そう叫んで俺様にキスしようとして来る。俺は素早く避けた。
「あん、ケイゴの意地悪」
「東洋人の男にしか興味がないんでしょ? そうでしょ?」
 俺は苦笑しながら、「そうだよ」と話した。
「ねぇ、教えて。ケイゴの恋人」
「もう結婚してるから伴侶だな。ほら、これだ」
「あら、随分若いのねぇ。というか、まだ高校生――いや、中学生じゃない?」
「間違えた。こっちだ」
 俺様は中学時代のリョーマの写真も持っている。現在のリョーマの写真を見ながら雌猫どもは、「かっこいい!」「素敵!」とかきゃあきゃあ言いながら喜んでいる。ギランが笑いを噛み殺している。
 全く、女ってヤツは――そう口を開きたげなギラン。これは俺の想像だが。女ってヤツは――俺もそう思っている。

後書き
2019年4月のweb拍手お礼画面過去ログです。
この話はちょっと難産だったことを覚えています。
父から聞いたことも取り入れました。
ギランはお気に入りのオリキャラです。
2019.05.02

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