俺の可愛い宍戸先輩
はぁー……可愛いなぁ……。
宍戸先輩は長髪の頃はかっこよこったけど、自分の意志で髪を切った後は何か可愛くなった。
可愛くてかっこいい、宍戸先輩。
「おう、何見てる。長太郎」
宍戸サンがこっちを向いて言う。まさか、あなたに見惚れてましたなんて恥ずかしくて言えない……。
因みに俺は鳳長太郎。氷帝テニス部レギュラー陣の皆からはチョタとか長太郎って呼ばれている。
「ほら、鳳。お前も練習しろ。私はお前とて容赦はしないぞ」
伊達男の榊太郎先生が言った。テニス部の監督だ。ただの音楽教師と名乗ってはいるがその正体は謎に包まれている。
ただ、とんでもなく厳しい人だ。
「わかりました」
宍戸サンと練習できるなんて嬉しい。口元とかだらしなく緩んでないかな。
榊先生はジロー先輩を起こしにかかった。無駄な努力だと思うけどな……。俺は素振りを始めることにした。
しかし、榊先生がテニスコートに現れるなんて珍しい。こういうのは跡部サンの役目だと思ってたんだけどな。
「おい、チョタ」
おっと。噂をすれば何とやら。別に噂してた訳じゃないけど。俺は素振りの手を止めた。
「跡部サン」
「宍戸が気になるのか? あーん? さっきからあいつに視線ちらちら投げて寄越してるだろ」
……さすが。インサイトで見抜いたんだろうか。今度は誰も気づかないだろうと思ってたのに。跡部景吾サン。この人もなかなか謎な男だ。氷帝軍団200名の上に君臨するテニス部の部長だけれど。
「あ、今日は樺地サンいないんですか?」
「あーん? 顔洗ってるよ。あいつなら」
「――ウス」
「わっ、急に出てくんな! 驚くだろうが!」
「……ウス」
「べ、別に怒ってるわけじゃねぇからな」
跡部サンは樺地サンを顎で使っている。そういう噂だが、跡部サンは樺地サンに結構気を使っている。
――お似合い、かもな。
宍戸サンは誰を好きなんだろう……。気になる……。
もしかして、これって恋?
だって、宍戸サンと一緒にいられるだけで嬉しいもんね。宍戸サンは来年は高等部行っちゃうけど。
はぁ、それにしても可愛いなぁ。あの口調や髪型。
――俺、宍戸サンを、好きになったみたい。
前から好きだったけど、もっともっと好きになる。
宍戸サンは俺の気持ちになんかちっとも気付いていないようだけど。鈍いからな。
やっぱり宍戸サンにこの気持ち伝えた方がいいかな。
でも、引かれたり、気持ち悪いと思われたらやだな……。しばらくしてから俺は休憩を取ることにした。そんな俺に声をかけてくれた人が。
「チョタ、何や、今のお前、覇気あらへんで」
「忍足サン……」
忍足サン。フルネームは忍足侑士。恋愛小説に詳しいとのことだ。でも、ほんとかな。
だって、忍足サン、向日サンの気持ちにはこれっぽっちも気付いてないんだもん。忍足サンは跡部サンが好きみたいだけど。ま、全部ジロー先輩情報だけどね。
そのことはまぁいい。全て時間が解決するだろう。
俺のこの思いも……。俺の目はまた宍戸サンに吸い寄せられた。
「チョタ……お前ホンマに宍戸に夢中なんやなぁ……」
「え……?」
俺は忍足サンの方を見る。忍足サンの丸眼鏡がきらりと光った気がした。どうやら伊達眼鏡らしいのだが。
やっぱり忍足サンは只者ではなかった。例え向日サンの気持ちには疎くても。
「お前、宍戸が好きなんやろ?」
大阪弁で聞いてくる。青みがかった長髪に知的に見える眼鏡。そんな忍足サンには人の心を開く不思議な力がある。
「……好きです」
「そうか。――ほな、応援しとるで」
えっ?! 応援だけですか?
俺が驚いていると――。
「宍戸には自分で言うこっちゃな」
と言い残して向日先輩のところへ向かった。
そうだよね。これは俺の問題だ。
宍戸先輩へ届け一球入魂!
――今日は宍戸サンを呼び出した。
何って? 告白する為だ。
宍戸サン、OKしてくれるかな。……するはずないよな。
だって、男同士なんて、俺だって相手が宍戸サンじゃなかったらゴメンだもんね。
でも、忍足サンから勇気をもらったからいいのだ。
こうなったら、男らしく腹を決めて!
「おう、長太郎」
「宍戸サン!」
俺の顔はさぞ晴れやかになっていることだろう。
「何だ、話って」
テニス部の部室。跡部サンが勝手に改良して自分にとって居心地良くしてるけど、今は跡部サンはいない。
「あ、あの……」
好きです。
その一言がなかなか言えない。
「す……す……すすろてっぱい……」
呂律が回らない。これはダメかと思った瞬間。
「遠慮なんてしなくていいんだぞ。長太郎」
宍戸サンがとんでもなく可愛らしい笑いを見せたので――俺は頭に血が昇り、ふら~っと倒れた。要するにのぼせたのだ。
「おい、どうした、長太郎? ジローの真似……じゃねぇよな」
ジロー先輩は暇さえあれば眠っている。けれど、これはそれとは違う。
「保健室行くか? ん?」
「行かない……」
「じゃ、跡部呼んでくっか? 尤も、こんな時じゃ頼りにならないかもしれねぇけどな」
ああ、宍戸サン……。
「行っちゃやだ……」
やっとそれだけ言えた。
「デカい図体してそんな可愛い声出すんじゃねぇ」
「可愛い? 俺がですか?」
宍戸サンはしまった、という風に口元を抑えた。
「宍戸サン!」
俺は急に元気になり――その勢いで言った。
「俺、宍戸サンが好きです」
宍戸サンが真っ赤になった。いや、人間の顔色なんてそうそう簡単に変わるもんではないかもしれないけど、俺にはそう見えたのだ。
可愛い……。宍戸サンは俺を可愛いと言ってくれたけど、俺にとっては宍戸さんの方が何万倍も可愛い。
「言うのがおせーんだよ。ばーか」
う……そう来ましたか。宍戸サンは俺の気持ちになんてとっくに気付いてたんですね。ああ、良かった。
「俺も……長太郎のこと好きだ」
ふい、と視線を外して宍戸サンが呟いた。
「宍戸サン!」
「わぁっ!」
俺は宍戸サンに抱き着いた。重いんだよ、お前は!と宍戸サンが叫んだので、俺は加減することにした。
「ったく……激ダサだぜ。こんな茶番劇」
激ダサとは宍戸サンの口癖だ。でも何か満更でもなさそう。
――良かった。いつもの宍戸サンだ。でも、俺は激ダサとは思わない。俺はともかく、宍戸サンは最高にかっこよくて可愛いよ!
後書き
2019年11月のweb拍手お礼画面過去ログです。
鳳宍も好きです。
テニプリには好きなカップリングが沢山いて、困っちゃいますね。
2019.12.02
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