リョーとケイのアイドルユニット 11

 リョーこと越前リョーマと、ケイこと跡部景吾W主演の『テニスの伝説』は、初回から上々の滑り出しだった。
 リョーマと跡部が仲良くなる過程は、二人の演技と緻密な構成が話題を呼んだ。
 時々、彼らのライバルになる遠山金太郎と明星楓にもスポットライトが当たり、金太郎や楓のファンも増えた。
 ドラマの役柄は、そっくりそのままリョーマと跡部に当て嵌まった。
 特に、最後のダブルス大会で、死んだと思われた跡部が元気な姿で現れた時には、最高視聴率33.8パーセントを叩き出した。
 リョーマ達と金太郎達の試合では、結果はわかっていても手に汗握ってはらはらするファンが多かったと聞く。
 リョーとケイの元には、いろんなドラマのオファーが殺到した。ファンレターもいっぱい来た。
 彼らはもう、
「このドラマで俺達は芸能界を引退します」
 と、宣言してもそれでも尚、
「辞めないでください!」
「私達はいつまでもあなた達を待っています」
 コールが続いた。
 引退するのはドラマが終わるまで、と決まっていたので、その期間、跡部とリョーマは忙しくしていた。どこへ行っても引退宣言のことは必ず訊かれた。
 バラエティー番組にも出演した。跡部とリョーマの掛け合いがあんまり面白いので、
「もうお前らだけで司会やれ」
 と、笑いながら言われたこともある。
 サインが欲しいと女性ファンが殺到することもある。
 関の車に乗った後も、ファン達はくっついて離れなかった。
 リョーマが清々しささえ湛えた顔で言う。
「参ったね。跡部さん」
「そぉかぁ?」
「俺達、ただの学生だよ。将来は芸能界でなく、テニスで活躍したいし」
「――俺もだ。リョーマ」
「俺さ……最初はアンタのこと嫌いだったんだよね」
「ほう? ま、お前に好かれようなんて思っちゃいねぇけど」
「でも、今は――好きっス」
「ほんとかよ。まぁ、お前の生意気なところ、俺も好きだぜ。お前が女だったら惚れてたかもな。でも――いや、それもないかもな。だって俺様には……」
 跡部はお茶を濁す。
(樺地さんがいるから――か)
 だけど、今はそれでいい。
(いつか絶対惚れさせてやる!)
 いい男になって――樺地よりいい男になって、こちらを振り向かせる。樺地も本当にいい男なので、超えるのは難儀そうだが。
「もうすぐ君達ともお別れなんだねぇ……」
 関がしみじみと言う。
「ずっと君達のマネージャー、やってたかったんだけどな……」
 そう言って、鼻の啜る音を立てる。
「連絡先は教えたでしょうが」
 跡部が言う。
「跡部さん、そういう問題じゃないって――」
 リョーマは跡部の鈍さに呆れている。関が言いたいことは、リョーマにはわかっているつもりだ。
(俺だって、跡部さんと芸能活動やってたの、しんどいばかりではなかったし――楽しかったこともあるし……)
 けれど、リョーマは泣かない。跡部には、これからもアタックし続けていくつもりだ。
 幸い、リョーマと跡部にはテニスという強い絆がある。
「あ、ラジオ聞くか?」
「――お願い」
 リョーマの短い答えに、関がラジオを回す。
「イェーイ! ワイも芸能界引退するでー!」
「遠山……!」
 聞こえてきたのは、リョーマにとってはすっかりお馴染みになってしまった金太郎の元気な声であった。
「えええ?! どうしてまた!」
 MCの驚きの声が流れる。
「やって、コシマエいない芸能界なんてつまらんもん」
「芸能界をつまらんなんて言うなー!」
 そこでどっと笑いが。
「金ちゃん、人気上がってこれからと言う時に……」
「やってコシマエもうおらんようになってまうやん。オサムちゃんからも許可はとったで」
「金ちゃ~ん……」
 MCが困れば困る程、観客席が沸く。
(もう仕様がないなぁ……遠山は……)
 リョーマも笑いを堪えるのに苦労する。何となく、人を和ませる力があるのだ。この遠山金太郎という少年には。
「コシマエというのは、越前リョーマさんのことですよね。『tapestry』のリョーの方の」
「他に誰がおるん」
「はぁ……リョーとケイに続いて、遠山君にまで辞められたら、女性ファンはドラマの時より泣くんじゃないかな」
「そうなんや……ごめんなぁ、皆……」
 金太郎が済まなそうな声を出す。
「まぁ、金ちゃん……君も忙しいだろうし、越前君のことが好きなのもわかったから……」
「おおきに! コシマエ、聞いとるか~。今度はテニスでホンマの対戦や」
 ドラマでは金太郎と楓のチームは負けることに決定していたから。金太郎がどんなに抗議しても、それをひっくり返すことなど出来なかった。ドラマの筋の根幹に関わるから。
 それにしても――。
「関さん、今、ラジオわざと……? 俺に聞かせる為に」
「いや、偶然だ偶然……」
 関も笑っているようだった。
「いいけどさ、笑ってないでちゃんと運転してよね。危ないから」
「俺様からもお願いするぜ」
 リョーマと跡部が関に言う。
「わかったわかった。あ、赤だ」
 関達の車が止まった。
「後で電話するね。関さん。跡部さんもするでしょ?」
「当然」
「ありがとう、君達……君達の試合には応援に駆け付けたいなぁ」
「無理しなくていいよ。関さんだって忙しいでしょ?」
 リョーマは、自然と大人の気遣いが出来る程に成長していた。
「ありがとう……」
「関さん。リョーマを青学に送ってやって」
「いいの? こっからだと氷帝の方が近いじゃん」
 と、リョーマ。
「いいんだ。俺も青学に行きたいから」
「……それ程手塚部長のことが好きなんスね……」
「あーん? 手塚は関係ねぇだろ。ただ、お前を見送ってやりたいと思ってな」
 それを聞いてリョーマの頬が緩んだ。
(どうしよう……すっごい嬉しい……)
 信号が青に変わり、車は青春学園へと向かった。

「あ、おチビ~。あとべーもいる~」
 菊丸が嬉しそうに声を上げた。レギュラーも平部員も続々とリョーマの元に集まってきた。
「お疲れ、越前」
「俺、今日来て良かったにゃ~。おチビに会えたもん」
 桃城と菊丸もそれぞれにリョーマを迎える。芸能界を辞めても、リョーマには居場所がある。――そして、跡部にも。
 リョーマは跡部に背中を押される。リョーマは振り向いて、跡部に対してにっこり笑う。日差しが爽やかだった。

後書き
リョーマと跡部様がアイドルになったらどうなるんだろうと思って書きました。彼らは既にアイドルですけど。
オリキャラも出張った話になりました。
関さんや楓もお気に入りのキャラです。この話も書いてて楽しかったです。
2017.10.13

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