十人のインディアン・ボーイ 10

 ――そして大団円。

「こっちだ。リョーマ」
「あ、この部屋は!」
 ――忘れもしない、俺が一番先に通された部屋だ。確か、使えない飾り物の暖炉があって……。
 あっ、そうか!
「ここが抜け道になってるんスね?!」
「そうだ」
「やっと気づいたか」
「この部屋にはあまり来ないもんで……」
「じゃ、俺達も行こう」
「ああ。越前。通路を通る時は頭をぶつけないように気をつけて」
「リョーマぐらいの背丈なら悠々だろ? な、リョーマ」
「う~……」
 確かに跡部さんの言う通りかもしれないけどさぁ……俺だって、背の高い悩みとかで悩んでみたいよ。あー、早く大きくなって身長伸びないかな。
 そんなこと言うと、跡部さんに笑われそうな気がするけど。
 抜け道は案外広かった。狭いのは入り口だけか。
 そこで――俺は驚くものを見た。
 いや、今まで消えたメンバーじゃない。意外だったのは。だって、彼らが一ヵ所に固まっているのは確かだったから。俺だってそれを見抜けない程まぬけじゃない。
 そこは、洞窟の中に作られた部屋だった。
 そして――
「ハッピーバースデーリョーマ!」
 という声と、さっきの拍手を思い出す……いやそれよりも大きな拍手が!
「こ、これは……?!」
「サプライズやで~。な、王様」
 金太郎が跡部さんに気安く声をかける。跡部さんが大きく頷く。
「おめでとう、ボウヤ」
「またひとつ、大人になったな」
「イェーイ。生まれてくれてありがとう! コシマエ!」
「えーと……取り敢えずおめでとう言わせてもらうわ。それから――エクスタシー!」
「……おめっとさん」
「おめでとうございます」
「良かったな。リョーマ。あ、急に姿消してごめんな」
「おん。良かったやん。無事誕生日を迎えられて」
「僕も姿を消してごめんね。君の驚く顔が見たかったんだ」
「――越前。これからも青学テニス部を宜しくな」
「リョーマ……」
「跡部さん……」
 あ、これは……。
 跡部さんが何も言わなくてもわかった。ふわりと薔薇の香りが飛ぶ。俺達は口づけを交わした。ぴーぴーと囃す音が聞こえる。
 洞窟の中では明かりが赤々とともっている。俺は跡部さんと手塚先輩の隣に座った。
「あ、そうだ。――手塚、何か発表すべきことがあったんではないの?」
「ああ――今日、この場で言わせてもらいます。俺、手塚国光と、不二周助は、ここで婚約発表をします」
 囃子の音がますます高く大きく鳴った。
「おめでとう! 手塚、不二」
「ありがとう、幸村」
「おめでとう。――先輩達に持ってかれちゃったね。それとも、跡部さん、俺達も婚約発表する?」
「ふん、二年は早いな」
「ふぅん。じゃあ、二年後なら婚約していいの?」
「しまった……!」
 言質を取られたと、跡部は口元を押さえた。
「跡部。藪蛇になるからキミは黙っていた方がいいんじゃない?」
「ええやん。もう婚約したも同然やろ?」
「だって、そっちの方はまだ全然進展してなくて――」
「ミカエルさん達は忙しかったんだろ? いちゃつき放題だったじゃねぇか」
「だって――俺が勇気を振り絞って夜這いに行ったというのに跡部さんたら俺のこと追い出すんだもん!」
「あ、あ、当たり前だ!」
 跡部さんが必死になって、叫ぶ。
「越前中一やろ。いやぁ、犯罪やわ」
 そう言って呵々大笑する大阪人。言わずと知れた忍足侑士さんである。
「あの人、誰? 忍足さんて、あんなキャラだったっけ?」
「いやぁ、俺様にもわからん。確かに忍足には見えるが、忍足はもっとこう――陰があるというか……」
「だって、俺達幸せだもんなぁ、侑士」
「せやで、がっくん」
 これは、もしかしたらもしかすると――。
「えー! もしかしてアンタらデキたの!」
「おめでとう! おめぇらの艱難辛苦は近くで見ててよくわかってるぜ!」
「いや、その……キスまで進んだんだ」
「キスまでぇ?」
「あ、その……罰当たりやったかな」
「そーんなの、ねぇ」
 たかがキスくらい……と思っている俺はただれてんだろうか……。
「何にせよ、良かった。国光。高校は日本から通うんだろ?」
「――いや、ドイツだ」
「わかった。ドイツに追っかけて行くよ!」
 みんな一瞬無言になった。
 ――不二先輩も確かに変わったのだ。
「良かったな。ドイツはええところやで。この俺が言うんやから間違いなしや」
 忍足さんがどんと胸元を叩く。
「そうだな。忍足はドイツに行ったことあるもんな」
「ふぅん。俺はドイツまで行かなくていいよね。でも、俺、アメリカの水が体に合ってるんだ。で、その――もし良かったら跡部さんも……跡部さんはイギリスの方がいいかもしれないけど」
 俺が思い切って言った。
「イギリスはいいとこだが、飯が不味いんだよ。飯が旨けりゃ、俺様はどこへでも行く」
「うん! 俺、料理の旨い店一杯知ってるんだ。今度教えてあげるよ」
「宜しく」
 ぴーぴーきゃーきゃー。陽気で結構なことだが、少し煩い。
「こら、お前ら。あんまり暴れるんじゃねぇ。リョーマは少し疲れてるようだからな」
「アンタのせいもあるんですけどね。サル山の大将さん」
「ははっ、サル山の大将と言う言葉は久々に聞くな」
「俺らサル山のサルなん? 跡部がボス猿で」
「まぁ、細かいことはどうでもいいじゃねぇか。侑士。お前も手塚や越前見習って、みんなの目の前で婚約発表してミソ♪」
「でも、俺は――恥ずかしいやんか……」
「おっ、忍足のヤツ、前のキャラに戻ったぞ」
 宍戸が忙しいやっちゃ、と笑った。忍足は続ける。
「……それに、がっくんがいくら納豆好きでも、俺は納豆食えへんし――」
「慣れろよ、そのぐらい」
「うっ……」
「はっはあ、今から尻に敷かれてんな」
 跡部のこの言葉を合図に、みんながどっと大爆笑した。使用人のひとりが抜け道を通って現れた。
「皆さん、大盛り上がりのところすみません。――屋敷の方のお祝いの飾りつけがもうすぐ終わりますよ。今日はクリスマスイブでもありますからね」


後書き
このシリーズは大団円まで一気に書いてしまいました。
pixivで連載していたのを再録。
リョーマくん、フライングだけど誕生日おめでとう。
2019.12.17

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