跡部様と子供達

「おーい、おばちゃーん。遊びに来たぜ」
 跡部景吾が駄菓子屋のおばちゃんを呼ばわると商品を選んでいた子供達がわっと集まって来た。
「景吾お兄ちゃん!」
「跡部の兄ちゃん!」
「何だ。お前らも来てたのか」
 満更でもなさそうな跡部が子供達の頭を撫でる。
「えへへ……」
 いがぐり頭を撫でられた少年が嬉しそうに笑う。
「ほらー、行きなさいよー」
「う……でも、恥ずかしい……」
 女子達が隅で何か言い合っている。どうしたというのだろう。
「お前ら、いつもの元気さはどうした、あーん?」
 心安だてに跡部は女子達の方に向かう。
「あー、来ちゃう、来ちゃうよー」
「大丈夫。あたし達がついてるから」
「あーん?」
 どうやら跡部は邪魔らしい。ちょっと傷ついた跡部はくるりと踵を返す。
「あ……跡部さん、好きです!」
「あん」
 跡部が振り返る。自分の魅力については充分自覚している跡部だがまさか小学生に告白されるとは思わなかった。
 ――いや、跡部は小学生の頃からその美貌でモテたのだが……。
(まさかこの年になってまで小学生に愛の告白されるとは思わなかったぜ……)
 小学生からもラブレターはいっぱい来るが、直球勝負は珍しい。
 跡部は小学三年生ぐらいと思われる女の子の頭に手を置いた。
「ありがとな」
「う……うん……」
 すると女子達が騒ぎ出した。
「きゃー!」
「跡部様ステキー!」
「ほらね、お姉ちゃんの言った通り、跡部様はステキなんだって」
「私、小学校卒業したら必ず氷帝行く!」
 雌猫予備軍の姦しい声に跡部は苦笑した。でも、何か可愛い。
 ――癒されるじゃねーの。子供って。
 跡部はそのキャラからは想像がつかないが、実は子供が大好きであった。
「景吾お兄ちゃん!」
「狡いぜおめーら、景吾兄ちゃんを独占しやがって」
「アンタ達だって悔しかったら跡部様みたいに魅力的になってみなさいよ」
「何だとこのー!」
「景吾お兄ちゃんはオレ達と遊ぶの!」
「跡部様は渡さないわ!」
「やるか?!」
「そうね! 売られた喧嘩は買おうじゃないの!」
「――公園で待ってるぜ」
「いいわ。勝負よ」
「おいおい……」
「景吾お兄ちゃん……」
 黄色い帽子をかぶった小柄な女の子が跡部の袖を引っ張る。
「ん? 今度は何だ?」
「あの人達は心配しなくていいの……いつもやってることだから」
「あん? あいつらいっつも勝負だの決闘だのしてるのか?」
「うん」
 女の子は頷いた。
「そっか。性別を超えたライバルって感じなんだな。そういうことなら俺様はどんどん推奨するぜ」
「すいしょう……?」
「おすすめするってことさ。お前は行かなくていいのか?」
「あ、うん。みんな待って……」
 女の子は転んだ。
「ちびたん、大丈夫?」
 さっき跡部に告白した女の子が駆け寄ってくる。
「ん、平気……」
「あ、皮膚擦りむけてんじゃねぇか」
「待って。私、ばんそうこう持ってるから」
「何だ。お前、意外に気が利くじゃねぇか」
「意外にはよけいよ。でも、……ありがと」
「まぁ、お前は俺のライバルだからな」
「私だってアンタには負けませんよーだ」
「二人とも喧嘩しないの。颯太だって本当はレイちゃんのことが好きなんでしょ?」
「う、うるせぇ!」
 何だか、いろいろ言い合いつつも子供達の心がひとつになる。こんな小学校生活、俺は送ってきただろうか、と跡部は思った。
 誰も彼も、跡部を羨むか、憎むかしかなかった。
 例外は樺地達数人。跡部はいつも樺地達を従えていろいろやったものだ。
 それを思うと隔世の感がある。跡部の子供時代だって他とそう変わりはないかもしれないが。
「景ちゃん。お入り」
 おばちゃんが来ていた。
「おう、おばちゃん、久しぶりだな」
「景ちゃんが来てからみんな賑やかに仲良くなって……」
「いや、俺はただ、遊びに来てるだけで――」
「中学生も時々来るんだよ。景ちゃんがここに来るって言うからって……」
 跡部は吹き出した。雌猫の情報網は侮れないものがある。
「でも、今ではお菓子目当てに来てくれる子も多いんだよ」
「良かったな、おばちゃん」
「ええ、ええ。これも景ちゃんのおかげだよ。景ちゃんがこの店を買い取ってくれて……」
「なぁに。俺がここのお菓子を気に入ったから店ごと買ったまでだよ。俺もお菓子目当てさ。――にんじんくれ」
「はいよ」
 にんじんと言っても野菜の人参ではなく、にんじんの形の袋に入ったポン菓子である。
「はいよ。おばちゃん」
「景ちゃんはお金払わなくていいよ。この店は景ちゃんのものなんだからね」
「それでもけじめは大事だ。とっといてくれ」
「ありがとう。景ちゃんは優しいこと。きっと親御さんが良かったんだね」
「――樺地のおかげです」
「樺地君。あのおっきな子かい?」
「ええ」
「まぁ……樺地君も聞いたら喜ぶだろうに」
「ええ……でも、内緒にしてください。恥ずかしいから」
「あいよ。わかった」
「おーい、景吾お兄ちゃーん!」
「景吾お兄ちゃんも遊ぼうよー。これから皆で公園行くの。ドッジボールなの」
「テニスも好きだけど今ラケットないから」
「それはまぁいいが、俺も仲間に入れてもらえるのか?」
 子供達は全員、目をきらきらさせながら、うん!とそれぞれに頷いた。俺はやっぱり子供が好きだ、と跡部は思った。

後書き
2019年10月のweb拍手お礼画面過去ログです。
ちょっと趣味に走りました。跡部様は子供好きだと嬉しいです。
子供って何だか面白いですよね。こっちの予想もしてないことをやったり言ったりしたり(笑)。
2019.11.02

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