高尾クンと緑間クンと私

「おーい、ひなちゃーん」
「なぁにー? 高尾クン」
「太陽を盗んだ男、ようやくダビングしてきたぜー!」
「きゃあ☆ ひな子うれぴー! やっぱジュリーよね!」
「んじゃ、お礼として山口百恵のCDね」
「うん。貸したげるっ!」
「――おい」
 怖い声がする。バスケ部の緑間君だ。高尾君の相棒なんだって。あ、逆か。高尾君が緑間君の相棒だったんだ。
「話を聞いててここは三十年前にトリップしたのかと思ったぞ。オマエら本当に平成生まれか?」
「「そうでーす」」
「真顔で言うな、真顔で……」
 だって、高尾君とは気が合うんだもん。ノリもぴったりだし。
「もう、緑間君たら、昔の歌手の話したっていいじゃん」
「オマエらは古過ぎるのだよ。高尾も朝倉も」
「私、ひな子って呼んでもらいたいのになー」
「誰が呼ぶか馬鹿め」
 うわお、ツンデレ健在!
「ひなちゃん、朝倉ってんだっけ? いい加減ひなちゃんで呼び慣れてるから、苗字忘れちまった」
「わぁ、高尾君ひっどいんだー」
 私達はきゃぴきゃぴと叫ぶ。
 ――でも、緑間君の好きな歌手……ああ、今はアーティストっていうんだっけね――は、誰が好きなんだろう……。
「ねぇ、真ちゃん、真ちゃんの好きな歌手って誰?」
 あ、高尾君て強者だ。緑間クンの不機嫌オーラを物ともしない。
 緑間君は自身満々で答えた。
「無論、中島みゆきだ」
「ねぇ、真ちゃん。それも思いっきり昭和入ってるから」
「中島みゆきの歌は世代を超えるのだよ。馬鹿め」
「あ、それだったらさだまさしも入れてほしーな」
 緑間君は眼鏡のブリッジをテーピングした左手で直すとフン、と鼻で笑った。
 でも、私は緑間君を嫌いになれない。
 理由は簡単。緑間君は美人だからだ。
 眼鏡美人でツンデレ。超萌えない?
 ああ。私、いつの生まれの人間なんだっけ……。この情報化社会、どんな情報でも探せば手に入るけど……。だから、ノスタルジィに浸ることもできるんだけど。
「あ、緑間君。私、中島みゆきのCD貸したげよっか。動画でも割といいの出回ってるようだけど」
「――レコードで持っているのだよ」
 さすが緑間君。ミスター昭和……。このミスター昭和っていうのは、言葉のあやだけどね。
「父が持っているレコードコレクションがあるのだよ……」
 CDと言わずレコードと来たか。さすがだ。
「じゃあさ、オレ、また今度遊びに行ってもいい?」
「私も行きたーい」
「断るのだよ」
 緑間君はかっと足音高く去って行ってしまった。
 ああ、一陣の風のよう……。
 あのつれなさがいいのよねぇ……。
「あのつれなさがいいんだよなぁ……」
「あ、高尾君わかる?」
「わかるわかる。でも、ちょっとデレも欲しいなぁ……」
「うん。私も」
「オレ達、気が合うね」
 うん。緑間君絡みでもね。
 私は……緑間君と高尾君のコンビが好きだ。どちらが欠けても満足しない。
 何て言う感情かなぁ、これ。恋とも違うし。けれど、この二人が私の人生行路に与えた影響は大きい。
 あの二人を見ていると、なんつーかドキドキするっつーか。
 緑間君と高尾君は、私のいないところではもっと仲が良い。何でそれを私に見せないのだろう。
 緑間君の白い包帯をした指先が高尾君の顎を掴んで、やがて二人は……。
 きゃー! 妄想が追い付かなーい!
 二人ともいい匂いがするしなぁ……緑間君はコロンの匂い。高尾君は爽やかな石鹸の匂い。汗と混じるとえも言われぬ香りになるのだよ――緑間君の口癖がうつったみたい。
 緑間君が戻ってきた。
「――オマエらに攪乱されて忘れるところだったのだよ。今日は、体育バスケなのだよ。おは朝占いの結果も上々。ラッキーアイテムはイルカのキーホルダーなのだよ。今日のオレは負ける気がしないのだよ」
 ラッキーアイテムは関係ないと思うけど。
「ああ。見せつけてやろうぜ。オレ達の力を!」
 高尾君が黒い髪を掻き上げてにやりと笑う。あ、肉食系男子。
 髪と言えば、緑間君の髪は緑色だ。こんな人間いるのかね、と思った。染め直して来いと生活指導の先生に言われてたけど(鬼瓦っていうんだってね。マンガでは悪役によくある名前)、「これは地毛ですから」と反論したらしい。
