リョーマの戦い番外編 ~堀尾の戦い~

 やはり掘尾聡史は手術することになった。怪我が思いの外重いのかと本人も思ったが、手術すればきっと良くなる、と医者に説得された。勿論、堀尾に否やはなかった。
「堀尾」
 そう呼んだのは彼の友達、越前リョーマだ。
「また、テニスやろうね」
「おう、やろうぜ」
 堀尾と越前はグータッチをした。
 コンコンコン。ノックが鳴った。
「聡史……あの……平気かな」
「兄ちゃん!」
 掘尾聡史の兄の純平である。
「すまねぇな。あんまし見舞いにも来てやれなくて」
「いいんだ。兄ちゃん、大学忙しいだろ?」
「いやぁ、ほんとはそう忙しくもないんだけど」
 純平はおでこぽりぽり。
「兄ちゃん、彼女でもできた?」
「馬鹿。――そうだったらいいんだけどな。ま、取り敢えず頑張れよ」
 純平は越前に向き直る。
「越前君。この馬鹿の面倒見てくれてありがとな」
「いや……俺は別に……」
「こいつのことだから、青学テニス部の未来を担うとか、大口叩いてたんだろ?」
「ええ……まぁ……」
「兄ちゃん! 人のこと言えんのかよ。ったく……」
 でも、堀尾は明るい顔をしていた。
 ――またノックが鳴った。
 元副部長の大石秀一郎が訪ねに来てくれた。顔には穏やかな表情が浮かんでいる。青学の母とも呼ばれている。
 彼は受験生だ。普通だったら追い込みの時期だ。それに、大石は医者志望だ。さぞ難しい高校を受けることだろう。
「大石先輩。わざわざ忙しいところを……!」
「堀尾が今日手術すると聞いてね。間に合って良かった」
「いや……そんな……俺こそ……授業は?」
「先生に事情を話して休ませてもらった。なんせ、俺は今まで何もできなかったんだから」
「良かったね。掘尾」
 と、越前。
「ありがとう。越前」
 大石が見舞いに来ていた後輩に向かって軽く会釈をした。
「大石さん、弟が世話になってます」
 純平がお辞儀をした。
「いやいや、ね、あの……お兄さんですか?」
 大石が訊いた。
「はい。掘尾純平と言います」
「初めまして。大石秀一郎です。急いで来たから何も持って来なくてすみません」
「いや……来てくれただけで……弟の為に……」
 純平は鼻の下を擦った。大石が言った。
「堀尾。退院したら河村寿司でパーティーだ!」
「ほんと?! それ聞いたら意地でも退院しなくちゃあ」
 堀尾が笑った。「つっ……」と痛みに顔をしかめながら。
「越前も来るよな?」
「勿論!」
 大石の言葉に越前は力強く頷いた。
「堀尾。俺も怪我はだいぶ良くなってる。手術が終わったら一緒にリハビリしよう」
「あ……越前? あれからクラスメートのヤツら、手を出さなくなったんだってな」
「あれでまた虐めて来るようなら人間終わりだよ。――俺のこと庇ってくれてありがとう」
「俺、越前みたいに強くなりたかったんだよ。ずっと、ずっと……」
「何を言う。掘尾は充分強いじゃないか」
 大石が横合いから掘尾を元気づける為、眼前でぐっと拳を握って見せる。俺が言おうと思ったのに……と、越前が膨れている。ぷぷっと堀尾が笑った。
「皆、強さの質が違うんだよ。掘尾には堀尾の強さがある。現にその強さで越前を癒したじゃないか」
「……ありがと……ございます……大石先輩。変だね。悲しくないのに涙が出てくるや……」
 堀尾は泣き笑いで顔をぐしゃぐしゃにしている。純平も泣いていた。――堀尾の両親が病室に入って来る。
「待ってるからね。聡史」
「お前は強い子だ。だろ?」
「うん……大石先輩も強いって言ってくれた。俺、自分の体の動くままに行動しただけなのになぁ……」
「うんうん、お前は昔から頭より体の方が動くタイプだったよ」
 目元に盛り上がって来た滴を拭いながら純平が言う。
「何だよ、兄ちゃん~。それ……俺が頭悪いって言ってるようなもんじゃん」
「え? は? そんなつもりはなかったんだけど……頭悪ぃのは遺伝だし……俺は情けねぇけど、聡史は立派だぜ」
「頭悪いとか情けないとか、どうでもいいじゃん、そんなこと。――堀尾のおかげで俺、助かったよ。ありがとう」
 もう一度越前は礼を言う。もう機嫌は治ったらしかった。
「越前君。これからも聡史と仲良くしてくださいね」
 堀尾の母が言う。息子が心配なのか力なく微笑みながら。
「勿論っス。おばさん」
「お前……」
 堀尾の父が堀尾の母の肩を抱く。大石と越前が口々に、
「堀尾の家族は皆仲いいんだね」
「テニススクールに通ってるって言ってたもんね。両親に愛されてんだ。テニススクールに通わせてもらって」
 と、言う。
「越前には負けるよぉ。でも、そうだな……越前のおかげでテニス、ますます好きになったんだ」
「堀尾……」
「そんな顔すんなよぉ。だからいつか、恩返ししたいと思ってたんだ」
「でも、できたじゃないか。恩返し」
 大石が穏やかに言う。大石の台詞が心に沁みた。
「うん……少しは恩返しになったかな」
「当たり前だろ? 父さんも母さんも堀尾に宜しくって」
「何泣いてんだよぉ、越前まで」
「な……泣いてなんか……」
「あ、そうだ。越前、『まだまだだね』って言ってくれよ。あれ聞くと何だか元気が貰えるんだ」
「うん……堀尾、お前も俺も、まだまだだね」
「後ね、皆からメッセージが届いてた。皆、俺に頑張れって……俺……こんなに他人に優しくされたの初めて……」
「テレビ局からドキュメンタリーのオファーが来たのに、こいつ断りやがったんだって。勿体ない。俺なら絶対受けるのに」
 メランコリックな雰囲気を払拭させる為にか、純平が親指で堀尾を指差しながら喋る。
「だって、俺、有名になる為に入院した訳じゃねぇもん」
「お前、あんなに有名になりたいって言ってたじゃん」
「俺はテニスで有名になるの!」
 堀尾が宣言した。純平は少々驚いていたようだった。堀尾は越前に向かって言った。
「負けないからな! 越前!」
「望むところだ!」
「越前に堀尾……未来の青学テニス部の行方は明るいな」
 手を組んだ大石がその優しい顔をにこにこさせている。これで自分も受験に専念できると言いたいのだろう。
「越前は青学の柱だもんな」
「堀尾、お前も一緒にテニス部を支えるんだぞ」
 大石の言葉に、堀尾は歯を見せて笑った。わかりました、と答えながら。
 看護師がそろそろ手術の時間だ、と言うことを告げる。――これから、堀尾の戦いが待っている。辛いはずの手術なのに、何故か堀尾は自分の目の前が光で溢れているようでわくわくしてきた。

後書き
今回は堀尾視点です。だから、リョーマは『越前』と表記されることが多いです。
それにしても、やっぱり私は堀尾贔屓でもあるのだなぁ……。一番は跡部様ですけどね! でも、堀尾って可愛いから。
堀尾には輝く未来が待ってるよ!
2016.9.8

BACK/HOME