リョーマの戦い 33

 スパーン、パコーン。
 リョーマと跡部は軽快なフットワークでラリーを続けていた。やがてそれが終わるとリョーマが言った。
「あー、いい汗かいた」
「そうだな。越前、なかなか回復が早いんじゃねーの?」
「そうかな。前はもっと体も思い通りに動いてたんだけどね」
「怪我する前――だろ? この間は精彩を欠いたラリーだったが、ちったぁマシになってきたじゃねーか」
「うん。もう少しで跡部さんをやっつけられるよ」
「ばーか。俺様が怪我人に負けるかっての。これでも手加減してるんだぜ」
「わかってる」
 堀尾がそわそわしながら見学している。彼もリハビリを順調に続けている。掘尾は結局手術を受けた。予後も良好である。若いからであろう。
 ――掘尾が入院してから年月が経っていた。リョーマも怪我の痛手から快方に向かっている。リョーマは手術の必要なし、と診断された。
「いいなぁ、越前。テニスができてさ。あー、早く俺もテニスやりたいなー」
「わかるよ。その気持ち。だけど、堀尾にテニスはまだムリなんじゃないかな」
「そうだな。テニスは結構ハードだしな」
 リョーマと跡部が堀尾に言う。
「だよなー」
 堀尾は青い空を見上げている。
「リョーマ様、跡部さんに樺地さん、ついでに堀尾! 差し入れ持ってきたわよ」
 小坂田朋香が大きな声を張り上げた。竜崎桜乃も一緒だ。
「何だよ、俺がついでって……」
「それから朗報。来年の地区予選、やっぱり出場することが決まったって。ま、当然と言えば当然よね。男テニは悪くないんですからね~」
 朋香が我が事のように喜んでくれることがリョーマには嬉しい。無事勝ち進めば、例年通り都大会の次には関東大会、全国大会が待っているのだ。いろんな敵と、また戦えるのだ。――跡部がいないのは寂しいけど。
「わー、ワクワクすんな。見てるだけでもいいから」
 堀尾が嬉しそうに拳を握った。
「私達も応援に行くからね! リョーマ様!」
「ありがと。小坂田」
「リョーマくん……がんばってね」
 桜乃が言った。
「あ……ああ……」
 リョーマは少し戸惑った。桜乃の戸惑いが伝わって来て。リョーマは帽子のつばを下げた。
「やーい、越前、照れてやんのー」
「堀尾、煩い」
「そういうもんじゃねぇぜ。掘尾はてめーの恩人だろうが」
 と、跡部。
「まぁ、それについては感謝してるけど……さ」
 リョーマは帽子のつばをいじくっている。確かに、リハビリ中も沢山堀尾達に助けられた。リョーマもクラスメートのリンチで負傷していたのだ。
 今はもう、リョーマに暴力を加える者はいない。掘尾が体を張ってクラスメートの目を覚まさせてやったのだ。
「ま、何はともあれ、大会出られるようになって良かったな。青学も」
 跡部がリョーマの帽子をぽん、と叩いた。
「帽子叩かないでください」
 リョーマがぶっきらぼうに応えた。
「ちょうど叩きやすい位置にあったもんでな」
「――将来は絶対跡部さんよりデカくなってやる」
「なってみな。チビ」
「リョーマ様と跡部さん、いいコンビね」
「うん」
 朋香と桜乃が微笑ましそうに眺めている。跡部が忌々しそうにリョーマを指差した。
「誰がこんなヤツ」
「その言葉、そっくりお返ししますよ。跡部さん」
「俺はこいつと漫才やる気はねぇの、なぁ、樺地」
「――ウス」
 ラケットバッグを二つ持った巨体の男が応えた。これでも跡部より一つ下なのだ。彼はトラックにはねられたが、もうとっくに退院していた。
「樺地、調子はどうだ?」
「ウス、自分も順調、です」
「――だとさ。越前、来年は樺地と対戦できるかもしれないな」
「ふぅん、ちょっと興味あるな。――ねぇ、跡部さん、樺地さんと俺が戦うとしたらどっち応援する?」
「樺地に決まってんだろ」
「――ウス」
 リョーマは誰にもわからないように舌打ちをした。だが、桜乃が気付いたらしい――彼女はくすっと笑った。
「おーい、来てやったぜ~」
「フシュ~。うっせーぞ、桃城」
「おチビ~、俺と打ち合いやろうよ~」
 青学レギュラーメンバーがOBも含めて走って来る。
「越前、堀尾。傷はまだ痛むかい?」
 悠然と歩いて来た不二が訊く。
「全然」
「そっか――俺はまだちょっといてぇな」
「仕方ないよ。掘尾。精神面ではともかく、体の方は君の方がより重傷だったんだから」
「そんな風に庇われるのさ、嫌じゃないけど、甘えてばかりもいらんねぇしさ――来年こそレギュラーになってやる!」
「頑張ってね」
 不二がはんなりと笑った。不二の後から来たらしい手塚も現れる。
「多士済々だな」
「――手塚部長」
「もう俺は部長じゃないと言ってるだろう」
「あ、ついいつもの癖で。でも、俺らにとってはいつまでも手塚先輩は部長のままっスよね。高等部に上がってもテニス部部長にもなるかもしれないし。それも考えられるよな、越前」
 堀尾がリョーマに同意を求める。リョーマも頷く。現部長の海堂が「フシュ~」と彼独特の息の吐き方をする。
「海堂が手塚を越えられなくて密かにショックを受けている確立60%……」
 乾がノートを取っている。
 大石は受験勉強、河村は寿司屋の手伝いをしていて来られないのだそうだ。
「二人とも、越前と掘尾に宜しく、と言っていたぞ。大石は特に残念がってた」
 手塚が伝える。
「ウッス。また会いましょう、と言っといてください。LINEでも伝えとくけど」
「おチビ~。打ち合いしようよ~」
 菊丸がラケットを持ってうずうずしている。
「それ、俺様のラケットじゃねぇか」
「え~? 跡部の? そう言えば握った感じが少ししっくり来ないにゃあ……」
「俺様専用のだからな。――まぁ、貸してやってもいいが」
「いいよ、もう。今度はマイラケット持ってくるから」
 菊丸は諦めたようだった。