「真ちゃんてねぇ、下も緑色なんだよ」
 いつだったか高尾君が言っていた。どーして高尾君がそんなこと知ってるの。もしかして一緒にお風呂に入ったとか? きゃー!
「――ひな子」
「は、え、なに?」
 緑間君が私の下の名前を呼んだ?
「え? 朝倉じゃなく?」
「――下の名前を呼んで欲しかったんじゃないのか?」
「え? ああ、いやいや」
 そりゃ、呼んで欲しかったけど、でも――。
「オマエ、ひなちゃんのこと名前呼びしたから、ひなちゃんテンパってるぞー」と、高尾君。
「そうか。名前呼びするのも難しいものなのだよ」
「それに、ひなちゃんのこと、『ひな子なんて誰が呼ぶか馬鹿め』みたいなこと言ってたじゃねぇか」
「考えが変わったのだよ……それにしても……」
 女というのはわからん……緑間君はぶつぶつ呟いている。私も緑間君の思考回路はわからないけど。
「あ、私、呼んでほしい! ひな子って、名前で呼んでほしい!」
 何故なら、ひな子って名前、可愛いじゃん。お気に入りなんだよー。
「よし、これからオマエのことはひな子って呼んでやる」
「何故上から目線なわけ?」
 まぁ、それも緑間君の魅力のひとつだけど。
「おい、ひなちゃん。オレ達に見惚れて体育上の空なんてことないようにするんだぞ☆」
 高尾君がウィンクする。他の人だったら自意識過剰って思うところだけど、たかみどコンビなら許せてしまう。
 うん。たかみど。友達が言ってた。あたし、たかみどがいるから学校来てるんだよーって。
 たかみど……前は何のことかわからなかったけど、今はもうずっぱまりだわー。
 ――んなことやってる間に体育の時間。
「よそ見すんなー! 朝倉ー!」
 叫んでいる鬼瓦(こいつ、女子体育の先生でもあるのよね)の怒号も聞かず、私はただただ高尾君達にすっかり見惚れていた。
 ああ、いいなぁ。緑間君と高尾君の連携プレー。
 周りからはそうは見えないかもしれないけど、私にはわかる。一見バラバラだけど、二人の心はつながっているのよねぇ……。
 ――あ! ショー君にぶつかって高尾君が転んだ!
「いてっ!」
「――と、わりぃ」
 高尾君の様子が不自然だ。高尾君大丈夫――?! そう言いそうになって、私は緑間君が駆けつけてくるのを見つけた。
「立てるか? 高尾」
「あっつ? 足首、ひねったかも」
「高尾!」
 緑間君の声が悲痛に聞こえて――緑間君が高尾君をお姫様だっこした!
 その時私は……鼻血が出そうになった。
 195㎝の緑間君に抱え上げられた、小柄な高尾君。(でもないか。高尾君は男子の平均身長より高い)
 美少年達の絡み。これはもう、BLなんてもんじゃない。腐女子という言葉が生まれる伝説のあの……。
 ずっと昔に滅んだとされる、少年愛の美学……。
 私は鼻血を押さえるのに必死だった。鉄の味がつーんとする。もう鬼瓦の声なんててんで聴こえない。
 やっぱり、少年愛の美学を志す者としては、緑間君に高尾君を抱いて欲しいと思う。高尾君も緑間君ほどではないけど、イケメンだから。それに可愛いし。これってみどたか?
 緑間君が高尾君を保健室に連れて行った。
 しばらく帰ってこなかったけど、何話してたのかわからない。妄想すると頭のヒューズが飛びそうよ……。
 ちなみに、高尾君は軽い捻挫で済んだらしい。私はほっとしたが、それよりも何よりも、今日見た感動のシーンが忘れられなくて、私は頭の中でそのシーンを繰り返していた。

後書き
モブ子視点の物語。名前は朝倉ひな子。
ひなちゃんは私も好きなのでこの話を載せることができてよかったです。
ちなみにひな子という名前は猫部ねこのマンガから。朝倉はときメモの女の子の苗字をアレンジしました(朝比奈って子いるよね?)。
少年愛の美学が好きなちょっと時代遅れの女の子。また出て来るかもしれません。
ちなみに私はみどたかも好きです。
モブ子ちゃんが可愛い某サイト様の話も参考にしました。
2014.3.8


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