しょたべ様とリョーマ君と氷帝のレギュラー陣

「ぎゃあああああああ!」
 跡部様の一日はどうにも麗しくない雄叫びから始まる。
「ん……あ、おはよう、跡部さん」
「お、俺様が、こんなに……こんなに可愛くなって……てめー! リョーマ! 何か知ってんだろ!」
「うん。跡部さんに乾汁盛った」
「乾汁~? そんなん飲んだ記憶ないぞ」
「アンタの野菜ジュースに混ぜた」
「ええっ?! でもあれ、滅茶苦茶旨かったぞ!」
「……乾汁跡部さんにも散々な評価っすね。俺も不味いと思ったけど」
「で、何で俺はこんなに可愛くなってしまったんだ?」
 跡部景吾はぶすっとしながら越前リョーマの答えを待った。
「決まってんじゃん。アンタが中学一年生だった頃の姿を見てみたかったから。乾先輩と不二先輩に協力してもらったっス」
「……何で不二が出てくんだよ……」
「アンタもうちの不二先輩には逆らわないほうがいいよ」
「わかってる。不二は俺の中でも危険人物ナンバー1だ。――つか、話逸らすんじゃねぇ!」
「――ちっ」
「どうして俺を中一の時の姿にしたんだ? まぁ、俺は幼少のみぎりから愛くるしいけどもよ」
「昨日、氷帝行った時に忍足さんが言ったんですよ。『中学に入ったばかりの跡部はものごっつ可愛かったでぇ』って」
「だからって俺様に毒を盛るのか? あーん?」
「特製乾汁です。体に害はないはずだと言ってました。それにしても――やっぱり可愛いっスね。俺とそう違わない。目なんかおっきくって」
「俺様の可愛いのは写真でもわかるだろ! どうして我慢できないんだ! お前は!」
「可愛い跡部さんの実物を見たかったんです」
 そう言うとリョーマが跡部を抱きすくめた。
「離せーーーーーーーっ!!!!!!」
 跡部の声で執事長がやってきた。
「どうしました? 坊ちゃま!」
「おう……ミカエル……つか、もっと早くに来て欲しかったぜ」
 毒気を抜かれたリョーマが跡部を解放した。あんなに大騒ぎしていたのに使用人が来るのが今頃とは……。
「おう……坊ちゃま。こんなに可愛らしくなって……懐かしいですなぁ」
 ミカエルは思い出の涙をほろり。
「おう、ミカエル。何でさっきは来なかった」
「あんな叫び声、坊ちゃまが上げるはずがないと思いまして」
「……ははは……よくわかってんじゃねぇか……」
 跡部は『優雅な跡部様』を演出しようとした。
「そこにいるリョーマに一服盛られたんだよ! 俺様は!」
「……越前様……おお……よくぞやってくださいました」
 そう言ってミカエルは感涙にむせびながらリョーマの手を取った。
「おい! ミカエル!」
「ねぇ、そろそろ学校行かなくていいの? ――それとも、もう部活は引退したんだっけ?」
「休み明けに正式に引退する。三年もまぁ、任意で集まっている奴らはいるけど。――俺様も今から行って来る」
「俺も休みで暇だから氷帝行ってやってもいいけど」
「どうしてお前はそう上から目線なんだ」
「跡部さんに言われたくないなぁ……」
「それに、学校休みでもてめぇは部活あんじゃねぇの?」
「あ、竜崎先生が今日は休みだって言ってました」
「……俺の味方は誰ひとりいないのか……」
 仕方なく、といった態で跡部はリョーマを連れて氷帝学園に行くことになった。

「おー、景ちゃんちっこくなったなぁ」
「忍足! 景ちゃんはやめろ!」
「飴ちゃん食うか?」
「食うか! んな場合じゃねぇだろ!」
 跡部は忍足侑士に遊ばれている。
「クソクソ跡部にもこんな時期があったんだよなぁ」
 向日岳人が跡部を嘲笑う。その岳人がリョーマに耳打ちした。
「なぁ、越前。今度は侑士を子供にしてみそ?」
「なっ、やめぇや! 岳人!」
「くくく……跡部部長がチビになった今こそ下剋上のチャンス!」
 日吉若がこっそり呟く。
「部長! いや、跡部! シングルスで決闘を申し込む」
「――跡部さん……あのさ、氷帝のテニス部にはショタコンと卑劣漢しかいないの?」
「うっせー! 元はといえばてめーが巻いた種だ! それにまともなヤツくらいいる! そうだろ? 樺地」
「――ウス」
「他にも……」
 鳳長太郎と宍戸亮は動画談議できゃっきゃっと言っている。跡部を撮影するつもりらしい。というか、この二人はデキてるという噂だ。ジローは寝てるし、滝は動画談義に入りたそうにしているし……。
「何だよ。まともな人って樺地さんしかいないじゃん」
「う……」
「さぁ、跡部景吾! この勝負受けるか!」
 日吉は威勢がいい。
「ふっ、面白れぇ! 小さくなったくらいでこの俺様がてめぇに負けるはずはない!」
 声変わり前の可憐な声で跡部は宣言した。
「……今の声、ばっちり録音したか?」
「勿論。画像付きですよ」
 忍足と鳳が囁き合っている。この部はもうダメだ、とリョーマは思った。

 ――日吉はちび跡部にも負けてしまった。
「あ、終わった?」
「何だよ。リョーマ。俺様の美技を見てなかったのかよ……」
「浮かない顔してどうしたの? もしかして負けた?」
「俺の圧勝だったわ! ボケが!」
 ふふふっとリョーマが笑った。
「な……何だよ」
「すぐムキになるとこ、変わんないなぁって」
「――闘争心があると言え」
「じゃ、解毒剤もらいに行きますか。乾さんのところに」
「解毒剤? そんな便利なものがあるのか。初めから言ってくれよ……」
「あ、越前。ちょお待ってや。跡部はもう少しこのまんまでも……」
「乾さんのところに行ってきます。忍足さん。アンタ危な過ぎますんで。――跡部さんも行く?」
「おう」
「――それに、俺、成長した跡部さんの方が好きなんで」
「リョーマ」
 跡部は親指を立てて満面の笑顔を湛えた。リョーマ自身ももう少しこのままでもいいかもな、などと思えてきた。

 乾はいいデータが取れた、と喜んでいた。そして解毒剤を渡してくれた。その解毒剤が――。
「不味い!」
「良薬は口に苦しと言うでしょ? さぁさ、飲んだ飲んだ」
「うう……」
 リョーマの勧めに跡部は一気に乾汁を飲み干した。怪しげな煙が跡部を包む。
 ――跡部は元の姿に戻った。
 リョーマは、いい目の保養になったし時々は跡部さんを子供にしてやってもいいかな、と考えていた。

後書き
ふっふっふ。リョ跡だリョ跡だ♪
こういうギャグも好き♪
しかし、好きキャラを子ども化なんて、確か黒バスでもやっていたような……(笑)。
榊先生を出せなかったのが心残りです(笑)。尤も、出演してもリョーマに呆れられて終わりのような気がしますが。
2015.10.10

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