樺ちゃん・・・

 跡部ったらひどいC~。樺ちゃんは跡部を庇う為に出て来たんだよ。
 確かにルール違反ではあるかもしれない。けれど、合宿所退去なんてあんまりだC~。
 そんな樺ちゃんに跡部も、
「みっともないマネしやがって」
 だの、
「バカヤロウ」
 だの、捨て台詞吐くことないだろ~。
 俺達は仲間だったじゃないか。それに、跡部は樺ちゃんにすごくすごく世話になってたじゃないか。
 跡部は時々つっけんどんな言い方するけど、樺ちゃんのことは大事に思ってると思ってたんだよ~。
 それなのに、それなのに~。
 ま、いいや。跡部なんてもう知らない。樺ちゃんにLINE送る。見てくれるかな。
『大丈夫? 樺ちゃん』
 返事は意外と早く来た。
『ウス。大丈夫です』
 俺も返信。
『うん、跡部ね、本気で言ったわけじゃないからね』
 今度は少し間が空いた。そして、返事が来た。
『ウス。わかってます』
 まぁ、俺だって跡部の言いたいこともわかる。あの高校生達はいい人達だから見逃してくれたけど、本当は中学生チームの反則負けになってもおかしくないかもしれない。
 ――跡部はそんなことは一言も言わなかったけど。
 でもさ~、だってさ~。
 樺ちゃんは跡部のいい相棒だと思ってたんだよ。あんな風に仲E友達が出来たらな~、て、憧れてたんだよ。俺。
 ムカついた。跡部とはもう口きかない。
「おい、ジロー」
「何? 亮ちゃん」
「おー、怖い顔。お前、跡部に腹立ててんだろ」
「そうだけど」
「俺だってそうだよ」
 あ、桃城くんだ~。
「でしょー。桃城くんもそう思うでしょー」
「でもな、あいつらはあいつらで今まで何とかやってきたんだろ? だから、大丈夫だよ。ほら、樺地の方が大人だと思うし」
 それはわかる。樺ちゃんはいっつも跡部に味方していた。今回だって……。
「えっ、えっ……」
「ジロー、泣いてんのか?」
「だってひどいC~。最後の台詞がバカヤロウなんて、いくら何でもひどいC~」
「ジロー、おめーも経験あんだろ。男ってのは、真剣勝負を邪魔する奴にはつい言い過ぎになったっておかしくないんだ」
「宍戸さんもそうでしたよね」
「るせーよ、長太郎」
 そう、チョタも一緒にいるんだった。ああ、和む……。この二人が言うと、何だそっかぁ、って思ってしまう。
 でも、もう一度。樺ちゃんにLINEっと。
『樺ちゃん、跡部のこと、許したげて』
 送信。今度はまた比較的早く来た。
『許すも何も。自分が悪いのですから』
 ――ダメだよ。樺ちゃん。自分を卑下しちゃダメ。
 でも、樺ちゃんが許すなら、俺も跡部のこと、許さないとな。
 樺ちゃん、跡部が一軍に行ったよ。
 それを書くと、樺ちゃんは、
『それは、良かったです』
 と、送って寄越した。
 いいヤツだよなぁ、樺ちゃん。
 跡部は一軍に行ったから、俺達とはもう会う機会ないかな。
 ううん。勝てばいいだけの話。俺は勝たなくちゃ。跡部の本当の気持ちを確かめる為に。
 跡部とダブルス組んでた仁王は、もう殆ど体力使い果たしちゃったけど、本当にすごかった。
 二人の最後の追い上げ、樺ちゃんにも見て欲しかったな。
 スマホが鳴った。あ、跡部?
 跡部だ、跡部だ。
 俺がテンパってると、
「出てあげてください」
 と、チョタが。こいつもいいヤツなんだ。チョタは亮ちゃんと付き合ってるんだ。亮ちゃんは長太郎って呼んでる。
「跡部? もしもーし」
『おー、出たか。お前のことだから出ないとか思ってるかとばかり……』
 むぅ、読まれてるし。
「本当は出たくなかったけど、チョタに言われて……」
『仕方なくってとこか。あのなぁ、ジロー』
「何?」
『俺はワガママだと思うか?』
「うん、かなり」
『このやろ。――でも、樺地はそれでいいって言ってくれた』
「樺ちゃんは跡部を甘やかし過ぎなんだよ」
『俺もそう思う。――さっきのはその……反抗期のガキみたいで、かっこ悪かったと思う』
「じゃあさ、樺地と話しなよ」
『今はムリだ。気持ちの整理もある』
「樺ちゃんは気にしないよ」
『だろうな。でも、またあいつを傷つけるようなこと言っちまうんじゃないかと、怖ぇんだ』
「跡部にも怖いものあったの」
『俺を何だと思ってる。――実は俺は樺地も怖ぇんだ』
「怖いの? なして?」
『あの包容力さ。あいつはどこまでも俺を追いかけて、「ウス」と言ってついてくる。それが悪い訳じゃねぇ。ただ、プレッシャーなんだ』
「そうなの?」
『でも、それを失うのも怖い俺様もいる』
 樺地は跡部にとってお母さんみたいなもんかなぁ。――ううん。お母さんと言うよりは……何だろ。
『俺様はさ、樺地が嫌いな訳じゃねぇ。でも、少しあいつとは距離置いて――自分を見つめ直してみたい』
「樺ちゃんにそう言えばいいのに」
『言えるか。樺地はそれを気にしている。俺の捨て台詞なんかよりずっと堪えると思うぜ。だから――ちょうど良かったんだよ。ちょうど良い機会だったんだよ』
 俺は――野生の勘で跡部が嘘ついてることを見抜いた。
 跡部は、寂しいんだ。だからこそ、怖いだの、距離置きたいだの言って、自分を誤魔化している。
 いつものケンカとは訳が違って、なかなか会う機会は少なくなるような気がするC~。
「あのさぁ、跡部。誤魔化してない?」
『はぁ、誤魔化す?』
 電話の向こうの跡部は明らかに気を悪くしたようだった。――ビンゴだね。
「跡部、本当は後悔してんでしょ」
『…………』
 電話の向こうは、無言。
「気になるなら後で謝っておいた方がいいよ。樺地は別に気にしてる様子なかったけど。それじゃ」
 俺はピッと電話を切った。
 後は二人の問題だよね。
 大丈夫だよね。きっと。跡部と樺ちゃんなら、こんな危機も乗り越えられるよね。危機って言ったらオーバーか。
 でも――跡部と樺ちゃんは絆と言う見えない糸で繋がっている。樺ちゃんも寂しいだろうけど、やっぱそのうち跡部の方から切り出すのかな。樺ちゃんはそれを待っていて。
 跡部が樺ちゃんのことも考えててくれたようでちょっとほっとした。ほっとしたら、眠くなってきた。お休み~。
 亮ちゃんが、「よくこんなところで寝られるなぁ」と感心してたみたいだけど。それとも呆れかな。どっちでもいっか。いつものことだもん。

後書き
2019年1月のweb拍手お礼画面過去ログです。
ジロちゃんが主人公の話って珍しいかも。
樺地を気にしているジロちゃんは優しいと思います。原作で、ジロちゃんは樺地のことを樺ちゃんと呼んでいるんですね。萌え。
桃城せっかく出したのに活躍させられなかったのが残念。
2019.02.02

BACK/HOME