跡部さんとデート

 今日は跡部さんとデートの日だ。遅れないように五分前に来て待っていると――跡部さんが走って来た。
「何だ越前。もう来てたのか」
 オレの方が早く着くと思ってたのになー、と、跡部さん――跡部景吾は悔しがる。
 ちなみに俺、越前リョーマ。青春学園中等部の一年生。どうでもいいけど、青春学園て名前、ダサいよな。他は文句のつけどころのないいい学校なんだけど。
 跡部さんは氷帝学園中等部三年生で元テニス部の部長。生徒会長もやっていたらしい。それもどうでもいいけど、大丈夫だったのかな氷帝学園。
「跡部さん、リョーマ、でいいです」
 だってさ……その方が恋人みたいじゃん?
「んじゃリョーマ。お、まだ時間前じゃねーの」
「遅くなったら罰ゲームしようと思ったのに」
「どんなんだ?」
「――跡部さんの髪を再び刈ります。今度は丸坊主にしますよ」
「……俺、早く来て命拾いしたな」
 跡部さんがこころなしかちょっと青褪めた顔をしているように見える。もっといじめてやりたいけど、デートが優先優先。
 なんせ昨日は忍足さんや樺地さんから跡部さんとのデート権をもぎ取る為にテニスの試合したからね。二人とも強者だからちょっと苦戦したけど、まだまだだね。
 でも、デートするスタミナはあるからね。今日は覚悟しなよ。跡部さん。
「どこ行く?」
「俺の心は決まっている。……遊園地だー!」
「遊園地なんてガキだね」
「ん? リョーマは行かないのか?」
「――行くっス」
 脚の長い跡部さんにもついていける脚力があるのは助かる。日頃の鍛錬の結果だね。乾先輩に感謝かな。
 実は俺は遊園地が好きだ。でも、ガキ扱いされるのが嫌で言わなかった。まぁ、恰好の口実ができたよね。跡部さんが行きたがっているんだから。
「跡部さんて実はガキっぽかったんですね」
「アーン? 遊園地はガキっぽいか? 最近のアトラクションは随分進化してんだぜ」
「ふぅん」
「何だ。張り合いねぇな」
「べ……別に……」
「俺も今時の遊園地には慣れてないなら安心しろ。忍足が騒ぐもんでな」
 ……なんだ。忍足さん情報か。
「跡部さん、忍足さんと樺地さんの他に友達いなさそうっスね」
「む……」
「その二人も無理やり付き合わされてうんざりしていたりして」
 こうなると俺は止まらない。跡部さんはあまり気にしていないようだけど。きっとこれが日常なんだな。
「ふふ、そんなことはないぜ。だって俺らは腹心の友だからな」
 腹心の友……絶対生まれて初めて使う言葉っスね。跡部さん俺様だし友達いなさそうだもんね。
「他にいないの?」
「他に……」
 跡部さんが固まった。あ、悪いことしたかな。でも、固まった跡部さんもそれはそれでかわい――いやいや、そんな場合じゃなかったか。だけど、跡部さんて見てるとおもしろ……。
「ああ、そうだ!」
 跡部さんが誰かを思い出したようだった。
「手塚だ!」
 へ? 手塚? 手塚部長? 俺の先輩の?
 手塚さんは俺の学校青学テニス部のリーダーだ。つか、手塚部長は跡部さんのこと絶対友達だと思ってないって。
 だから、「手塚、手塚」とはしゃいでいる跡部さんは痛々しくて見ていられなかった。流石の俺も思わず黙っちゃうくらい……。
 跡部さん、本当に友達いなかったんスね……。気の毒に。
 でも、手塚部長にも今日のデートは邪魔させませんからね!
「跡部さん、ジェットコースター行きましょう!」
「わぁ、待て! 引っ張るなリョーマーー!!」
 跡部さんの叫び声が遊園地内にこだました。

