もう手遅れかな

赤=高尾 緑=緑間

 真ちゃん……。
 オレは、緑間真太郎のことをぼーっと見る。
 オレは最近少しおかしい。真ちゃんのことばかり見てる。
「高尾ー。ボール行ったぞー」
「ほえ?」
 バッカーン! ボールは見事にオレの頭に当たり、オレは鼻血を出しながら気絶してしまった。


 最近高尾の様子がおかしい。
 いや、前からおかしかったのだが、輪をかけて酷くなったのだよ。
 怪我で鼻血を出しながら、
「真ちゃん……」
 と、舌っ足らずな声で呼んでいたと言う。是非ともオレも聴きたかった。――なんて言ってる場合ではない。
 オレも保健室に駆けて行った。


「あ……」
 気が付くと白い部屋だった。
「大丈夫か? 高尾」
 ――ああ、オレの為にわざわざ来てくれたんだ。
「真ちゃん……」


 高尾は、オレの顔を見ながら、
「真ちゃん……」
 と言って笑った。そんな可愛い顔でオレを呼ぶななのだよ。くそ……。
 オレもどうにも調子が狂う。
「高尾。ゆっくり休むのだよ。頭にボールが当たったんだ。これ以上バカになられたら大変だからな」
「あっはー、真ちゃん、ヒドイ」
 ヒドイと言いながら笑ってる。ああ、もう、こいつはバカだ。
 そして――多分、こいつに惹かれているオレはこいつ以上に大馬鹿だ。
「次の授業は休め。オレがノートとってきてやる」


 真ちゃん、オレの為にノートを……。
 期待しちゃいけない。期待しちゃ。ああ、わかってるさ。
 オレは、緑間真太郎が憎かったからな。
 けれど、ツンデレなエース様の仮面の裏には、優しくて可愛い『真ちゃん』がいたわけで……。
 んで、オレは、真ちゃんのことを憎んでいたことを告白したわけで。
 ノートとってくれるのだって、オレが怪我人だからで……。
 もう、手遅れかな。真ちゃん。
 愛し始めてるなんて、そんなこと言っても手遅れかな。冗談言うなと、かわされそうだ。
 あれ……何で涙が止まんないんだろ……。


 オレは高尾にわかりやすいように、きっちりノートをとった。元々、適当にノートをとる癖はなかったのだが。
 どうせやるなら完璧に。中学時代紫原に、
「みどちんのそういうとこウザい」
 と言われたが、性分は変えられない。
 待ってろ、高尾。


「どうしたの? カズくん」
「カズくんて……」
「あら、不満? だって、君の名前、高尾和成でしょ?」
「……名字で呼んでください」
 なんか疲れてしまったオレは眠りに入ろうとしていた。
「……高尾?」
「あ、真ちゃん!」
「大丈夫か? 寝るとこだったんじゃ……」
「ううん。だいじょぶだいじょぶ」
「ノートとってきたぞ。それから今日は部活は休んで病院で精密検査だ」
「いいよー、そんなの」
「何故だ。費用はオレが出す」
「いいって言ってんのに……」
 保健室のお姉さんはオレ達の間に入ってこう言った。
「そうね。ぶつけたのは頭だから、診てもらった方がいいかもしれないわね」
「ほら、先生もこう言ってる」
「う……」
 先生と真ちゃんには敵わない。オレは真ちゃんに連れられて、放課後、病院へ行った。
「もっと早く診てもらいたかったのだがな」
「いいってば、真ちゃん……」
 それ、何度目の台詞?
 あ、スマホ。センパイ達からだ。
『高尾、大丈夫か? 早く良くなれよ』
『何の異常もないといいな。秀徳バスケ部はお前のこと、頼りにしてるからな』
『果物でも持ってきてやろうか?』
「……ぶっは!」
「何がそんなにおかしいのだよ。高尾」
「ううん。何でもない」
 今度はうれし泣きしてしまいそうだった。オレの涙腺、緩みっぱなし。

 高尾が泣きながら笑っている。スマホ見て。
 何が書いてあるのかある程度は察しがつく。見ないようにはしていたが。
 本当にこいつは……。
 愛嬌があって可愛げもある。
 そりゃ、憎まれていたことを告げられた時にはショックを受けたが……それも高尾には違いない。
 ありのままの高尾を受け入れよう。
 オレは、高尾があまり好きではなかった。――入学当初は。
 では、今は……?
 今は……すまん。オレにも説明しがたい。
 ただ、うるさいとか、そういう印象はかなり薄くなったことは確かだ。今は、こいつがいないと少し、寂しい。
「早く良くなれ。高尾」
「もう、真ちゃんてば、こんな時にデレるんだから」
 高尾は異常なしの診断をもらって帰ってきた。確かに、そう大したことはないだろうなと思いつつ、オレも診断を待っていた。
 オレは、何でこんな風に変わってしまったんだ……?
 太陽が出る時間が長くなった。
「まだ明るいね。真ちゃん」
「ああ……」
「ね、オレ達、もう手遅れかな?」
「何が?」
「友達やんの」
 馬鹿を言っちゃいけない。オレは、お前が折れてくるのを……ずっと待っていたんだ。オレのところに来るのを、ずっとずっと待っていたんだ。
「手遅れでは……ないのだよ」
「ほんと? 真ちゃん!」
 高尾が胸に飛び込んできた。オレが――密かに待っていた瞬間だった。


後書き
これ、色違いなんですよね。
『その感情は墓まで持って行け』の続きです。
なんだー、ちっとも手遅れじゃないじゃん。ラブラブじゃーん。あー、砂吐きそう。でも、そんな緑間と高尾が大好きでっす!
2014.11.19

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