 リョーマはPontaを飲みながら感慨に耽った。
 協力してくれた皆の為にも早く調子を取り戻さなければなぁ――。
 リョーマの戦いはまだ始まったばかりだ。生きることが戦いであるならば。そして、リョーマはまだ若い。
 そういえば、少年漫画の最終回のパターンに、『俺達の戦いはまだ始まったばかりだ』と言うのがあったな――。リョーマはぼんやりとそう考える。
 リョーマにもまだまだ伸びしろがある。
 いずれ跡部ともまた公式の試合で本気の戦いができるだろう。
 ノブ子からも手紙が来ていた。転校したら演技を本格的に勉強するそうだ。彼女の両親は娘が生き甲斐を見つけて喜んでいるようである。
 俺もテニス頑張んなきゃなぁ、と、リョーマは改めて思った。リョーマにとってテニスは全てだから。
 幸村と真田からもメッセージが届いていた。『来年の立海は強いぞ』――と。確かに立海には苦しめられそうだが、リョーマにも負ける気はこれっぽっちもなかった。
 来年も全国大会で勝って目指せ二連覇!

後書き
この話を書いたのは新テニを読む前だったので、いろいろと今の設定と違うところがあります。参考にしたのは旧テニです。
田代ノブ子の名前を考えた時には、田代雅痔というキャラが既にいるなんて思いもしませんでした。因みに田代クンは銀華です。
テニプリには「誰それ?」と言うキャラが多過ぎます(笑)。
それから、私はかなりの掘尾贔屓です。それがわかってもらえただけでも嬉しいです。
リョーマ嫌われなのに、全然嫌われになっていないと言う。
今度は跡部様嫌われだ!(笑)
皆さん、ここまで読んでくださってありがとうございました!
2016.9.6

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