緑間クンのツンデレ

「あ、真ちゃんおはよー」
 オレ達はこの間喧嘩したが、仲直りして告白し合い――あまつさえオレは真ちゃんからラッキーアイテムをもらうという椿事が起こったわけだが――。
 チャリアカーを運んで緑間家に行ったら、真ちゃんはもう学校へ行っていていないという。
 その時には何にも感じなかった。
 バスケ馬鹿の真ちゃんは今日も朝からシュートを撃つ練習をしているのだろうとしか思わなかった。
 ――そして、今に至る。
 この高尾ちゃんがせっかく挨拶したのに、緑間のヤツ、避けて通ってやんの。
 どして? オレ、何かした?
 昨日はあんなにいい雰囲気だったじゃねぇか。オレ達。
 緑間はやっぱりシュート練習をしていた。
 うーん、やっぱりかっこいいなー。オレの恋人、うちのエース様は。やっぱ見惚れちゃうなー。
 緑間はこちらを見ない。
 何で? どうして?
 いつもだとこの辺で、
「何を見ているのだよ、高尾」
 とかなんとか言うはずなのに。
 何か言ってよ、真ちゃん――間が持たないんだからさぁ……。
「真ちゃん、しーんちゃん」
「…………」
「何とか言ったらどうなんだよ。天然。アホ。バスケ馬鹿」
「…………」
 何かきまずいなぁ……。
「なんだおまえら。まだぎくしゃくしてるのか?」
「あ、大坪サン」
 大坪サンはバスケ部の部長だ。いい人だし話わかるし、オレはこの人、嫌いじゃない。
「おー、伸びてんな。緑間。いい感じだ」
 いい感じ? どこが? あいつオレのこと無視してるんだぜ。オレはどうなんのよ。
「やはり緑間は調子を取り戻したな。――オマエのおかげか? 高尾」
「そうだといいんですけどー」
「ははっ、まぁそうむくれるなって。緑間は素直じゃないところがあるからな」
 素直じゃない? ――そういえば真ちゃんはツンデレだった。
 扱い難しいよなぁ、うちのエース様は。偏屈で、こだわり持ってて、照れ屋で。
 オレのことを見ようとしないのも、昨日のことが恥ずかしくって照れてんの? もしかして。
 なぁんだ。真ちゃん、かっわいー! 195センチもタッパがあるくせに繊細なんだから。
「真ちゃんー」
 オレが声をかけても緑間はフォームを崩さない。パスッとリングにボールが入る。
「なぁ、昨日のことだったら……」
「黙れ」
 うわぁ……俺様復活だよ。昨日はあんなにデレてたのに。
 ツンデレなのはわかったけど、どうやったらこの牙城崩れんの。――やっぱ練習か。
「真ちゃん、1on1やらない?」
 真ちゃんはちょうどシュートを撃ったところだった。真ちゃんはふっと笑った。
「どうせまたオレが勝つに決まっているのだよ。でも、付き合ってやらんこともない」
 やるのね。やっぱり。
 オレは天才様には敵わないかもしれないけど、せめて接戦には持ち込みたいな。
 ボールを取ったり取られたり――まぁ、真ちゃんはあの超長距離シュートがあるから反則だよね。オレだって『ホークアイ』という反則技持ってるけど。でも、人様より視野が広いからって、それを生かしちゃダメってルールはねぇよなぁ。
 真ちゃんのシュートはオレのと違って努力の賜物だけど。
 真ちゃんは天才のくせに飽くなき努力を続けている。ひどいヤツだけど、何でこんなヤツ好きになったのか自分にもわからないけど――オレ達はみんな、緑間のことが嫌いになれない。
 努力家だから、実は優しいから――純真だから。
 おっ、真太郎の真は純真の真。ちょっと上手くね。純真ちゃん。――誠凜の伊月ってヤツよりはマシだと思うけど。イーグルアイの。伊月は何かと言うとダジャレを飛ばしまくっているらしいんだ。それもくっだらないヤツを。一見まじめそうだったからギャップが意外で誠凜に行ったおなちゅーの友人に聞いた時は思わず笑ってしまった。
「よっと」
 真ちゃんからボールを奪い、ゴールを決めた。よっしゃ。
「いいシュートなのだよ。高尾」
 真ちゃんがいつもの真ちゃんに戻った。
「そりゃ、天才の相棒っすからね~」
 恋人、と言いたかったんだけど、またツンに逆戻りされんのが怖くてわざわざ『相棒』と言った。
「ならばっ!」
 真ちゃんも負けじと反撃!
「えー、ちょっとそりゃずりーんじゃねぇの?」
「何を言う。オレは何もズルなどしていない」
「オマエの存在自体がズルなんだよ」
 勝てるわけないじゃん。真ちゃん――おまえに。選手としても男としても。
 だって……オレは真ちゃんに惚れてるんだもん……敵うわけないじゃん。ついでに言うと――今日も1on1で勝てなかった。
「ちぇー。また負けちった」
「だが、オマエも上手くなっているのだよ」
 ズッキューン! デレ発動! これが計算でなく天然なところが怖いとこだよな。
「何をしている。早く来るのだよ。授業時間に間に合わなくなるぞ」
「へいへい。これ片付けたらな」
