Sweet sorrow番外編 2

 朋ちゃん……リョーマくんの話、あまりしなくなった。少なくとも、私の前では。
 朋ちゃんはモテる。あの憂いを帯びたところがいいんだとか――。でも、私の知ってる朋ちゃんはもっと元気な女の子だった。
 やっぱりあの頃からだね。変わったの。
 私もリョーマくんのことはあまり立ち入ったことは話さないんだけど。
 ――跡部さんとはリョーマくんのこと話してるようだけどね、朋ちゃん。
 朋ちゃんと別れた後、私は跡部さんに電話した。
「もしもし、跡部だが?」
「あの――跡部さん?」
「よぉ、桜乃。元気か?」
「はい。でも、えっと……」
「『えっと』じゃわからないぞ。お嬢ちゃん。お前ほんとにあの竜崎スミレの孫か?」
「はい……」
「それにしては大人し過ぎんぜ。ま、あの竜崎スミレみたく女傑になることもねぇがな」
「はぁ……」
 私は竜崎桜乃という名前なの。
「リョーマのことで電話か?」
「はい、すみません!」
「本当に竜崎スミレの血が流れてんのか? お前」
「あ、はい。一応……」
「一応か……」
 跡部さんが電話口の向こうでくくく……と笑った。
「まぁ、桜乃みたいなのも悪かねぇか。――ったく、小坂田といい、お前といい、リョーマの周りにはいい女ばかりだな」
「そんな……」
 跡部さんは朋ちゃんとも今でも話しているようだ。主にリョーマくんのこと。
 私とはあまりリョーマくんの話題を出さないのは、朋ちゃんの優しさだと思った。私もリョーマくんのことが心配だから……。
 ――私も、リョーマくんのことが好きだから。
「朋ちゃんから、連絡来ました?」
「来たけど?」
「リョーマくんのことで?」
「桜乃ちゃんよぉ。気になるのはわかるけど、そいつは言えねぇな」
「あ、そうですよね。すみません」
「いいよ、いいよ――気になるのはわかるから。実は、今日来たぜ」
「そうなんだ……」
 私は何となくほっとした。朋ちゃん。変わってない。リョーマくんのこと、気にかかっているんだね。
 優しい――朋ちゃん。
「リョーマくんはまだ……」
「見つかってねぇよ。小坂田にも言ったけど、跡部の力の無力さを思い知るよ。あんなガキ一人見つけられないなんてな」
「リョーマくんはガキなんかじゃありません!」
 ついムキになって私は叫んだ。跡部さんの溜息を吐くのが聞こえた。
「そうだったな。悪い。あいつは経歴は立派だよ。でも――小坂田や桜乃に心配かける時点でやっぱり人のこと考えてねぇと思うよ」
「跡部さん――も、心配ですか?」
「当たり前だろ。あいつは――友達だから」
 ――どこかで跡部さんとリョーマくんは恋人同士だという記事が載っていたが、跡部さんは鼻で嗤ってたし、私は例え噂が本当でも跡部さんもリョーマくんも友達だと思ってるから。
「見つかるの――待ってます」
「本当は俺も探しに行きたいとこなんだけどな。俺もいろいろあるから」
「わかってます。跡部さんが忙しいのは……」
「ありがとう。でも、あいつ、無茶するからな。それだけが気懸りだ」
「…………」
 私も、それはわかるよ、と言いたかった。
 だって、本当に無茶するんだもんね。リョーマくん。
 中学の時から、そうだったね。
 かなりの経験者と思われる高校生とテニス対決やって――怪我しても勝っちゃって……。
 後から聞いたところによると、越前南次郎というテニスではサムライと呼ばれた男の人がリョーマくんの父親だったというけれど――。
 何となく、納得してしまった。
 リョーマくんのおかげで私、テニスに興味持ったんだよね。
 中学でも高校でもテニス部で……大学でもちょっとかじって……まだテニスは辞めてないけど。
 リョーマくんはどうしてるかな。元気かな。テニス、まだ続けてるのかな。
「どうした? 桜乃。黙っちまって。リョーマのこと、気になるのか?」
「え、ええ……」
「お前の方がリョーマのことについては詳しいだろ? どうだった? あいつ。学校では」
「ええと……ストイックというか、クールというか……」
 だから、朋ちゃんもリョーマくんに惹かれて行ったんだよね……。
「そうだな。まぁ、生意気だったけど」
 跡部さんが笑うのが聞こえた。
 跡部さんにとってはリョーマくんは生意気だったと思う。でもそれ、認められてる証拠だよ。
「リョーマくんは、跡部さんのこと好きだったと思います」
「俺も、あいつ嫌いじゃねぇ。でなきゃ探し出そうなんて思わねぇ」
 リョーマくんは、跡部さんの話をしている時、笑ったことがある。
「あの人もさぁ……俺の為にヘリ飛ばしたりしてさぁ……バカだよね」
 そう言いながらもリョーマくんは嬉しそうだった。
「俺、絶対あのガキ見つけるよ。バカかもしれんけど」
 私は心の中の想い出を読まれたような気がして、つい、
(すみません)
 と謝るところだった。そんな余裕もなかったけど。……口下手なのが幸いした。
「あの……リョーマくんのこと、宜しくお願いします」
「おう。任せとけ」
「本当に、ありがとうございます」
「礼を言うのは俺の方だぜ」
「そういえば、さっきは跡部さんが『ありがとう』って……」
「礼の言い合いだな」
 また、跡部さんが笑った。リョーマくんの周りにはいい人がいっぱいだな。リョーマくんも楽しそうだったし。
 どうしてかな。どうしてリョーマくんはいなくなったのかな。やっぱりリョーマくん本人に訊かないとわからないかな。
「おや、桜乃ちゃん」
「お……おばあちゃん」
 私はついスマホを隠した。
「おや、彼氏からかい? 妬けるねぇ」
「そんなんじゃないの……跡部さんなの」
「おや。あの悪ガキかね。何してるのさ」
「さぁ……リョーマくんのこと、探してると思う」
「そうか。まぁ、宜しく言っといてちょうだい。アンタもリョーマのこと、好きなんだろ? ええ?」
「う……うん……嫌いじゃ、ない……」
 おばあちゃんの顔に憐れみのような表情が浮かんだ。どうしたっていうんだろう。
「じゃ、すぐ終わらせてダイニングに入っといで。もうすぐ夕飯だよ」
「は……はい……!」
 そして、私は跡部さんとの会話に戻る。
「今、おばあちゃんが……」
「竜崎スミレか。何だって?」
「あの……もうすぐ、夕食だって」
「んじゃ、俺はそろそろ切るか。アンタと話せて良かったぜ。何か、リョーマもすぐ見つかりそうな気がしてきた」
 跡部さんが電話を切った。私と話したくらいでリョーマくんが簡単に見つかるかどうかわからなかったけど、私には跡部さんの気遣いに優しさを見た。

後書き
『Sweet sorrow』シリーズ番外編2です。今回の主人公は桜乃ちゃん。リョーマモテモテだね。
そして今回も出張る跡部様……(笑)。
読んでくださってありがとうございます!
2016.5.4

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