忍足クンと幼稚園の子

「あ、跡部くん」
「あーん?」
 誰だっけ、こいつ。津川とか言ってなかったっけ?
「あ、あの……津島洋子です」
 ……違った。
「今日は樺地さんはいないんですか?」
「用があるってんでどっか行った。そのうち戻ってくるだろ」
「そうなんですか。いつも一緒にいるから……」
「お前、樺地狙いか? あーん?」
「いえ……樺地さんとは確かに親しくしてもらってますが。でも、今日はその……忍足さんにお礼を……」
 何だ。狙いは忍足か。
「忍足が何かしたのか?」
「ええ。あの……幼稚園児の妹の世話をしてくれてありがとうって、お礼言いたかったんです」
 忍足に――幼稚園児の妹を?!
 こいつ、噂を聞いてねぇのか? 忍足は幼女を愛する変態だぞ!
「ウス」
「よう、樺地。戻って来たか――忍足んところへ行くぞ! 津島、幼稚園の場所を言え!」
「ウス」
 津島は何が大変なのかちっともわかっていないようだった。
「あ……あの……青山第三幼稚園です」
「忍足に妹の世話を任せてるって? いつからだ?」
「あ、あの……昨日です。妹が懐いていると言うので、今日も任せてしまいました」
「そうか。手遅れにならんうちに行くぞ、樺地!」
「ウス」

 幼稚園では、女の子と忍足侑士がほのぼのと遊んでいた。
「やぁ、みっちゃん、砂遊び上手いやんなぁ」
「ユーシおにいちゃんもやってぇ」
「ほな、手伝おか」
「ユーシおにいちゃんあそんでー!」
「幼女がこんなにいっぱい……ここはパラダイスやんなぁ……」
「忍足逮捕ー!!」
 俺は忍足の後頭部にキックをかました。
「何やねん、景ちゃん」
「お前こそ何だ! 幼児に鼻の下伸ばしやがって――」
「跡部……ははぁ、跡部、嫉妬してるんやな。まぁ、跡部、いや、景ちゃんは景ちゃんで可愛がったる……」
「いらんわー!」
 俺の二発目のキックが忍足の丸眼鏡を直撃した。
「何やねん、もう……眼鏡は壊れてまうし、跡部は相変わらず怒りんぼさんやなぁ……」
「保母さん! うちの忍足が何か変なことしなかったでしょうね!」
 俺が先生の方に向き直る。
「いいえー。そんなことちっとも……かえって皆の面倒見てくれて助かってます」
「こいつは自分の好みで面倒見てるだけ……」
「わぁっ! ユーシおにいちゃんかっこいいー!」
「へ?」
「うん、ちょうイケメンー」
「めがねとったほうがいいよー」
「おれもめがねとったらユーシおにいちゃんのようにかっこよくなれるかな……」
 忍足は男の子にも好かれてるらしい。
「恥ずかしいねん。あまり見んといてや」
「なんでぇ? かっこいいのに」
「はずかしがるユーシおにいちゃん、かわいい」
「年上をからかうもんやないでぇ~」
 忍足は顔を隠しながら、「イヤン」と言っていた。
 彼のダブルスの相棒、向日がいたらさぞかし引かれてしまうところだったろう。俺様も充分引いていたが。
「おら、帰るぞ。忍足。我が氷帝のテニス部からはまだ逮捕者は出したくねぇ」
「ええ~?! 俺ら仲良く遊んでただけやでぇ」
「そうだよ。ユーシおにいちゃんはいいひとだよ」
「きざなおにいちゃん、ユーシおにいちゃんいじめるからきらい」
「あとべのおにいちゃんをわるくいうやつはゆるさねぇ」
 あ、こいつ、駄菓子屋でいつも会う子だ。確か村井と言ったなぁ。
 何だか、俺のグループが経営している駄菓子屋で顔見たヤツも大勢いるなぁ。
「ユーシおにいちゃんのほうがかっこいいもん!」
「あとべおにいちゃんのほうがいいおとこよ!」
 俺様の陣営と忍足派の女の子達がぎゃあぎゃあ言い合う。
 ――俺様のこと好いてくれるのは嬉しいが、幼女は流石になぁ……。忍足みたいに犯罪者にはなりたくねぇ。
「みんな、俺のことで争わんといて。俺、跡部とも充分仲ええから」
 喧嘩をやめて~……そんな歌が昔あったみてぇだな。
「あとべ~。何やってんの?」
 ジロー! ああ、この眠たげな顔が天使に見える!
 助かった……その時俺様は故もなくそう思ったが……。
「ジローおにいちゃん」
「ジローおにいちゃんあそんで~」
 今まで喧嘩していた子供達がジローのところに集まってくる。
 何か、ジローに持ってかれた感じ……。
「今日はねぇ……リョーマと来たんだよぉ」
 リョーマか……悪い予感しかしねぇな。
「やぁ」
「あ、越前さんだ~」
「――俺、ガキの相手の仕方なんて知らないんだけど……」
「クール~」
「かっこいい~」
「ダメダメ。リョーマにいちゃんはおれらのもんなの!」
 リョーマも意外に人気あるんだな……。
「テニスやる?」
 冗談言うな。この幼稚園にテニスコートなんかねぇぞ。
「あ、あの……近所にテニスコートがあるんで……道具の貸し出しもしてますよ。子供達も大勢遊びに来ています」
 保母さんが言う。
「じゃあ行こう」
 子供達はわらわらとリョーマについて行った。
「あ、そうだ。跡部さんも来てください。俺、アンタに会いに来たんで」
 そうか……俺様と試合したいんだな。リョーマのヤツ。
「……越前もようやるわ」
 無駄なエロボで忍足が呟く。どういう意味だ? 俺様が首を傾げていると――。
「跡部さん……榊先生に津島さんから連絡があったようです。何だか、よくわからないけど跡部さんにご迷惑かけたようで申し訳ないって」
 幼児を背中であやしながら樺地が言った。樺地と幼子だったら、ほのぼのしていて和む光景なんだけどなぁ。忍足と違って。
「ジローさんはこの幼稚園によく遊びに来るんです」
 保母さんが説明した。ふぅん、だからジローは懐かれてんのか。寝ているだけかと思ったら。
 でも、忍足はもうここには連れて来ない方がいい。
 俺様は忍足に「もう幼稚園になど行くな」と釘を刺すことも忘れなかった。

後書き
2019年12月のweb拍手お礼画面過去ログです。
やっぱり幼女が好きな忍足クン。
犯罪が起こる前に止められて良かったかも(笑)。……これは冗談ですし、忍足クンが本当に犯罪を犯すとは思っていませんが。
2020.01.02

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