腹心の友 5

 跡部が勝手に決めた記念日『腹心の友の日』の第一回テニス大会は忍足・向日ペアが優勝して賞金百万円を獲得した。
 越前・手塚ペアは跡部・樺地ペアをくだし決勝まで行ったが忍足達に敗れた。ちゃっかり桃城・神尾ペアも参加していた。いい試合だったが相手が悪かった。桃城・神尾ペアは一回戦で敗退した。
「うーん、やっぱ息が合わないんスかね。手塚先輩とのダブルスは桃先輩と組んだ時よりもやりやすかったけど」
「やはりダブルスは練習が必要だな。来い。越前。今からしごいてやる」
 越前は手塚の後をついて行った。氷帝のコートでは跡部が、
「あそこで俺様が凡ミスしなければ~!」
 と悔しがっているのを樺地が一生懸命宥めていた。

「なぁ、侑士。百万円何に使う?」
「そやな。何に遣おか」
 優勝した忍足侑士と向日岳人が賞金の使い方について話し合う。岳人が言う。
「勉強机を新しくするとか」
「百万もあるんやで」
 忍足が答える。
「ユニフォームを新調するとか」
「百万もあるんやで」
「新しいテニスコートを買うとか」
「百万しかないんやで」
「は~、どうしたらいいかな~」
「賞金は折半やろ」
「……そうだな」

 リョーマの部屋。南次郎といつもの試合をした後、簡単にシャワーを浴びたリョーマが鞄からスマホを取り出す。
「――あ、もしもし跡部さん?」
「越前か」
 跡部の低めの声を聞いてリョーマの背筋が嬉しさで戦慄く。
「今日は残念でしたね。まぁ、俺達の方が強いってわかったでしょうけど」
「忍足のヤツらに負けてたじゃねぇか」
「あの二人の結束には敵いませんね。正に腹心の友です。跡部さんと樺地さんも息が合ってるようだけど、俺達には勝てませんでしたよね。もっと練習した方がいいですよ」
「――てめぇ、俺様に喧嘩売ってんのか?」
「違います。――今度試合で負けたらデートしてください」
「あーん?」
「今日の試合ではなく、今度の試合で」
「何だ、また頭丸めろという条件じゃないんだな」
「何なら今度はスキンヘッドにしてあげてもいいですけど」
「断る――と言いたいとこだが、スキンヘッドの俺様か……想像したら結構イケてんな。美貌の男は罪だぜ」
「――俺、今本気で跡部さんのこと丸刈りにしたくなりました。ってそうじゃなくて!」
 リョーマが叫んだ。
「俺、跡部さんといろんなとこ行ったりしたいです」
「そうだな。庶民とはどういうデートをするのか勉強するのも悪くないな。でも、俺は山を散策する方が好きだな」
「へぇー……」
「『へぇ』って何だ」
「意外な気がして。跡部さんは山屋さんだったんですか」
「おう。山はいいぞ。小さな雑草とか見ると楽しくなる。健気に一生懸命がんばってんだな、と思うと」
「跡部さんは雑草が好きなんスね。意外でした」
「おう。その辺の花とか可愛いぞ」
 俺が可愛いと思うのは跡部さんの方です――しかし、リョーマはその台詞を飲み込んだ。
「じゃ、いつか一緒に行きましょう」
「そうだな。手塚も誘ってな」
「忍足さんも行くんでしょうか」
「来るんじゃねぇの?」
「樺地さんも一緒でしょうか」
「当然だろ」
「俺、跡部さんと行きたいです」
「ん? そうか。まぁ、友と親交を深めるのは悪くないもんだぜ」
「今まで友達いなかったくせに」
「なにぃ?!」
「あ、俺は友達に数えないでくださいね。いずれ恋人になるつもりですから」
「何言ってんだ、お前」
 電話の向こうで跡部が呆れた声を出した。
「ああ、こっちの話。今度もテニス大会やるんでしょ?」
「都合がつけばな。でも、散歩ぐらいテニスに負けずとも付き合ってやるぜ。近所の公園にでも行こう」
「ほんとですか?!」
「ああ。日曜の午後二時に来い。待ってる」
「――はい」
 電話を切ったリョーマは顔がにやけるのを抑えることができなかった。

「手塚。日曜の午後二時に公園の時計台まで来い」
「はぁ?」
「リョーマと一緒に散歩に行くんだ。お前も来い」
 さすがは跡部。リョーマの心などちっともわかっていなかった。
「残念だがその日は不二と約束がある」
「何だ。不二との関係は健在か。わかったよ。俺も野暮は言わねぇ。楽しんで来い」
「悪い」
「何の何の。お前の恋、応援してるぜ」
「お前は俺の心配より自分の心配をした方がいいと思うがな」
「――どういうことだ?」
「お前、案外鈍いんだな」
 インサイトでもリョーマの心は見抜けぬようだ。手塚は溜息を吐いた。
「じゃあな」
「おう。またテニスやろうな」
「わかった。お前らとのテニスは楽しいからな」
 電話は切れた。

「跡部さーん」
 リョーマが跡部に手を振った。跡部はローレックスの時計を見遣る。――まだ早ぇよな。
「何だよリョーマ。早いじゃねぇか」
「三十分前から来てました」
 リョーマはにこっと笑う。――くそ。可愛いじゃねーの。
「三十分も待ってたのか? お前が? たかだか散歩だぞ」
「はい。俺の方が早く来たんで、山は後にして今日は俺に付き合ってください」
 どういう罰ゲームだよ、そりゃ。
 でも、リョーマのアーモンドアイがあんまり眩し過ぎたので跡部は折れた。
「わぁったよ。で、どこ行く」
「ウィンドーショッピング」
「それが庶民のデートなのか……カード持ってきたから好きなもん買っていいぞ」
「じゃあ、跡部さんを買うよ!」
「どういうジョークだ。それに俺様は安くねぇぜ」
 ほら、恋人繋ぎ――と人の話を聞かずにリョーマは手を差し出す。跡部もその手を取って街の人ごみの中に入って行く。
 手は汗ばんだけれど跡部は何だかほんわりして気持ちが良かった。

後書き
腹心の友シリーズ、まずは一段落です。
リョーマと跡部のすれ違い(笑)。でもちょっといい感じ?
忍足とがっくんのやり取りは、『動物のお医者さん』のパロディです。
2017.1.9

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