俺と跡部さん

「跡部さん、今日は跡部さん家に泊まっていいですか?」
「あーん? どうしておめーを俺様の豪邸に泊めてやんなきゃなんねぇんだよ」
「手塚先輩も一緒ですから」
「――今日だけだぞ」
 跡部さんは手塚先輩に弱い。何でだろう。ライバル同士なのに。それを言ったら、オレと跡部さんだってライバルなんだけど。
 オレは越前リョーマ。青春学園テニス部の部員。跡部さんの通う氷帝とは犬猿の仲だ。
 氷帝コールが聞こえる度、オレはイライラしている。
 それなのに、どうして跡部さん家に行きたがるかって?
 それはね……やっぱり跡部さんが好きだから。
 バリカンで坊主にしたこともあったけど、オレ、手加減したんスよ。丸刈りでなくド短髪で我慢しました。
 跡部さんキレイな顔なのに、津川や花井じゃ気の毒だもんね(津川は黒バス、花井はおお振りのキャラ。共に丸坊主)。石田銀さん路線も似合わないだろうし。
 オレ的には上手く行ったと思ったのに……跡部さんたらカツラかぶって登場するんだもん。卑怯だよ。せっかくかっこよくしてやったのに。はぁ。
 それに、カツラは蒸れるからハゲても知りませんよ。
 まぁ、元の髪型の跡部さんも好きなんだけどね。キレイな男の人って得だな。
 そうだ。手塚先輩に跡部さん家に泊まるか訊いてこなくちゃ。
 恋敵に手を貸すのは気が進まないけど、手塚先輩には不二先輩がいるもんね。跡部さんざまーみろ。
 手塚先輩はきっと断ってくれるに違いない。空気を読んで――。
 と、思ったのだが。
「よし、オレも行ってやる」
 ええっ?!
「ちょっ! 待ってください! こういう時は空気を読んで――」
「お前一人で行かせると何するかわからない」
「ちぇー」
 せっかく断ってくれると思ったのに。
「ちょっと待ってろ」
「へーい」
 オレが大人しく待っていると。
「あー、不二か? 今日の約束、ダメになった。――ああ、ああ。この埋め合わせは必ずしてやるから――」
 ふうん、不二先輩、手塚先輩のこと尻に敷いてるんだな。オレが何となく面白くてにやついていると。
「――というわけだ。不二には用件を話しておいた。不二もわかってくれた。――まぁ、今日はオレはお前のお目付け役というわけだ」
「ふぅん……」
 あー、残念だなぁ。跡部さんとの二人きりの夜――尤も、跡部家には使用人だの何だのがいっぱいいるんだろうけどさ。
 でも、それは何とかなるだろう。厄介なのは、手塚先輩一人。
 オレはこれみよがしに溜息を吐いてやった。
「どうした? 越前」
「べーつーにー」
 ちょっとご機嫌斜めのオレは不機嫌な声で答えてやった。
「跡部に連絡つけてくれ」
「りょうかーい」

 跡部家は思ったより広くてでかかった。
 こんなところに住んでるのか。跡部さんは。羨ましいというより、何だか気疲れしそうだな……。
「よく来たな。手塚。越前」
 跡部さんが出迎えに来てくれた。でも、名前の順が……オレの方が後だった……。
 こんなこと気にするオレは多分ガキなんだと思う。いいもんね。ガキでも。
 料理も美味しかった。跡部さんのテーブルマナーは優雅だ。それに余裕すら感じられる。子供の頃から躾けられているんだろうな。
「越前」
 手塚先輩はつんと、オレの腕をつついた。
「食べたそうな顔してるぞ。お前」
 え? 跡部さんを? そっか。手塚先輩にはわかるか……。
「何だお前ら。お代わりだったらたくさんあるぞ」
 ……跡部さんの鈍さは国宝級っス。つか、やっぱり跡部さんてアホなんですねぇ。

「ここ、使え」
 跡部さんが案内された部屋は――すげぇ広かった。まぁ、こんなことでびっくりすることはないけど。もう慣れた。
「手塚先輩も一緒なんですね」
 跡部さんは頷いた。パタン、と扉が閉まった。
 部屋を改めた後、手塚先輩とオレはベッドに荷物を降ろす。その後オレは先輩と二人でしばらく話していた。主にテニスや部活の話だ。――オレは時計に目を遣った。
「あ、もうこんな時間」
「風呂は湧いてるんだろうか。ここの風呂でもいいんだが――せっかくだから広い風呂に入りたい。ほら、あるんじゃないか? 大浴場とか」
「さぁ」
 オレに訊かれたって知らないよ。つか――
「手塚先輩、跡部さん家初めて?」
「ああ」
 オレはちょっとほっとした。だってさぁ、手塚先輩と跡部さんがあんなことやこんなことしてるんだと思うと――。
「あ、オレ、風呂のこと訊いてきますよ」
「ああ。頼む。ちょっと疲れた」
 手塚先輩も緊張していたらしい。オレも人のことは言えないけど、手塚先輩も案外メンタル弱いっスね。
 使用人に跡部さんの部屋の場所を訊いて、オレは勇んで入って行った。
「何だ?」
 読書中の跡部さんがキレイな眉を顰めた。やっぱ読書が趣味ってほんとだったんスね。
 ていうか、跡部さん、ピンクのネグリジェなんだけど。超萌えるんだけど。ピンクのネグリジェが似合う男が日本にいるとは思わなかったっス。
「オレ――手塚先輩と一緒に来たけど、ほんとは一人でこの家来たかったっス」
「お前にまた坊主にされたらかなわないからな」
「ふふっ。あれはオレの好みですよ」
 オレは跡部さんの机に座り込んで囁いた。
「キレイですよ。跡部さん」
「知ってる」
「オレ、跡部さんのこと好きっスよ。――跡部さん、いい匂いする……抱きたい……」
「は……」
 跡部さんがうっすら汗をかいている。――跡部さんの匂いと汗の匂いが混じって何とも言えない、いい香りになっている。
 跡部さんがごくんと唾を飲んだ。
 もう少しだ。もう少しで跡部景吾は落ちる。
「なんてね。じゃ、オレ、手塚先輩が待ってるんでもう行きますね」
 退くのも戦法のうち。
「返事、考えといてください」
 ――跡部さんを揺さぶった自信はある。後は跡部さん次第だ。
「ああ、そうだ。風呂湧いてる?」
「――湧いてる」
 跡部さんは大風呂の場所を教えてくれた。
「迷ったら誰かに訊け」
 と付け足すのも忘れない。いい人なんだ。跡部さん。本当は。――属性俺様だけど。
「跡部さんも入りません?」
「もう入った。部屋にもオレ専用の風呂があんだよ」
 ――ホテルみたいっスね。オレ達が案内された部屋にも風呂、ついてたし。部屋を出て広い廊下を歩いていると手塚先輩に会った。
「越前――跡部に変なこと言わなかったろうな」
「さてね……お風呂湧いてるって。風呂場は右へ曲がって真っ直ぐ行って左だよ」
「わかってる。さっき執事が教えてくれた」
 オレは手塚先輩を置いて鼻歌で部屋に戻ろうとした。背中に手塚先輩が呟くのが聞こえた。
「跡部……えらいヤツに惚れられたな」

後書き
リョ跡……書いてしまったリョ跡……。
坊主シーンについては原作見てから書こうと思ったのに……まぁ、坊主シーンが主体じゃないですが。
さぁ、跡部さんはどうする、どうなる~。
これがテニプリ小説第一号です。ちょっぴり塚不二も入ってます(笑)。
2015.7.6

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