腹心の友4

「跡部のヤツ、なんや最近煮詰まっとるみたいやったな」
 春休み中も高等部のテニス部の部室に押しかけて来たことのある忍足が言った。
「……ウス」
「当然樺地も気づいとるよな?」
「ウス」
「そこで、腹心の友として提案があるのや」
「――何ですか? 忍足さん」
「跡部にサプライズを仕掛けたい」
「サプライズ……」
「せや。何かプレゼントするんや。だから樺地、これからデパート行くで」
「――ウス」
「でも、滅多なもんや喜ばんかもしれんなぁ。あいつ、金だけは持っとるから。アホやけど」
「――忍足さんの真心が詰まっていれば、何だって喜ぶと思います」
「そか。おおきに。樺地」
「ウス」

 そして、二人はデパートに来た。
「なかなか面白いもんがあるなぁ。あ、これなんかどうやろ」
「――こちらも、なかなかいいと思います」
「けど、ええ値段やなぁ」
 忍足と樺地が品定めを楽しんでいると――。

 青学の手塚と不二がそこを通りかかった。忍足と樺地は彼らに気付かない。
「ごらん。手塚。珍しい二人がいるよ」
「あいつらは氷帝の忍足侑士と樺地崇弘……」
 手塚が呟いた。
「跡部へのプレゼントでも選んでるのかなぁ。何の記念日だか知らないけど跡部は何でも記念日にしちゃいそうだね」
 不二は可愛くくすくすと笑った。
「さ、お二人さんの邪魔をしちゃ悪いからあっち行こう」
「そうだな」
 ――因みに、跡部とリョーマは不二達とすれ違いになったので会うことはなかった。

 樺地がクッキー配りの為にいなくなった後、跡部が忍足に言った。
「ありがとな、忍足。――樺地がいなくなったのが残念だな」
「ええやん。オレとお前の仲やん」
「は……さすが腹心の友だぜ」
「跡部……腹心の友という言葉、使いたかっただけなんやないのか?」
「樺地のことも祝ってやったんだな」
「樺地はいつも跡部の傍にいたからな。樺地にも出会うた日やのに跡部にだけプレゼントは不公平やろ。あいつにもちょっとしたサプライズや」
「樺地、嬉しそうだったな」
「アイツのことはお前の方がよう知っとるで。喜んでくれたなら俺も嬉しなぁ」
「樺地が帰ってきたら皆で騒ごうぜ。今日は俺様達が出会った記念日だ」
「また記念日増やしとるし……」
「ま、今日はささやかにしようじゃねぇか」
「跡部! お前のささやかは俺らにとっては全然ささやかやないんや!」
 ツッコんでも無駄だとわかっていても忍足はツッコむ。忍足のツッコみで氷帝の校舎が揺れ、ハトがバタバタと飛んで行った。

「昨日ね、忍足君と樺地君を見かけたよ」
 不二が言った。越前リョーマは興味がないので、
「ふぅん……」
 と、気のない返事をした。
「一生懸命吟味してるみたいだったよ。跡部へのプレゼントかな」
「へぇ……跡部さんへ。何の日だろ」
 リョーマは立ち上がった。
「さぁ。何でも記念日にしちゃいそうな人だからね。あの人は」
「――ちょっと跡部さんに電話してくる」
 もしかして跡部の大切な日を失念していたとしたら恋人としての沽券に関わる。
 リョーマはスマホで電話をかけた。
「あ、もしもし跡部さん?」
「あーん? リョーマか」
「何か大切な日でもあるんですか?」
「大切な日ぃ?」
「もしかして何でもない日おめでとうじゃありませんよね」
「何言ってんだお前……あ、もしかして『腹心の友の日』を嗅ぎつけやがったのか。ふっ、仕様のねぇヤツだな。お前は」
 言葉の割には嬉しそうな跡部であった。
「『腹心の友の日』?」
「今日は俺と樺地が忍足と出会った日だ!」
「なーんだ」
 馬鹿馬鹿しい。それにどうでもいい。心底どうでもいい。
「それでテニス大会をやるんだ。ささやかだが賞金も出るぞ。お前も来ないか?」
「へぇー、賞金……。まぁ、そういうことなら行ってあげてもいいですけどね」
 それに跡部さんにも会えるしね。――リョーマは心の中で付け足した。
「賞金はいただきっスよ」
「その意気でないと面白くねぇ。年齢は問わねぇ。ただし、ダブルスだぞ」
 は? 何だって?
「何でダブルスなんですかぁ」
 リョーマは思いっきり不満な声を出してやる。ダブルスははっきり言って苦手だ。
「ん? お前はダブルス嫌いか?」
「あまり得意じゃないっスね」
「腹心の友に因んでいるからな。参加するなら誰か他にも青学から一人誘ってくるように。青学でなくてもいいけどな。場所は氷帝学園高等部のテニスコートだ。監督には許可をもらってるからな」
「わかりましたよ」
 リョーマは、(ダブルスやるなら桃先輩かなぁ)と、思った。息はさっぱり合わないけど。

「あー、越前……」
 桃城武にはいつもの元気がない。
「どうしたんですか? 桃先輩」
「宿題忘れたんだ。センコーに怒られちゃってさ。これから居残り勉強だぜ」
「そうすか。優勝すれば賞金たくさんのテニス大会があるんですけど居残りじゃ無理ですね。手塚先輩誘って行きます。じゃ」
「おい、越前! 賞金たくさんてどういうことだ!」
 急に生気が戻って来た桃城を無視してリョーマはその場を後にして手塚のいる高等部へ向かった。

「おう、リョーマ。――と、手塚?!」
 跡部は手塚の出現に驚いたようだった。
「部の連中には話をしておいた。賞金が出るんだってな。不二と約束した手前負ける訳にはいかない」
 手塚が宣言した。
「ふっ、お前らのことだ。決勝まで残るだろう。返り討ちにしてやるぜ手塚にリョーマ。行くぜ樺地!」
「――ウス」
「油断せずに行こう。越前。賞金は部費に当てる」
 手塚が言った。なんだかんだ言って氷帝の連中とプレイするのが楽しみなようだった。有名校からも続々と猛者が集まってくる。ダブルスは苦手と思っていたリョーマの血も騒ぐ。
 テニスボールが宙を舞う。試合開始!

後書き
いろいろ詰め込んでみました。ちょっと矛盾しているところもあるかも? でももう今更気にしないもんね。
ダブルス大会、賞金が出るなら私も行きたいです。ダブルスの相棒がいないけど(笑)。
読んでくださった方、ありがとうございます。
2016.5.12

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