友情は突然に
「樺地ー!!!」
きっかけはトラックにはねられたことだったと思う。でも、実のところよくわからない。
ただ、俺を呼ぶ跡部さんの声が段々高くなってきて――。
「かばじ、かばじ……」
ああ、これは跡部さんの声じゃない。子供の頃一緒に遊んだ『あとべくん』の声――。そして、俺は樺地じゃなくて、あとべくんのおつきの『かばじ』――。
――ボクはじっとありさんのぎょうれつをみてました。
ありさん。
ありさんはえらいな。はたらきものだな。ボクはそうおもいました。せっせとすにたべものをはこんでいっています。
「おい、おまえ」
「ん?」
「おまえ、かばじむねひろだろ」
「うしゅ」
「おまえ、いつもひとりだな」
ひとりじゃない。
「ありさん……」
「なに?」
ボクにこえをかけたおとこのこがききかえします。
「ありさんがいるから……」
「ありなんかみててもつまんねぇだろ」
「そんなことない。ありさんは、とても、えらいです。はたらいててえらいです」
「はたらくとえらいのか。じゃあ、おまえもおれのためにはたらくといい」
「う?」
「おまえをけらいにしてやる」
しらないおとこのこにいきなりそんなこといわれてもこまります。ボクはくびをよこにふりました。
「そっか……」
どこかでみたことのあるようなきがするおにんぎょうさんみたいなかおのおとこのこもいっしょにありさんをみています。
「おもしろいな」
「ありさんが?」
「ばか。――ありもだけど、おまえもおもしろい。きめた。おまえ、おれについてこい」
「う?」
「ともだちになろうといってんだよ」
そういったおとこのこのえがおがまぶしくてボクはしたをむきました。
「あの、なまえ……」
「おれのことしらないのかよ。しようがないなぁ、かばじは」
おとこのこはえらそうにいいました。それこそ、おうさまみたいに。
「おれのなまえはあとべけいご。よろしくな」
あとべ……きいたことがあります。『あとべ』というなまえはゆうめいです。なんでも、とってもおかねもちなんだそうです。でも、なんとなくこわいひとをそうぞうしていました。
めのまえのあとべくんはぜんぜんこわくありません。とてもきれいでした。
「う、ボクのなまえ、しってた……」
「かばじはいつもひとりでいたからな。そうやってるとみんなからうくんだぞ」
ボクはそれでもよいとおもってました。
「おまえ、いろくろいな、かっこいいな」
「う……どこでひやけしてんだといわれてわらわれた……」
「せ、たかいな。テニスむきだぜ」
「テニス……ボク、テニスしない……」
「……あ、そうだ! おとなっぽいかおだよな、おまえ」
「……おじさんみたいなかおってよくいわれる……」
「……おまえほめんの、むずかしいな」
あとべくんはぽんぽんとボクのかたをたたきました。
「じゃあいまからおれさまのいえにこい。テニスおしえてやる」
「うしゅ!」
テニスはおとうさんがよくテレビでみてておもしろそうだな、とおもってました。
「それから、おれのことはあとべでいいからな」
「うしゅ」
そのよるはあとべくんのいえにとまることになりました。
あさ、ひろいベッドでめをさましました。
ああ、ここはあとべくんのいえだったっけ……?
「う、あとべ……?」
「かばじー!」
あとべくんがとんできました。おなかにアタックされたのでちょっといたいです。
あとべくんはみかけによらずやんちゃぼうずです……。
「いたい……」
「ああ、ごめん。テニスやろうぜ」
「――うしゅ」
「おれさまのしろにはテニスをするところがいっぱいあるんだぜ。おれさませんようのテニスコートもあるぜ」
ボクはあとべくんのあとをついていきました。
「ほら、ここ」
「ラケットは?」
「なんだ、ラケットほしいのか。おれのふるいのやるよ。まずはアップからだ。すぶりもちゃんとやるんだぞ」
「うしゅ。あの、しあいしないの?」
「ああ。いきなりテニスやったらけがとかするかもしれねぇだろ」
「うしゅ」
あとべくんは、なんでもわかってて、えらいです。
テニスをはじめたのは、あとべくんがきっかけでした。
「かばじー!」
あるひ、ボクはあとべくんによばれました。
「なぁに? あとべ」
「プレゼントだ。これやる」
それはまあたらしいテニスラケットでした。
「えらぶのくろうしたぜー。でも、えらんでるときたのしかった。それ、かっこいいだろ」
「うしゅ、ありがと、ございます……」
「いいってことよ。おまえのたんじょうびプレゼントだからな」
「……う?」
「……なんだよ」
「ボク、たんじょうびきょうじゃないんだけど……」
あとべくんはかたまってしまいました。
「あとべ……?」
「――そうか。よし、わかった。ことしだけきょうがおまえのたんじょうびということにしろ。いいな」
「うしゅ」
「ああ、それから、おまえのほんとうのたんじょうびおしえろよ」
ボクのほんとうのたんじょうびは、あとべくんがきめたひです――。
――目が覚めた。白い天井。そして――跡部さんの秀麗な顔。
「樺地、大丈夫か?!」
俺は跡部さんに向かって、「ウス」と返事をした。どうやらずっとついていてくれたらしい。
跡部さんのいる世界に帰ってこれて、よかった。
俺も、跡部さんが大変な時にはそばにいるから……ずっとついていきますから――。やっぱり跡部さんは唯一無二の俺の王様、です。
後書き
2019年8月のweb拍手お礼画面過去ログです。
樺地はいい子ですね。そんな樺地と友達になれた跡部様も幸せですね。
跡部様も樺地に友情感じていることでしょう。
2019.09.02
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