 オレはバスケットボールを片付ける。綺麗なのはオレ達一年がいつも磨いているから。それにボール磨くのって結構楽しいし。
 でも、真ちゃん口きくようになって良かったぁ。あのまんまオレの呼びかけに黙っていられたらほんとどうしようかと。オレだって辛いし。
「高尾」
 去り際に真ちゃんはオレを呼んだ。
「何?」
「……何でもないのだよ」
 真ちゃんの白い頬に朱が散る。うはー……こりゃ昨日のこと相当意識してるな。ま、オレもなんだけどさ。
 しかし、体重ねた時より告白した次の日の朝の方が恥ずかしいってどういうこと? 気持ちはわからないでもないけどさ。好きでなくても寝ることはできるけど――いや、真ちゃんはそんな器用な男じゃないね。本音がだだ漏れだもん。だから先輩に誤解されたりするんだけど。そこが真ちゃんのいいところでもあるんだよなぁ。
 ま、オレのようにもっと世の中要領よく立ち回った方がいいと思うけど、そうできないバスケ馬鹿が『緑間真太郎』という男なんだよな。
 問題は、この男が正真正銘天才だってこと。努力してまた更に才能に磨きをかけている。
 神様って不公平なようでいて案外公平だ。オレにあって真ちゃんにないもの――つまり、世渡り法だ。
 真ちゃんはどこかバランスがおかしい。オレが支えてやんなくちゃダメだなーと思うこともある。
 緑間もそれがわかっているからこそオレのことを好きになったのだろう。オレもできる限りずっとそばにいて支えてやりたい。
 宮地サン辺りには、
「あんま緑間を甘やかすんじゃないぞ」
 と言われてるけどねぇ……。
 真ちゃん頭いいくせにどっか危なっかしいから、つい世話を焼かずにはいられないんだ。
 天才の上にそこらの女子よりよっぽど綺麗な顔してる。天は二物を与える、というけど――その代わり真ちゃんは時々ポカをする。
 ああ、だから可愛いんだよなー。オレがいないとダメなんだよなー、という気にさせられる。
 中学校時代の頃はどうしてたんかね。あのキセキの世代のヤツらに面倒見てもらってたんじゃないかね。何となく、そんな気がする。
 特に黒子。
 あいつは影が薄いくせに周りを割と見ている。――いや、影が薄いから、かな。
 こいつもちょっと変わっていて、趣味が人間観察――らしい。まねっこが上手いモデルといい、色黒凶悪ヅラの男といい、キセキの世代のヤツらってそんなんばっか? 変人集団か。――いや、変態か? ……さすがに言い過ぎた。ごめん。
 今までもちょいちょい会ってたけど、この間マジバで再会した時、いろいろ話をした。――主に真ちゃんと火神のことだけど。
 しかし、黒子は真ちゃんに比べるとよっぽど人間らしい。変人集団の中にいるのはいろいろ辛かったろーなー。バスケの時の活躍と極端に影薄いことを除けば、そこまでフツー?!と驚くほどフツーらしい……いや、あいつは火神に惚れてんだった。全然フツ―じゃない。影の薄さを発揮して人間観察をするのが趣味というヤツだし。
 ま、アブノーマルはオレも同じかな。
 オレだって男好きなんかじゃなかったんだぞ。本当は。初恋は……確か近所の可愛い女の子だったはずだし。
 真ちゃんだからこそ、好きになったんだ。オレ。できればずっとそばにいたい。結婚して、お互いパートナーを腕に抱いて、やがて孫ができてじーさんと呼ばれるようになっても――オレは緑間が好きなままだと思う。
 まぁ、オレは真ちゃんを知ってるから、そういうふっつーの幸せな家庭を築けるかどうか疑問だけどな。やがて時がオレの恋心を洗い流してくれんだろうか……。
 あ、やば。涙が出て来た。
 泣くな。高尾和成。どうして将来のことを想い描いただけで涙が出てくんだ。
 オレは――自分でも知っている。もうオレは真ちゃん以外に恋はできない。後戻りもできないししたくない。
 緑間とならどこまでも。例えゲイだと後ろ指差されようと。
 好きな人がいる。それはオマエだ。
 真ちゃんも――覚悟を決めて言っていたのかなぁ。それとも、何にも考えてなかったりして。……有り得るな。
 オマエがどう思おうと、オレは一生そばにいたいよ――真ちゃん。
 真ちゃんはもうとっくに体育館から姿を消していたから、オレの密かな涙を見られずに済んだ。 

「あ、オマエら仲直りしたの?」
「良かったね―。緑間君」
「高尾ー。緑間には許してもらえたのかー」
 オレの周りに笑いが溢れる。クラスメートはオレ達の友情(というか愛情?)の復活に好意的だった。
 やっぱ真ちゃんの隣にはオレがいないとな! これからもよろしく、ツンデレのエース様。

後書き
『高尾クンの最悪な一日』の続きとして書いたのかな? これ。
どうもちょっと昔のことなんで記憶が……。
この話の二人はどうやら肌を重ねたことがあるみたい……☆
2013.12.5


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