「はーっ、すーっとした。ジェットコースターなんて乗るの久しぶりだな」
 跡部さんは全てを出し切った顔をしている。つか、ジェットコースターに連れてったの俺なんスけどね。
 まぁ、テニスから離れてこういう休日を過ごすのもいいかもね。
「リョーマ。次はあれ行こう」
「お化け屋敷っすか~? ベタな……」
「何だと? お化け屋敷を馬鹿にするのか? ジェットコースター、お化け屋敷、観覧車と言ったらテーマパークの三大アトラクションではないか!」
「――て、いつ決まったんですか?」
「今、俺様が決めたにきまってんだろう」
「……だからアンタは友達がいないんですよ」
「あ、そうだ。大事なもの忘れてた」
「――何すか?」
 跡部さんは絶対にお目にかかることのできない貴重な全開の笑顔を見せた。これは目の錯覚だと思いたい――。
「メリーゴーランドだ」

「見てるか? リョーマ。メリーゴーランドの白馬に乗っても様になる美しい俺様を!」
「はいはい。見てます見てます」
 ちょっと面倒くさくなって俺は答えた。いい年して何やってんだか……。まぁ、俺らは中学生だけど。
 俺は「乗るぞリョーマ」と引っ張ってく跡部さんを断ってこうして見学してるってわけ。さっきと立場が逆だな。
 でも、確かに、偽物の白馬でも跡部さんが乗ると何だかかっこいい。美形って得だよね。俺はスマホを出してカメラに収めた。
「リョーマも乗ればよかったのに」
「――恥ずかしいっス」
「何だ。可愛いとこあんなお前」
 可愛いのはアンタっス。――ま、そんな台詞言えるわけないけどね。俺、一応年下だし。
 後何年かすれば、跡部さんと平気でメリーゴーランドに乗れる日が来るんだろうか――いやいや。間違った方向に進化してどうする、越前リョーマ!
「お化け屋敷を征服した後は観覧車に乗るぞ!」
 ――すっかり跡部さんのペースだなぁ。いいよもう。
 こんな跡部さんだから心酔している人も多いと聞く。女にもモテているようだ。
 友達のいない跡部さんだから恋人もいないんじゃないかと訊くと――。
「あーん? 恋人ぉ? そうだなぁ、二、三十人くらいはいるかな」
 思わず嘘つけ、とツッコミたくなった。でも、攻撃的な男性が女にモテるのは本当らしい。あのパームシリーズとかいう長編マンガに出てくるフロイド・アダムスだって恋人はどっさりいるが友達は全然いないタイプの男だった。
 俺も、本当は跡部さんの恋人になりたいんだけど――。
 どうして俺が跡部さんを好きになったか――俺はいつぞや俺に試合に負けた跡部さんの髪を刈ったことがある。跡部さんに似合った髪型にしたから後悔はない。
 跡部さんにとっては屈辱だったらしくその後かつらをかぶって出て来た。俺はがっかりした。俺だけの跡部さん。俺だけが魅力を知ってる跡部さんにしたかったのに――。
 これが最初。
 その後、跡部さんは何くれとなく俺の面倒を見てくれた。跡部さんはこう見えても立派な部長であるらしく、俺が記憶を失った時もいろいろ力になってくれた。
 そして――気づいたら恋に落ちてた。
「リョーマ。どうした? お前らしくねぇぞー」
「え……ああ……」
「観覧車、乗るぞ」
「はい……」
 いつ告白しようかな、と思っていたが、向こうからお膳立てしてくれるとは――。
「なぁ、リョーマ」
「はい……」
「俺、お前に言いたいことがある」
 これはまさかの告白フラグ?! 俺の方から言うつもりでいたけど、まさか跡部さんから?! 俺はドキドキしながら待っていた。するとヤツはこう言い放った。
「貴様は俺の――友達だ」
「えええええっ?! そこは恋人というところでしょう?!」
「恋人なんざ履いて捨てるほどいる! それともリョーマ、お前、俺が友達では不満か?!」
 オレ、越前リョーマはこう言いたい。跡部さんは海堂先輩以上にコミュ障である、と。
 ――俺の恋が成就するのはいつになるのかな。ていうか、そんな日来るの? はぁ、俺も跡部さんもいろんな意味でまだまだだね……。

後書き
またリョ跡です。
二人の想いがすれ違い(笑)。
跡部にとっては恋人より友達の方が人間関係のランクが上みたいですね。アラシヤマみたい(笑)。
2015.8.11

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